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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第1ステージ:市街
15/200

オラクル Ver. ヘラ -8-


「パーフェクトクリアだー!!」

「うん。やったね」

「アヤお前ー、ホント運のいい奴だよな! 初めてで“オラクル”成功さして、おまけに“紋章クレスト”ゲットとかってよー!」

 アヤノもそれは同感だった。自分の手でとどめこそ刺せなかったが、得たものは大きい。レプタも経験値も“紋章クレスト”も。そしてそれらのような数値だけではなく。

 何よりこの胸の熱さが心地いい。ここへ来て良かったと、心からそう思えた。

「魔法、使えたんだ」

「一応ね。そういえばまだ言ってなかったっけ」

 アヤノはこくりとうなずいた。戦士・召還士もある程度の魔法は使えると、どこかでそんな話を聞いた覚えはあった。それでも実際目の当たりにした光景がまだ実感を伴わない。今も夢を見たかのように頭がふわふわとしている。

「火属性と空属性だけだけど。術士以外は2属性までしか魔法を覚えられないから」

「ふうん……」

「空属性ってやたら能力値タレンドくうらしいじゃねぇか。よくそんなの選んだよなぁ」

「なにしろ最強の攻撃魔法だから」

「……最強……」

「アヤも覚えてみる?」

 冗談交じりに尋ねられ、不覚にも、少しだけ悩んでしまった。

 それでも最後は首を横に振る。「だと思った」とショウが笑った。

 その笑顔はどことなく、それまでと違って見えた。


「……楽しかった」


 ぽつりとつぶやきが落ちた。アヤノは最初、それがショウのものだと思わなかった。

「ありがとう。ふたりとも」

「え。な、なにが」

「なんだよ急に。気味悪ぃな……」

 アルも眉をひそめた。が、ふと気がついたようにショウを指さした。

「あーけど、そういやお前って、オレらのパーティーといっしょにいたときはそんな楽しそうじゃなかったよな。なんか心境の変化でもあったのかー?」

 なにげない調子でそう言ったときだった。


「――そうかな。そんなことはないと思うけど」


「……。は?」

 一瞬のうちに、ショウの声音も表情も、感情を最低限までそぎ落としたようなものになっていた。唐突な変化にアヤノは戸惑う。それはアルも同様だったらしく、ますます怪訝そうな顔になった。

「お、お前。どうしたんだ?」

「別にどうもしないよ? さあ、これでステージクリアだ。ヘラの神殿に戻ろう」

 ショウは広場の中央を指さした。そこにはいつの間にか、ここへ来たときと同じ紫色の扉が出現していた。

「ヘラから“紋章クレスト”を受け取れる。アヤは第2ステージの“クレイス”もだったね」

「う……うん……」

「本当言うとね。アヤが1度も脱落せずについてこられるかどうか、ちょっとあやしいと思ってたんだ。ごめん。よくがんばったね」

 ショウの言葉も笑顔も、見えない壁一枚を隔てた向こう側に感じられた。

 アヤノ自身の高揚もいつしか冷めた。最後の最後で、こんなにも釈然としない展開が待っているとは思わなかった。

 しかしどういうことかと尋ねてみようにも、何をどう聞けばいいのかわからない。

 何度かは口を開きかけたものの。

 アヤノは結局、そのまま口をつぐむことを選んだ。



            * * * * *



 オラクルエリアへ移動したときよりも元の神殿に戻る方が早かった。扉から一瞬で居所へ飛ばされると、ヘラは待ちかまえていたように立ち上がり、両手を広げた。


『よくやってくれたな、そなたら。なれば、約束の通り報賞を授けようぞ』


 そんな言葉と共に、頭の中で「ぽんっ」とおなじみの音が響いた。

「アヤ。ほら」

 ショウがアヤノの腰帯を示した。そこには2つの鍵が並んで下がっていた。

 紫の石の鍵は第1ステージのもの。そして、緑の石がついているのが。

「これで第2ステージに行けるようになったよ。“はじまりの扉”に緑の鍵をかざせばいい」

「……ほんとに」

 鍵を手に取ってみた。じわじわと胸にこみ上げるものといっしょに軽く握りこむ。

 これで、ひとつ上に行ける。

「やった! “紋章クレスト”! へーこんなやつなのかー!!」

 アイテムボックスを開いたアルも横ではしゃいでいた。ショウだけはちらりと確認をとったきりで、淡々とした態度を崩さなかった。

「あとでアヤもアイテム確認してみるといいよ。確かレプタも少しは入ってるはずだ。……さて、これでひと段落だね?」

「わかってる」

 アヤノは渋々答えた。本音では早く第2ステージへ行ってみたい。しかし2人の言っていたこともやはり気になる。ここは一応、“現実世界”に帰っておいた方がいいのだろう。

「システム……から?」

「そう。今度は君が先に出て。前回は僕が先に落ちたせいで、こんなことになってるって気づけなかったからね」

 ショウは腕組みをしてじっとこちらを見ている。仕方なく、小さく息を吸い込んだ。


『システム;』


「アヤ! またいっしょにやろーぜ! こっちがインしてる時にメッセくれりゃ、すぐ合流すっから!」

 アルの上機嫌な声を聞きながら。


『ログアウト』


 アヤノは口にした。


 ――――――――が。


「……え?」


 何も起きなかった。

 アヤノは変わらずヘラの神殿にいた。横を見れば、ショウとアルが言葉を失っていた。


『そなたら、今ひとたびの試練を望むか? それともここから去るか?』


 凍りついた空気の中、ヘラの決まり文句だけが、何度も何度もくり返し響いていた。



 それが――始まりだった。



第1章 了

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