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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第11ステージ:冥府
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オラクル Ver. ハーデース -4-


 アヤノは、内側から頭を殴られるような感覚に一瞬息を詰めた。

 1回、死ぬ、だけ。

 それは。そんなことは――


「違う!!」


 口を開くよりも早く、ショウが叫んだ。珍しく怒気のこもった一声にダンテさえ目を見開く。

「どうした、ショウ」

「なぁに、私、そんなに変なこと言ったかしら?」

 気圧された様子のユーリが上目がちにショウを見る。ショウはといえば何かを堪えるように唇を噛んでいた。なんだかとても、苦しそうだった。

「……ユーリ。“死ぬ”って、そんなに軽い話じゃ、ない」

 それきり黙ってしまったショウに代わってアヤノは続けた。たぶん言いたいことは同じのはずだ。ところが今度も、ユーリだけでなく、アルもダンテも不得要領な表情をする。

「そぉ? 死んだらレベルを落とされて、“はじまりの扉”に戻って再開。それだけでしょ?」

「まー、そりゃそうだよな?」

 ――違う。

「無論降格は避けるべきだ。しかし最優先事項は『最終ステージへ達すること』、そのためには、ある程度の覚悟をしておく必要もあるだろう」

 違う。そういうことではない。アヤノは強くかぶりを振った。

 どうしてそんな風に言うのだろう。死ぬということは、そこで終わりということだ。もう会えないということだ。今まで当前のようにそこにあったはずの質量や、気配や声や、あらゆるものが失われて、もう戻ってこないということだ。

 どうしてこんなにも認識がずれているのだろう。

 どうしてみんなは、忘れてしまったのだろう――


魔法マギア:エクリクシー!』


 詠唱。反射的にふり返ると、背後で炎が爆ぜた。その中でもがく犬型の影に、ユーリの召喚獣が飛びかかり、喉笛を噛みちぎった。

「進もう。敵は待ってくれない」

 すれ違いざまアヤノの肩をたたいて、ショウが順路の方へ駆けていく。皆にはまだ何も伝えられていない。けれど、いつ敵が出没するかわからないこの場所で、立ち止まっていられないのは確かなことで。

 アヤノはままならなさに眉根を寄せた。と、そこで不意に、ショウが見返った。


「話はあとで! ――みんな! 絶対死なせないからね!」


「は? なに言ってんだよ、死なねーよ!」


 間髪入れぬアルの返しで、ショウの表情が和らいだようだった。アヤノも大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。そうだ、皆も別に死にたがっているわけではない。それならとりあえず、覚悟が必要になるほどの状況にならなければいいのだ。そう自分に言い聞かせた。

「左奥になんか来たみたいよぉ」

「今度はオオカミご一行かよ」

「すまない。先ほどの戦闘で予定よりも魔力を消費した」

「なら、あいつらはオレに任せろ!」

「僕も行くよ」

 ショウが、前へ出た。自ら先頭に立って4体のオオカミの中へ斬り込んでいく。それを見たアルの顔がぱっと輝いた。

「オレも負っけねー!!」

「そこの勝ち負けを競うところじゃないって言ってるでしょぉ」

「――アイテム。いらないの渡しとく」

 3人が応戦を始める中、アヤノはダンテに声をかけた。先ほどドロップした魔力回復アイテムを送る。魔法を育てていないアヤノにはほぼ無用のものだから、折を見て回すようにしているわけだが。

 受け渡しを終えたところで、ダンテが手を上げて引き留めてきた。

「先ほどの話だが。お前には、ショウの言った意味がわかるのか」

 逆になぜわからないのかと問い返したいところだった。が、それどころではないのでひとつうなずくに留め、曲刀を上げて見せる。

「“オラクル”が、無事に終わったら」

「……そうだったな」

 ドン、と地面が揺れた。アヤノはとっさにショウ達がいるのとは別方向へ駆ける。

 巨人が1体。足止め、あるいは倒せるものなら倒してしまいたい。その役割は自分の方が適任だ。

「そちらはたのむ! “モザイク”と魚には俺が対処する!」

 背中にダンテの声を聞く。同じように考えてくれたようで、そうとわかれば迷いはない。両手で柄を握り直し、足首の継ぎ目に斬りつけた。ぐらりと傾いた巨体を見上げ、膝を折って力を矯める。

 真上に切っ先を向けてそのまま跳ぶ。

 貫く。

「アヤ!」

 背後で銃声が響いた。頭上をかすめた弾丸は頭蓋のひたいを直撃したようだ。

 アヤノは抜いた刀を再び突き上げた。そうして巨人が動きを止めている間に一瞬だけ視線を投げる。

 遠目ながらショウの姿が見えた。捉えたのは背中だけだったけれど、これだけ距離があっても、鬼気迫る空気を感じられる気がした。



            * * * * *




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