シェアリング -3-
『……ワープ』
『ワープ!』
黒い石の鍵を使い、皆が次々にステージを移動する。アヤノはうしろから2番目に到着し――移動先の光景に絶句した。
空が黒い。本当にあれが空かと疑うほどだ。逆に、足下に広がる岩と砂地は淡い白に輝いている。その強すぎる対比もあって、異様な圧迫感があった。感覚としては洞穴や迷宮のステージのような閉鎖空間にも近い。
「なんか……地獄、みたい」
「うん。ほとんど正解」
思わずこぼしたつぶやきに答えが返る。横目に窺うと、ショウは薄く笑みを浮かべていた。
「第11ステージは、死者の王ハーデースが守護する“冥府”のステージ。ハーデースはポセイドンと並ぶ主神の実兄で、天、海、冥界と世界を3分したうちの1人。かなり上位に立つ神様だね」
やはり、とダンテがうなずいた。その横ではアルが興味深げに辺りを見回している。
「ちなみに冥府っていうのはいわゆるあの世だけど、地獄というよりは、単に死者の行き着く先って位置づけかな」
「へー、あの世ってこんななのか! 血の池とか針の山とかはねーんだな!」
「あった方がよかった?」
「なくたっていいけどよ、あったらそれっぽいかもな!」
「そうしたものがあったなら、このステージにおいての環境的ハンデになっていたのだろうな」
「あ、そのことなんだけど。少しいいかな」
ショウが軽く手を上げながら言う。ダンテが視線で先をうながし、アヤノも他の3人も、ショウに注意を向けた。
「血の池や針山の代わりに、ところどころ川が流れてる。それに気をつけて。間違って踏み込んだら、生命力をごっそりやられるよ」
「……川」
この近く、セーフティエリア内にそれらしきものは見えないから、フィールドより外にあるのだろう。
「川とはどのようなものだ? なにか特徴が?」
「ぜんぜん。“忘却の川”、って名前はついてるけど、見た目は普通だし、あまり大きいものじゃないはず。……だからこそ厄介なんだよね」
「そういうことか」
火山ステージの溶岩溜まりなら、見るからに危険だからきっと避けて通る。が、ただ水が流れているだけなら。
「うっかり、油断しそうな気、する」
「なるほどねぇ。せいぜい注意しなくちゃねぇ」
『魔法:スィエラ』
唐突にダンテが風の広域攻撃を放った。アヤノも気配は感じていたけれど、セーフティエリアで出現した敵なら迷うことなく“モザイク”だ。魔法一撃で一掃できることもわかっていた。
「やはり、属性の制限なく魔法を使えるのは有難い」
「動きもな!」
アルが嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。前のステージでの動作制限がよほど堪えたらしい。アヤノも軽く足踏みしてみる。水の中での動きも慣れればそれなりに楽しかったけれど、普通に動ける方が断然ストレスフリーだ。
「アイテム補充の後にフィールド出る。何にせよ様子を見なければ」
「おうっ」
「はいはいわかったわ」
「了解」
「あ、そうだ」
ふとショウがふり向いて、こちらを見た。
「“戦輪”も補充しといていいと思うよ。さっきくらい使えれば、もう心配ないんじゃないかな」
「!」
一呼吸置いて、アヤノは視線を落とした。――頬が熱い。たぶん赤くなっているのではないだろうか。
「そう言ってくれると、安心する」
「そっか。がんばって」
まだまだ気を抜いて良いレベルではないにせよ。こんな風にショウのお墨付きをもらえれば、多少は自信になりそうだ。
「15分を目安に出立する。各自速やかに準備を整えるよう」
改めての号令。それぞれが必要なもののために動く中、ふとアヤノは肩越しにふり返った。
1人、ショウがまだその場に留まっていた。何か考え込んでいるように見えたが、目が合うと、「なんでもないよ」とでもいうように笑って手を振ってきた。
それは同時に、放っておいてほしい、という主張にも見えた。
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