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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第2ステージ:丘陵
18/200

ジャミング -3-


「なんだろう」

「さあ」

「ケンカか何かかな」

「見に行くの?」

 意外に野次馬タイプだったのか――と、思ったのがわかったらしく、ショウは苦笑いした。

「止められそうなら止めるよ」

「……」

「なんでヘンな顔してるのかな。とにかく行ってみようか」

 すいときびすを返したショウは、アヤノがついてくることを疑っていないようなそぶりだった。事実アヤノもつられたように歩きだしていた。それに気づいた時は思わず自分に呆れたものの、何が起こっているかに興味がなくはなかった。

 大通りから横道に入る。現場は今までいたのとは違う出口近くだった。

 まず目を引いたのは、まっ黒なマントをまとう長身の後ろ姿だ。腰にちらりと見えたのは宝剣で、宝飾の色は青。“術士”だ。


 レベル39。名前は、“ダンテ”。


 彼に対する形で4人のグループが、何やら気圧されたような、それでも引くに引けないといった様子で彼を睨みつけている。周囲でそれを眺めている人影は少なくない。4人組の方はそちらもちらちらと気にしているようだ。

「――っせーな! お前! なんでそんなしつこく絡んできやがるんだよ!」

「絡んでいるわけではない」

 自棄気味の問いに重々しい低音が応じた。

「君達の行為は正当性を欠いていた。看過できない」

「だーかーらー。単に新しいオトモダチを増やそうとして声かけただけで、なんでそこまで言われなきゃならないわけ?」

「強要していると見えたが」

「は? なにそれ? 名誉キソンってやつだろ?」

「ありえねー!」

 4人組は必死だった。少なくともアヤノにはそう見えた。黒マントの術士がまったく揺るがないからだろうか。

 そう思ったところで、ふと、ショウの姿が近くにないことに気がついた。

「あれ……?」

「てかさ、いい加減にしろよ! それ以上言うなら違反報告すんぞ、マジすんぞ!?」

 1人がわめき始め、他の仲間が「そうだそうだ」と唱和した。違反報告というのがアヤノにはよくわからないが、さすがにそろそろ胸が悪い。一向に止めようとしない他のギャラリーもだ。

 小さく息を吸い、吐く。1歩、前へ出ようとして。

 その時だった。


「へえ、違反報告? 君達にそんなことできるの?」


 涼やかな声が響いた。いつそんなところに移動していたのか、ショウが向こうの建物の陰から姿を現す。4人組のすぐ近くだ。

「げっ……ショウ!?」

 明らかに彼らは動揺した。そんな4人にショウは意地悪く笑いかける。

「この間は人前で言わないでおいてあげたのに。まだ続けてたの? 仕方ないなあ」

「い、いや、これはその……っ」

「今そこでね、オトモダチに話を聞いてきたよ。誰とは言わないけど……いいアイテムを持ってたよね」

 1歩、また1歩とショウが近づくたびに、4人はそろってじりじりと後退する。

「偶然手に入れたレアアイテムだって。気になるよね? ――ああ、だから彼女とオトモダチになろうとしたのかな? オトモダチだったら、アイテムを“交換”することもできるからね」

「それって、レアアイテムの交換目的で“フレンド”登録させようとしたってこと?」

 アヤノが簡単にまとめると、奇妙な雰囲気が波のように広がっていった。「言ってしまったな」という無言の言が聞こえた気がした。

 ショウが、くっと口の端を上げる。

「最初に注意した時でやめておけばよかったのに。他のプレイヤーに迷惑をかけるのは良くないよ。もしも一定数以上の違反報告があった場合は、――わかってるよね?」

 4人は悔しげに歪めた顔を見合わせ、それぞれに吐き捨てた。

「そんなんじゃねーってんだよ! おれらもう行くぞ!?」

「っざけんなよバーカ!!」

 そうして逃げるようにフィールドの方へ駆けていく。ギャラリーもぽつぽつと欠け、徐々にいなくなっていった。

 肩をすくめながらショウがこちらへ歩いてくる。それを追うように“ダンテ”もこちらを向いた。短い髪色と同じ黒い瞳が、なぜかショウを見ていた。

「ああいう困った連中がたまにいるんだよね。アヤも気をつけた方がいいよ」

「……さっきいた全員が通報したら?」

 ショウはまだ気づいていないようだ。妙に険しい視線を気にしつつ、アヤノは疑問を口にした。ショウの笑みに皮肉が混ざる。

「すれば運営から警告、もしくはIDが削除されることになるけど。たぶんそうはならないよ。普通の人は面倒なんて避けるから。せめてあの4人が、これに懲りておとなしくなってくれればいいかなってところ」

「ふうん」


「――ショウという名前は聞いたことがある」


 ショウが立ち止まり、ふり返る。ダンテがゆっくりとこちらへ向かってきていた。


「“フレンド詐欺”とやらで有名と聞いた。本当か」



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