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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第2ステージ:丘陵
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ジャミング -1-


 暗い部屋にコール音が鳴り響いた。PC画面しか明かりのない中で手が伸び、床をさぐって端末を取り上げた。大きなヘッドセットを半分ずらし無理やり耳をあてる。

「おじさん?」

『よう。さっきは手ぇ離せなくてな、出られなくて悪かった。どうした?』

「……困ったことになってるコをみつけた」

 手短に状況を説明する。通話相手からは絶句した気配が伝わってきた。

 少しして、押し殺したような声が聞こえた。

『本当なのか』

「本当。こっちでももう少し本人に事情を聞いてみるから、とりあえず登録情報と履歴の確認してみてくれないか」

『わかったよ。該当者の登録名は?』

「“アヤノ”。俺のフレンドリストに入ってる女の方」

 もう一言二言のやりとりをして、通話は切れた。彼は大きく深呼吸をすると、またヘッドセットを元に戻した。



            * * * * *



 第1ステージの“はじまりの扉”の前で、アヤノはぼんやりと立ちつくしていた。横では眉根を寄せたアルがしゃがみこんでいる。

 ショウが「待ってて」と言い残しどこかへ姿を消してからそろそろ15分ほどだろうか。そう思って時計表示を見ると、まだ5分しか経っていなかった。

「遅いな、ショウの奴」

 アルも気分は同じらしく、いらいらと頭をかきむしって立ち上がる。それを見てアヤノは思った。

 どうしてショウがあんな風にあわてるのだろう。どうしてアルがこんな顔でぐるぐると歩き回っているのだろう。当事者の自分ではなくて。

「――お待たせ」

 ショウがどこからか小走りに戻ってきた。別れる前と変わらない硬い表情だ。そこへアルがくってかかった。

「どこ行ってたんだよ!」

「“あっち”。運営会社に連絡取ってきたんだ」

「あ、ああ、そういうことか」

「……」

 アヤノも1歩、前へ出た。表情をつけたつもりはなかったが、心細そうにでも見えたらしく、ショウはなだめるような笑顔で手を振った。

「急かしておいたから、返事はすぐに来ると思う。それまでちょっと休んでようか」

「そうだな。焦ったって仕方ねーんだよな……」

 アルがぼそぼそとつぶやいた。その頭を、いきなりショウの指がはじいた。

「君はそろそろ帰りなよ。時間だろ」

「うぇ!? なんで知ってんだ!」

「知ってたっていうか、カン。でもやっぱりね。“オラクル”のけっこう前からインしてたでしょ」

「で、でもよ! このまま放っといてオレだけ帰るってのも、なんか……」

「だいじょうぶ。君がいたところでどうにもならないよ」

 さくりと辛辣なセリフを吐いたショウにアルは言葉を詰まらせた。ばつが悪そうにちらりとアヤノを見てから、がっくりと肩を落とす。

「あーあ。わかったよチクショー」

「うん良かった。じゃあまたね、アル」

 アルはやけくそ気味に「ログアウト!」と叫んで、消えた。

 それを見届けて、ショウの視線が動いた。

「なんというか……大変なことになっちゃったね」

「ショウ。わたし」

「心配ないよ。いざとなれば、運営の遠隔操作で強制ログアウトって手があるみたいだから。落ち着いて待とう」

 言いたいのはそういうことではなかった。

 アヤノは巨大な扉をじっと見上げた。腰の鍵に触れる。2番目の、緑の石の鍵。

「なに? ――え、もしかして」

 ショウは軽く目を見張り、ちらりと扉を見やってから、困った顔になった。

「あまり動かないでほしいとは言われてる。なにしろ非常事態だからね。下手なことすると状況が悪化しないとも限らないし……」

「行くだけでも?」

 せっかく開けた新しいステージだ。フィールドで戦うのは無理にせよ、行ってみるだけでも。空気を感じるだけでも。それさえ無理なのだろうか。

 そんな思いで扉を見上げ続けていると、小さなため息が聞こえた。

「どうしても、行きたい?」

 アヤノはぱっとふり向いて力いっぱいうなずいた。ショウは気が進まない様子ながら、自分の鍵を手に取った。

「何も言わずに1人で飛んで行かなかっただけマシ、かな」

「あ」

「ごめん、今気づいたって顔しないで、飛んでかないで。いっしょに行くから」

「……」

 アヤノの中で疑問符が渦を巻いた。『いっしょに』行って、ショウには何かいいことがあるのだろうか。数時間前まで見ず知らずの他人だった自分にこれだけかまってどうするのか。何か意図が、思惑があるとでもいうのだろうか――

「? 今度はなに?」

「……。なんでもない」

 聞いてみたい気もしたが、やめた。

 疑問やら感情やら、いろいろなことを今は保留しておく。自分にはまだ指南者が必要だ。何かあったとして、最初から信用しすぎなければ大丈夫のはずだ。たぶん。

「そう? ……門は1人ずつしか通れないから、今度は僕が先に行くよ」

 ショウは緑の石の鍵を取り、扉に向けてかざした。すっと息を吸い込む。


『ワープ;セカンドステージ』


 ぱっと扉から光が散った。思わず細めた目の前からショウがいなくなる。負けじと同じように叫んだ瞬間、視界がまっ白に塗り潰された。



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