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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第10ステージ:海底
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オラクル Ver. ポセイドン -4-



魔法マギア:プリミラ』


 ダンテの引き起こした水の渦に巻かれサメはてんでに身をよじった。与えたダメージ量はそれほど大きくない。脇目もふらずショウを襲いに、という様子でもない。

 だから、たぶんだけれど、こちらは“モザイク”ではない。

 判断と同時にアヤノは地面を蹴った。曲刀タルワールを握り直す。体にかかる水の抵抗を計算しながら、回転をかけるように斜めに振り抜く。

 エラが大きく裂けた。そこは急所のひとつらしい。サメは激しくばたついた。

「逃がさない」

 そのままサメの真下へ潜りこみ、真一文字に首を斬る。

 再びの水流。渦の中には帯状の赤が混じった。

 1体が完全に動かなくなったことを確認し、横目に他の様子をうかがう。と、そこへ黒い影が勢いよく飛び込んできた。

「“モザイク”、片づいたよ」

「! だいじょうぶだったかよ!」

「そんな簡単にやられたりしないって。それよりアル、目の前に集中!」

「おー!!」

 触れて平気ということなら、アルの攻撃力も相当なものだ。ショウとのやりとりの間も響いていた銃声がやんだかと思えば、2体目のサメが力を失いぷかりと浮かぶ。その向こうではショウが剣を振るうのが見えた。上からユーリの大蛇も加勢して、ほどなく3体目も力尽きた。

「進むぞ。この先も敵をよく見て戦え」

 ダンテが注意を促した。するとユーリが、ふと肩をすくめた。

「ずっとこんな風に前もって判別しなきゃいけないって、結構面倒ねぇ」

「必要なことだ」

「それはわかってるけどぉ」

「――大丈夫」

 やけに明瞭な声が割り込んだ。

 アヤノがふり返ると、視線は自身の足下に落としたままのショウが、それでもはっきりと言い切った。


「心配しなくて大丈夫。まずは僕が囮になればいいんだ。“モザイク”は必ず僕の方に来るってわかってるんだから」


 ユーリも、一瞬黙った。すぐに平然とした顔に戻ったけれど、灰色の眼は微妙にあさっての方を向いている。そしてアヤノはといえば、なんとなくむっとしてショウを睨んだ。

「囮なんて」

「それが1番合理的。だよね、ダンテ?」

「……そうだな」

「待てよ! んなの納得できっか!」

 アルも沸騰寸前のまっ赤な顔で文句を言おうとした。が、ダンテはそれを「聞け」の一言で黙らせた。

「全員の安全を確保するためには有効な手段だろう。ショウ自身それを望むというのだから、願ってもない」

「でも!」

「ただし、それはあくまで“判断を下す”時点までの話だ」

 今度はショウが、はたと目を見開いた。ダンテはそれを見返しながら腕を組む。

「戦闘は単独では行わせない。必ずサポートをつける。このステージでは制限が厳しいが、次からは誰であれ、その役割をこなすことができるだろう」

 そこで言葉を切り、改めてショウに向き直った。

「このことについて異論は認めん。統率を俺に託したというからには、従ってもらう」

「ダンテ」

「思うところがないではない。しかし、そもそもはお前が言ったのだろう。『全員で最終ステージへ到達する』のだと。全員とはお前を含めてのことだ。その約束を違えることも、パーティメンバーの1人に過度な負担を負わせることも、“正義”に悖る行為だ」

 アヤノは知らず知らずうなずきながら話を聞いていた。アルも、見直したようなやや悔しいような、そんな顔でダンテを凝視している。

 ところが。


「“正義”、とか……そういうの、いい加減鬱陶しいよ」


 他ならぬショウの纏う空気が急激に冷えていった。自分から数歩下がって、アヤノ達との距離を広げる。

「僕なら、自分の身は自分で守れる。むしろ自分より弱いひとがそばにいるとやりづらい。できるだけ邪魔しないでくれた方がありがたいんだけどな」

 一瞬だけ頭の中が白くなった。

 しかしすぐに、アヤノは思い直す。――思い出す。遠くない昔のショウの呼び名が、“フレンド詐欺”だったこと。なぜそんな風に呼ばれていたかという理由も。

 ショウには悪いけれど、アヤノはもう知ってしまっていた。彼が平気で自分から悪役になろうとする性分であることを。


「なあショウ。お前、ずいぶんウソが下手んなったよな?」


 他の皆も少なからずそう認識している、はず。その期待に応えるように、アルがあきれ顔で言ってのけた。ショウは、表情は変わらないながらぴくりと肩を震わせた。

「ま、仮に本音だとしたってオレはかまわねーぜ。『いつかオレがお前を助ける』んだからな! なめんなよオレはしつけーぞ!」

「アルちゃんそれって自慢なのかしら」

「ともかく、そういうことだ」

 ダンテが微笑と共に身を翻し、これ以上の反論は聞かないとばかり背を向けた。

 アヤノはちらりとショウを窺った。が、ちょうどアルがショウの腕をつかんで走り出したため、どんな表情をしていたのか、はっきりと見ることはできなかった。

「ほらほら行こうぜ! この“オラクル”さえクリアすりゃ、オレだってお前のの援護に入れるようになんだからな!」

 アルの方はいつもの2割増しほど元気になったようだ。つられてショウも元気になってくれればいいのだが――まあそれは難しいだろう。

 そんなことを思いつつ、アヤノもまたダンテを追って足を踏み出した。



            * * * * *




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