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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第10ステージ:海底
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オラクル Ver. ポセイドン -2-


 店員オニの居ぬ間にアイテムを補充し、すべて準備は整った。

 アヤノ達はオラクルエリアを目指して移動を開始した。先頭に立つダンテが肩越しに指示を飛ばしてくる。

「魔力とアイテムは、オラクルエリアまでできる限り温存する。通常フィールドの敵は可能な限り回避する。貝を踏まぬよう気をつけろ。アヤノとアルの2人は、例の敵相手には無理をするな」

「ん」

「んな何度も言わなくてもわかってるっての!」

「アル」

 不機嫌全開なアルの頭を、ショウがうしろからぽんとたたいた。

「怪我しないようにね」

「! おう、わかった!」

 ころりと態度が変わったのを見てユーリが呆れた息を吐く。アヤノも思わず苦笑しかけ、しかしすぐに後方へ跳んだ。

 足下で「ガチン」と硬い音。水底の砂の中に隠れていた貝が勢いよく閉じたのだ。これが罠でもあり、加えてレーダーのような役割も持っているらしく、覿面に他の敵を呼び寄せる。

 案の定あっという間に黒い気泡が現れた。数は2つ。さすがにまだセーフティエリア付近で出現率が低い。

「足止めする。その間に振り切るぞ」

 ダンテが宝剣を抜いた。他の皆が足を速めた、その後方へ切っ先を向ける。


魔法マギア:カタラクティス』


 水壁と、最後尾のショウをちらりとだけ見返って、アヤノはまた走る。敵が追ってくる気配はなかった。うまく距離をとることができたようだ。

「ユリウス、この先の状況はどうだ」

「はいはいちょっと待ってねぇ」

 となりではユーリが自分の画面を確認している。ダンテの指示で、出発前からすでに“グライアイ”を放ってある。

「この先しばらくは何もいなさそうよ。後から湧いて出るのまでは捕捉できないけど」

「そうか。ならば召喚獣は呼び戻していいだろう」

「りょーかい」

「――おい右! 来たぞ!」

 不意にアルが銃を構えた。銃口の先ではもう1体のサメが牙を剥きだしていた。


「アル、ストップ!!」


 実際攻撃を仕掛けたのはアルよりショウが先だった。水圧の影響など受けていないかのような跳躍と、斬撃。大ダメージをたたき出すと共にサメののどがぱくりと割れる。負けじと追っていったアルも、黒い腹の真下で引き金を引いた。くぐもった銃声がいくつも聞こえてくる。サメが暴れてたたきつけようとする尾鰭をかわし、また撃ち込む。

 あれはこのまま2人に任せて問題なさそうだ。アヤノはひとつうなずくと、曲刀タルワールを無造作に地面に突き立てた。大きな泡が、ひとつぷくりと湧いて浮かぶ。うっかり足を取られてはかなわないから、他にも貝が隠れていないかと、さらに地面を見渡してみる。

「おっし、やったぜ!」

「新手が出現する前に移動するぞ!」

 ――幸いなことに、その後の進行はスムーズであった。ショウを狙う敵も今のところ1体きり。この調子でできるだけ出現しないよう祈るばかりだ。


「なーなーそういやさ、例の敵、“さわれないヤツ”とか“ショウだけ狙うヤツ”とか呼び方長くね? なんか適当にニックネームみてーなのつけとかねーか?」


 アルが唐突に言い出したのはそんなさなかだった。

 アヤノは一瞬きょとんとした。しかし考えてみれば確かに、長い呼び名はとっさの時に皆に伝えづらい。短く統一する方が後々のためになるかもしれない。

 その思考は、ダンテともショウとも一致したようだった。

「できるだけ短い呼び方がいいよね」

「かつ、確実に判別できる表現でなければ。下手な一般名称では支障を来しかねない。それを踏まえた上で、何かあるか」

「なんかめんどくさいわねぇ」

「……あ」

 うっかり声を漏らしてから、アヤノはとっさに自分の口を押さえた。が、もう全員の注目を集めてしまった後だった。仕方なく手を下ろして、あまり自信のないまま口を開く。

「大したことじゃないんだけど。“あれ”と戦ったとき」

「戦ったときに?」

「何か……聞こえた気が、する」

 少しでも離れればまるで聞こえない。接近戦にならざるを得ないアヤノだからこそ聞き取れたのだろうそれは、ざりざりと砂か何かが擦れ合うような、微かな異音だった。

 とつとつと説明をする間に、同じく接近戦専門のアルが「そういえば」という顔をした。どうやら自分だけの幻聴ではないと信じてよさそうだった。

「そっか、僕は気づかなかったけど」

「アヤノは耳が良いのだったな。もしもそれが本当ならば敵の判別が容易になる。できることならもっと早く聞いておきたかったが……」

「で? 結局どうするわけぇ?」


「…… “モザイク”」


 アヤノは、ふと脳裏に浮かんだ言葉をそのまま口にした。同時にモノクロの格子模様のようなイメージもよぎったが、なぜだかそれが、あの未知の敵のイメージにぴったりだと思えた。

 なぜそう思ったかは、よくわからないが――

「いいんじゃないのぉそれで」

「それならば聞き間違えることもなさそうだ」

 ダンテもうなずいて、視線を巡らせることで決定を宣言した。


「呼び方はそれで統一する。そしてこれ以降、“モザイク”の存在に気づいた場合はすぐに知らせてほしい。アヤノの言う“音”に注意だ」


 各々がうなずくと、ダンテは軽く手を上げた。次の敵が現れる前にこの場を離れようというのだろう。

 マップによれば、神殿はもうすぐそこのはずだった。



            * * * * *




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