表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第12ステージ:天空
179/200

オラクル Ver. ゼウス -1-


 この“天空”のステージでの戦闘は、これまで以上に試行錯誤が必要だった。何しろ他にはない縦移動のフィールドだ。

 結果、“オラクル”への道中は普段とは違う布陣をとっている。視野の広いショウが先頭を進み、運動能力の高いアヤノとアルが後衛を務める形だ。万一ユーリとダンテが落下しても対応できるように。

「つかさーそれじゃあオレらが落ちたときどうすんだよ?」

「信用してるんだよ。アルなら、自分でなんとかできるでしょ?」

「お……そうか? そういうことか!?」

 そしてショウは相変わらずアルをおだてるのがうまい。ダンテとユーリも同じことを思っているのが表情でわかる。知らぬは本人ばかりなり、か。

 もっとも、アルを信用しているというのはショウの本心なのかもしれない。

「そうよぉアルちゃん。信用してるから、落ちたらうまく受け止めてねぇ」

「それ以前に落下を避けるのが第一だ」

「やぁねぇダンちゃんマジメすぎなんだからぁ」

「ダ……!?」

「ユーリ、それ、おもしろい」

「アヤちゃんは面白いならちゃんと面白そうな顔してほしいわねぇ」

「今のってそういう話だったかよ?」

 他愛のない会話の合間も、皆気を抜いているわけではない。その証拠に、一瞬影が差しただけで全員が一斉に反応する。


魔法マギア:ソーク!』


魔法マギア:ケラヴノス』


 ユーリとダンテが立て続けに魔法を放った。前者はサソリ、後者は鷲に向けて。

 バランスを崩しよろめいた鷲の、羽を目がけて銃弾が飛ぶ。アヤノもすかさず戦輪を投じた。そして、とどめとばかりにショウの火炎魔法が炸裂する。


魔法マギア:フロガ!』


 鷲が墜ちる。その影が消えてなくなるまで、のんびり待ってはいられない。

 新しく生じた影――それを見て、アヤノは思わず顔をしかめた。

「出た」

「“セイレーン”!」

 ショウが警告の声を上げる。即座にダンテが宝剣を上げた。


『クラティラス!!』


 見る間に迫ってくる、雀ほどの大きさしかない鳥の、空を覆わんばかりの大群。それを範囲攻撃で一気に焼き払う。

 こぶりな体がぼとぼとと墜ちる。笛のような綺麗な音が方々で響くけれど、聞き惚れている場合ではないのだ。セイレーンはただの鳥ではなく、人間の女の顔を持ち、麻痺効果のある歌を歌う。先手をとって一掃しないとけっこうな足止めを食らってしまう。

「ていうか、何度聞いてもアレが“セイレーン”っていうの、違和感があるわぁ」

 ユーリが小首をかしげた。それを聞きつけたらしいショウが、ああ、とふり返る。

「今は海の魔物のイメージが強いと思うけど、伝承上最初に登場したときの姿はああいう感じらしいよ」

「ふぅん?」

「で……アヤは? 大丈夫?」

 不意に声が降ってきた。見上げると青い眼が気遣わしげな光を浮かべている。

 アヤノは実は、あれが――セイレーンが苦手だ。なぜだかどうしても、攻撃しようとする手が竦む。戦闘の勝敗を左右しかねないから皆にもそれは伝えてある。

「何が駄目なんだろうね。心当たりとかある?」

 問われて、一瞬ためらった。

 何度も遭遇してさすがに少しはわかったことがある。その解自体が不可解ではあるのだが、黙っていても仕方ないから、ひとまず口に出してみる。

「鳥」

「鳥?」

「小さい、鳥……の、姿」

「が、駄目なの? ――ああそういえば」

「?」

「前に言ってたっけね、『鳥を飼ってた』って。ひょっとしてそのせいなのかな?」


「……。え?」


 突然の、なにげないショウの言に、頭がまっ白になった。


 ――鳥。


 自分が飼っていた、鳥……?


「その色が好きだったって、確か……言ってた気がするんだけど……」

 再び目が合った。ショウも困惑の表情になっていた。

 アヤノにはそんな話をしたという記憶はなかった。けれど。

 知っている。

 それは自分の、とても、大事な――


「アヤ、いいよ。今はまだ」


 ふわりと頭を包まれて我にかえる。激しく高ぶった感情の波が引いてから、得体の知れない黒いものに浸されていたとようやく自覚した。

 ひたいに汗が浮いていた。瞬間的にだけれど、本当に気が変になるかと思った。

 なぜ、急に。こんな風に。

「どうしたよ? 大丈夫か?」

「体調不良ならば1度引き返すか」

「あ……、ううん、もう、」

 心配そうに声をかけられ平気だと返答しかけ――硬直する。


 いつの間にやら自分はショウの腕の中にいて。控えめに言って、非常に驚いた。

 あわてて離れようとしたものの、足元が不安定なものだから、うかつに身動きもとれない。


「うん、もう平気そうだよ。でも無理はしないでね。また何かあったら教えて」

「……あの、ショウ」

「それと。ありがとう」

 ショウはなおアヤノを引き寄せ、囁いた。


「今のでわかったんだ。僕達は、自分のことは思い出せなくても、他の誰かのことは思い出せるのかもしれないって」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ