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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第12ステージ:天空
178/200

コントロール -3-


 再びみたびと、繰り返し岩山に挑む。高所へ行くほどに足場は悪い。ただ、どんどん空が近くなっていく実感はあって、“天空”のステージ名に恥じないと思えた。

 そして、一定の高度まで上がると雲のかかるエリアがある。視界の悪い難所なので早めに抜けるのが定石だ。しかし困ったことに、アルが面白がってなかなか進まないという事態が、今まさに発生している。

「もーちょっとだけ! なーいいだろ?」

「却下する。自らリスクを上げるような真似をするな」

「やっと片手撃ち慣れてきたからさ? 視界悪いとこでも撃てりゃ完璧だろ? 練習しときたいんだよーダメかよー?」

「アルちゃんの甘え声って珍しいけど可愛くもなんともないわねぇ」

 横槍を入れるユーリとそれを睨みつけてむくれるアルに、ショウは、つい苦笑した。

 アルはいつでも楽しそうに戦う。見ているこちらまで楽しくなってくるほどだ。ダンテとユーリには同意を求められそうにないが。

 ただ、自分自身謎に思うのは、同時に生じてくる“誇らしさ”という感情だった。

 これはどこから来るのだろう。何を根拠にしているのだろう。


 取り戻すべき“何か”に、関係するのだろうか――?


「まあ……無理しない範囲だったら、少しくらいいいんじゃないかな。たとえば落下した先が雲海の中って可能性はゼロじゃないんだし」

 時を追うごとに“なぜ”が蓄積されていくものの、考えている素振りはできるだけ見せないようにする。ただでさえ普通の状態ではないメンバーに、余計な刺激を与えない方が良いだろういう判断による。

「ショウ! やっぱお前ならわかってくれるよなー!」

「お前が賛同するとは……」

「もうアルちゃんはここに置いてさっさと先に行っちゃえばいいの、にっ」

 ユーリが、振り上げた錫杖の石突きを岩肌にたたきつけた。間髪入れずアヤノが戦輪を投じ、貫かれた影が金属的な音を発する。毒サソリの断末魔だ。他にも、背後というか中空で、不穏な気配がする。

「鷲も来てるっぽいわよぉ」

「姿は見えるか」

「あそこ、影だけ」

「充分だろ!」

 止める間もなくアルが跳んだ。と同時に銃声が雲間から漏れ聞こえる。鳥がわめく。先制攻撃は無事成功したようだ。

「あれだけ正確にわかるのって野生のカンなのかしらねぇ」

 誰にともなくユーリがつぶやいた。ショウは失笑して肩をすくめた。

「アルは身体能力値が高いから、五感とか察知能力も多少上がってるはずだよ。アヤノもそうじゃない?」

「……そういえば。前より、よく見えたり、聞こえたり」

「ユーリも察知は早いみたいだけど、それは性格的なものかな。偵察仕様の“グライアイ”もあるしね」

「なんか……あれね。ショウ君の知識って、そこまでいくとマニアみたいだわ」

 ユーリは感心しつつ呆れた様子だった。

 しかしそれよりも、ユーリの隣のアヤノが。じっとこちらを見つめていることに気付いてはっとする。視線が言わんとするところはおそらく、“なぜ”だ。


 なぜ、“知っている”?


 思い返せば自分は、事前によほどよく調べなければ知らないような情報を多々持っている。それを疑問視しなかったのが不思議なほどに。

 ――“なぜ”が、積み上がっていく。

 ややもすると脳裏に何か閃きかけることがある。が、やはりそう簡単に思い出せたりはしないようだった。残念なことに。

「片してきたぜー」

 そんなところへ、鷲の啼く声をバックに負いつつアルが意気揚々と引き上げてきた。

「単独で倒したか。……そろそろのようだな」

「お? “オラクル”か? 最後のやつか!?」

「まだ早い。全員が適正値を満たすまでは我慢しろ。もうさほどの時間はかかるまい」

 アルとアヤノはすでに、オラクルに挑む上での適正レベルに達している。ショウとダンテがあと1。ユーリが2必要なので、ここからは優先的に経験値を獲ってもらう必要がある。

 それが終われば、いよいよだ。


「次って要するにラスボスだよな! どんなヤツが出てくんだろうな! たーのしみだなー!」


 視線を移すと、アルがきらきらしい表情でこぶしを握りしめている。いい加減斜面というより崖に近い傾斜で、足のみでバランスをとりながら。

「調子に乗って落っこちないでよねぇ」

「しかし、そうか。次で最後とは。なかなかに感慨深いな」

「……楽しみ」

 皆が口々に言い合う中、ショウは一瞬唇を引き結ぶ。

 胸中には期待と不安が同時に渦巻いている。やっとのことで、当初の目的まであと1歩というところまで来た、けれど。


「そうだね……あと少し、がんばろう」


 笑顔の裏で思う。彼らを導く先を誤ってはいないか。その正否はいずれわかることになるのか。


 わからないまま、皆をこの先へ連れて行くのか――?


「ショウ、なにぼーっとしてんだよ、早く行こうぜ!」

「感慨に耽るにはまだ早いぞ」

「あら、珍しく私よりも先にバテてちゃってたりぃ?」

「んなわけねーだろショウに限って!」

「……ショウ?」


 必要なはずの思考が途切れる。いけないとは思いつつ。

 皆があまりに生き生きとしているから、だから。

 つい、思ってしまった。


 とにかく“第13ステージ”へ。皆と一緒に。



 考えるのは――その後で――――





第12章2節 了

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