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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第10ステージ:海底
150/200

オラクル Ver. ポセイドン -1-



「ショウ、あんなの気にすんじゃねーぞ? たまたまだって。ていうかオレには関係ねーから! 何があったって、オレはショウの味方だからな!」


 恒例のレベルアップに励む間、アルはショウに何度も同じことを言った。そのたびにショウは笑って見せていたが、いつまで経っても本調子にはほど遠いようだった。口数は少ないし顔色も冴えない。戦闘時の動きだけはいつもと変わらないけれど、それで心配の度合いが減るというものでもなかった。

 アヤノは、モヤモヤする思いをずっと抱えてきていた。ショウのことは気にかかる。が、何か言葉をかけようにも、あれから常にアルがひっついていてなかなか隙をみつけられずにいた。

「――そろそろか。各自、状況報告を」

 足下のサメの頭に宝剣を突き立てながらダンテが皆を見渡した。つられてアヤノも画面を確認する。いつの間にやら、全員が“オラクル”適正レベルに達していたようだ。

「魔力回復アイテムがなくなっちゃったわぁ」

「こっちはライフ回復、足りない」

「アイテム補給の他には」

「それは特にないんだけどぉ」

 ユーリが長い髪をかき上げながら、無邪気に首を傾けた。


「例の触っちゃいけない奴って、オラクルエリアにも出るのかしらねぇ」


 一瞬、ショウの表情が強張った。間髪入れずにその横からアルが何か言おうとして、けれどダンテが慣れたそぶりで遮った。

「最悪の想定はしておくものだ。いずれ遭遇すると考えておくべきだろう」

「フィールドにもそこそこいたしねぇ」

「そこそこじゃねーよ2回だけだったろ!」

 憤慨した様子のアルが吐き捨てた通り、“それ”の襲撃は2度あった。合わせて3体いた。ショウだけを狙い、触れるだけでダメージになる敵が。

 たった3体でも、こちらからは物理攻撃ができないので、魔法を多用することになってしまうのが厄介だった。一応、どう対応するかの話はついているのだが。

「方針は変わらない。触れられぬ疑いのある敵は、原則ショウに任せる。数の多い場合はユリウスに援護をしてもらう」

「……オレももっと、魔法覚えてみっかなー……」

 アルが打って変わって唸るように独白したのもこれで何度目かになる。それをショウがたしなめるところまでで一連だ。

「気にしてくれるのは嬉しいけど、慣れないやり方で対抗しようとしない方がいいと思う。アルなら、わかってくれるよね?」

「う……ま、まーショウが言うなら……」

「終わったか。では行くぞ」

 そっけなく踵を返したダンテに、ふと、ショウが何か言いたげな目を向けた。しかしややあって口から出たのはため息ひとつだけだった。言葉にするのはやめたようだ。少なくとも今は。

 ついついつられてアヤノも小さく息を吐く。

 これからどうしたものだろう。この状況で自分のすべきことは。できることとはなんだろうか――

「!」

 不意に視界を染めた黒色に、思わず立ち止まり目を上げる。それはショウ、ではなくて、歩をゆるめたダンテの法衣の色だった。

「調子はどうだ」

「……。いまいち」

「そうか」

「でも、やるしかない、かな」

 アヤノは遠距離攻撃として弱めの火系魔法ひとつしか持っていない。それなりに現状へのストレスは感じるけれど、それが自分で決めた戦い方だ。変えるつもりはない。それに、戦ってみてわかったこともあった。

「動きづらくても、当たれば攻撃力は前と変わらないみたいだし。……やれることからやってみる」

 自分の特性を生かすことができるなら、まだ救いがある。せめて戦うときの心構えくらいははっきりさせておこう。


「触れない奴には触れない。でも、他をちゃんとやる。ショウが触れないのと戦ってる間、他の敵は近づけさせない」


 言葉にして確認すると、ダンテが微笑を見せた。

「そうしてくれると助かる」

「ん。……ところで」

「なんだ」

「あとでちょっと、その……話、いい?」

 こちらから話を持ちかけるのは珍しいからだろう、ダンテの表情に不思議そうな色が浮かんだ。

「構わないが、今ではないのか」

「できれば後で。言いたいこと、まとめとく」

 我ながらこの程度の進言だけで緊張するのもどうかと思うが、慣れていないので仕方ない。はずだと思う。とにもかくにもダンテがうなずいてくれたので、今はここまでということにした。

 ダンテはアヤノから離れて先へ行った。と、そこへ今度はショウが並んだ。そうして何やら耳打ちしてくる。

「アヤ、これ。このステージでは役に立つかもしれない」

 促されたので右手を差しだせば、その中に硬い感触のものが押し込まれた。驚いて目を上げたアヤノは、その静かな笑みに、出かかった言葉を封じられた。


「僕はアヤのこと、信じてるよ」


 さらにそんなことを言われてしまっては――もう、至らない自分の象徴ですらあった“それ”を手に包んで、うなずくほかなかった。


「ありがと。……やってみる」




            * * * * *




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