オラクル Ver. ハーデース -6-
ともかく自分は自分の仕事をするだけだ。ダメージで足が止まりかかるオオカミに向かい、アヤノは刃を横に構えて突撃した。
前脚1本。確かな手応えがあった。
『魔法:ケラヴノス』
『使役獣召喚:ヒドラ!』
「どうしたノロマ野郎! こっちだ!」
各々の戦闘の気配を耳だけで追いかけつつ、返す動きで骨オオカミの顔面を割った。
即座に体を返す。飛びかかってきた2体目のオオカミをステップでかわし、上段から思いきり斬り下げる。ギャ、と潰れた声を残し2体目が地面に突っ伏した。その頸椎を断ち、銃声のする方へ視線を投げる。
と、巨人に対するアルの背後で、別の大きな影が立ち上がった。
『魔法:スピサ!』
アヤノが駆け出すより早く、骨巨人の顔面に火球が直撃した。よろけた巨人に、音を聞きつけたらしいアルが一瞬だけ目を向けた。さすがショウだ、うまく注意喚起をする。
「アル、うしろ手伝う」
「たのむ!」
背後でぶるぶると頭を振る巨人の、臑の骨に一太刀。
よろけたところで後方に回り、背中を踏んで頭上まで跳ぶ。頭蓋後部の割れ目に刃を突き立て一気に引き上げれば、割合簡単に左右に割れた。
「やった」
「っしゃー次ぃ!」
「アルちゃん右見て右!」
息をつく暇もない。ユーリの叫び声でとっさに前方へ飛び込むと、暗い色の稲妻が背をかすめた。ダメージは回避したものの肌にビリビリと衝撃を感じた。
「っひゃーすげぇな」
「アル、ダメージ」
「そんなマヌケに見えるかよ! 今のはボスの攻撃か?」
「まだだ!!」
今度はダンテの声がして。ふり返ると、アヤノの目の前に氷塊が迫っていた。
「!?」
『使役獣召喚:プロヴァート』
それを防いでくれたのは金毛の羊だ。防護膜が消えるのを待たずに直角方向へ逃れながら、アヤノは感謝の合図を送る。手を上げて応えたユーリは得意げに微笑した。
「こっちでも、オオカミ1体やったわよぉ」
「今度はあっちだ! 行くぞアヤ!」
目ざとく向こうの端に影を見つけ、アルが駆けていく。アヤノは追いかけながら横目に様子を窺ってみた。フィールドの中央辺りでは大きなものが動き回っている気配がする。ダンテがそれを追いかけては魔法を放っていた。
そちらへは雑魚敵を向かわせない。再確認して視線を切る。
“ケルベロス”からの攻撃は、ダンテ達がきっと防いでくれるはず。
「今度はオオカミだな」
「1匹なら引き受けるけどぉ」
「いらねーよ!」
骨のオオカミは4体いるが、アルはやる気満々だ。アヤノの方でもこのくらいなら対処できる自信がある。
ただし、油断はしないように――冷静に――
「アル。2体ずつ」
「先に片したら手伝ってやるよ!」
「それは、こっちのセリフ」
「お? なかなか言うじゃねーか?」
アルが意外そうな顔をした。アヤノも、自分で驚いた。こんな挑発的なことを言うつもりはなかった、と思うのだが。
いや自己分析は後だ。無理やり思考を引き戻して戦輪を手にする。早く周辺を片づけて、ボスにかからなければ。
『魔法:クラティラス!』
耳に入ったダンテの詠唱には珍しいくらい余裕がなかった。ケルベロスの実体をなかなかつかめず狙いが定まらないらしい。そのためだろう、有効範囲の狭い空系の攻撃魔法は封印しているようだ。
横目に確認してから集中し直し、オオカミを斬っていく。その中の1体にクリティカルヒットが決まった。
背筋がぞくりと震えた。敵を――決して弱くない相手を、一撃で沈めるのはなかなかの快感だ。これを覚えると戦うのが楽しくなる。
また強い敵と戦ってみたくなる。
「2体、終わり!」
「こっちもだ!」
ここまでは順調だ。不意に飛んできた火球を横に跳んで避け、次の敵を探す。すると不意に、目の前を黒い影が覆った。
「また巨人――」
つぶやきにかぶせて、新たに現れた巨人が雄叫びを上げた。まだもう少しがんばらなければならないようだ。