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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第12ステージ:天空
177/200

コントロール -2-


「おーい! ショウもアヤも早く来いよー!」

 はたと気付けばアル達3人がだいぶ下の方にいた。はぐれるのは困る。と、アヤノが口にするまでもなく、ショウが指で「下へ」と合図を送ってきた。

 その表情はなんともいえないものだったが、ともあれ。


「見張りは、前回から1人ずつずらした順にする。異論ないな」


 地上――もといセーフティエリアに到着後すぐに休憩ということになった。そうして見張りの2順目に、アヤノとショウが当たった。

「……静かだね」

「うん。そうだね」

 眠っているメンバーの呼吸だけが聞こえる。上空には相変わらず鷲が飛んでいるはずだけれど、啼き声も気配もここまでは届かない。だからこの会話は皆に聞こえているかもしれない。むしろ、聞こえているといいと思う。

「いろいろ考えてみた。わたしも。でも思い出せなかった、何も」

 ぽつりぽつりとアヤノはと口にした。わかっているのは何かを忘れていることだけ。それも今のところ、頭の中の空白部分としてしか認識できずにいる。

「うん……僕もそんなところ。特に戦闘に入ると、どうしても他のことは考えられなくなる……」

「……ごめん。戦ってる間はわたし、考えてる余裕ない……」

「ああいや、それは別に、仕方ないことだから」

 ショウが慌て気味に首を振った。こういう無防備な表情は珍しいから、思わず見入ってしまった。――という余計なことさておき。

「とりあえず、わかってるところから整理するべきかな。と言ってもとっかかりは少ないわけだけど」

「ハーデースのステージでわかった、あのこと」

「そうだね」

 かろうじて気付くことができた異常。“死”に対する意識の差異。ただ、定期的に確認しておかないと、それさえいつの間にか消えてしまいそうだ。

「『なぜ』ってことだよね。僕達はどうして、死んだものは還ってこないと確信できるのか。逆に僕達以外は、どうして死ぬってことに興味が薄いのか」

「ていうか……怖いことだって思ってない、気がする」

「怖い、か」

 ショウが視線を落とす。また上げる。


「つまりは僕もアヤも、死に恐怖を感じてる、ってことになるのかな。悲しむよりも先に。……どうして?」


 言葉が耳に入った瞬間。頭の芯が鋭く痛んだ。ひたいに嫌な汗が浮かぶ程度には。

「きっとその辺りが鍵でもあり、僕達にとって鬼門でもあるんだろうね。頭が思考拒否してるのがわかるよ。情けない話だけど」

 ショウもまた表情を歪めていた。アヤノはとにかく何か言おうと口を開きかけ。

 そのままはっと空を仰いだ。


「敵! 起きて!!」


 アル達が飛び起きた。こういうときの反応はさすがに早い。大挙して押し寄せてきたコウモリのような形の影の群れに、まっ先に銃弾が撃ち込まれる。何匹か群れを離れて襲いかかってきたのはアヤノが率先して斬り捨てた。


魔法マギア:スィエラ!』


 風の広域攻撃で黒い塊の一部に穴があく。が、まだ殲滅しきれない。

「急になんなのもう! フィールドではぜんっぜん出なかったじゃないよぉ!」

「泣き言を言っている間に少しでも数を減らせ!」

「アヤ」

 戦輪を手にしたところへ、不意にショウが並んでくる。早口に一言だけ囁いて離れていく。

 ショウに見えたかわからないけれど、アヤノは大きくうなずいた。そうして“モザイク”の群れを睨み上げる。

「邪魔、しないで」

 いつもいつも大事なことを考えているときに現れるのを本当にやめてほしい。――心の片隅にちょっとばかり、邪魔が入ってほっとしたというような気分がなくはなかったが――そんなことでは駄目なのだ。戦闘に気を取られて考えるべきこと自体を忘れた、なんてことのないようにしなければ。絶対に。

「よ……っと、これで終いだな!」

 最後の1体をアルが仕留めた。アヤノは思わずため息を落とす。いわば戦闘本能にセーブをかけた状態だったため、いつもよりかなりしんどかった気がする。

「ん、どーしたよアヤ?」

「……。なんでもない」

「ショウ、お前はまだ休息が不充分だったろう。休むのであれば俺が見張りに立つが、どうする」

「ああ、そうだねありがとう。じゃあ甘えさせてもらおうかな」

 ショウは笑顔を作って見せた。そのさなか、視線だけが一瞬こちらを向いて、アヤノの眼を捉えた。

 視線が訴えてきたのがわかった。つい先ほども約束の時にも、重ねて口にした言葉だ。


 ――忘れないで――


 他の皆は結局、先のアヤノ達の会話などなかったかのようにふるまっている。聞こえなかったのか、あるいは聞くつもりがないのか。

 いずれにせよ、失った何かを取り戻せるかどうかは多分、アヤノとショウにかかっているのだ。



            * * * * *




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