オラクル Ver. ハーデース -7-
「アヤ! 下たのむ!!」
アルの声が降ってきた。意味はわかる。踏み込んで体ごと回転をかけ、骨の巨人の下肢に斬りつける。
「行っくぜー!!」
頭上の銃声と共に巨人の体が傾いた。
追い打ちをかける。刀を大腿骨に打ちつけ、もう片方の手で戦輪を投げ上げる。
巨人の断末魔に、胸の昂揚を覚える。
「倒した」
「次の来てっか!?」
「いる、あっち!」
「よっし!」
場所を移す。次の敵は。その次は。
とにかく倒せ。すべて倒せ。
倒せ、倒せ――!
「これでっ……ラストだ!!」
アルが最後に残った骨オオカミのひたいを撃ち抜いた。これで敵残数は1だ。
「「ボスは!?」」
アヤノはアルと一緒にふり返った。
それはちょうど、ダンテが氷の魔法を受け損ね、大きく肩を裂かれた瞬間だった。
「!」
「おい大丈夫かよ!」
「こっちだ!」
動く影とダンテとの間にショウが飛び込み、さらに逆方向へ駆け抜けていく。金色の眼はそれを追って動いた。その間に、ダンテが膝をつきながらも宝剣を握り直す。
『魔法:セラピア』
回復魔法特有の光が散るのを一瞬だけ視界に収め、アヤノもケルベロスの眼に向かって駆ける。
ダンテは高位の回復魔法“サブマ”を使わなかった。この分ではおそらく、魔力ゲージがほとんど切れている。もう魔法壁の防御も当てにできない。
「すまない……配分を誤った!」
「ここまでみんなを護ってくれたんだから、充分だよ! あとは自分の身を守って!」
跳び回りながらショウが叫んだ。
信じたとおり、守ってくれていたのだと確証を得て、今度は自分達の番だと一層奮い立った。
「やろう、ケルベロス」
「おうよ!」
「アヤ、アル! 逆サイド!」
ショウが指さした方向。回り込んで、曲刀を片手持ちにする。
「戦輪、いきます」
同士討ちにならないよう、宣言の上で投擲する。眼の付近を狙ったつもりだが手応えはよくわからなかった。これはなかなかやりづらい。
「魔法、来る」
「眼を見失わないように気をつけて!」
3つある首がてんでに魔法を吐き出す。避けながら観察する。が、困ったことにこれまでの敵とは違った。規則性が見いだせないのだ。
これまでの敵の攻撃は、ある程度タイミングや攻撃の順番が決まっていた。しかしケルベロスの場合は不規則すぎる。いつこちらから攻撃すべきか、判断しかねる。
と。
『魔法:アフティダ!』
ショウの手元から光が奔った。アヤノは少し驚く。空系攻撃魔法は有効範囲がピンポイントに近い。相手が見えない状態でヒットさせるのは相当難しいはず。
そう、思っていた。
「あ……!」
「見えた!!」
アルが跳んだ。光線はダメージにこそならなかったものの、数秒間辺りを照らした。
くっきりと浮かんだ輪郭――その、向かって左の頭部に銃口が届く。眉間に弾丸がめり込むのがわかった。初めて、ケルベロスが怯む様子を見せた。
すかさずアヤノも斬りにかかった。もう光の効果は切れかかっているがもう1度くらいは。
『魔法:メテオリティス!!』
声のした方へ視線を投げると、魔力回復速度を上げる薔薇の紋章を纏い、ダンテが宝剣を手に立ち上がった。
すぐに視線を戻す。流星のように光が降り注ぐ中に巨大な犬の姿がある。
逃す手は、ない。
「ダンテ! みんなも無理しないで!」
ショウが叫んだ気がしたけれど止まることなく駆けて跳んで、斬り続ける。倒さなければこちらがやられる。
「う、おっ」
まん中の首が雷を放った。避け損ねたアルが脇腹を打たれ、顔を歪めて膝をつく。
「オレにっ、かまうな!!」
アルは膝を折ったまま、その場で銃を構えた。アヤノは一瞬そちらに気を取られ、はっとして刀を上げた。
やられた。左腕が炎に焼かれ力を失う。
直後にその首をショウが切り落としたけれど、残る首は、あとふたつ――
『魔法!:エレフセリア!!』
耳に入ったのは馴染みのない詠唱だった。唱えたのはユーリだ。エリア全体に光が満ちて、焼けたはずの腕がみるみる復元していく。さすがに、驚いた。
「パーティ全員の、完全回復……! いつの間に!」
こちらも驚愕の表情のショウからユーリの方へ視線を移す。ユーリは笑った。先ほどアヤノを助けてくれたときと同じくらい得意げに。
「私の魔法はこれで打ち止め。あとのことはよろしくねぇ?」




