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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第10ステージ:海底
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イド -3-


「アル、下がって!!」

 鋭く声を上げたショウだけでなく皆の顔つきが変わった。と同時にサメが口を開け、こちらへ直進してくる。素早く前へ出たのはダンテとショウだ。


魔法マギア:カタラクティス』


 詠唱で水が動く。普段なら滝のようになる防御魔法は、海中ここでは渦を巻いて水壁と化し、突っ込んできたサメの鼻先をはじいた。つかの間、ダンテが安堵した表情を浮かべた。

「水系の魔法は有効か」

「火はあやしいね。雷ならいけるかもだけど、ひとまず物理攻撃が無難、かなっ!」

 ショウが水壁を越えて跳び、サメに斬りつけた。サメは甲高く啼いて身をよじった。しかし、ダメージの数値は期待したほど大きくない。

「思ってたより難関みたいだ」

「地道に削る他あるまい」

「……あぁ、もしかして」

 ふとユーリがつぶやき錫杖を掲げた。シャン、と軽やかな音が響いた。


使役獣召喚プロスクリシー:ヒドラ!』


 大蛇は召喚と同時にサメ目がけて飛びかかった。それも普段以上の俊敏さで。アヤノは思わず息を呑んだ。

「泳げるんだ。すごい」

「やっぱりねぇ。形状が“アレ”と同じだから」

 ユーリの視線が向いた先では、ちょうど新しい敵が現れるところだった。サメとは違う細長いシルエットが、見る間に凝って牙を剥く。

「今度はウミヘビか」

「まずいな、まだ相手が1体でも厳しいのに」

「あっ」

 その時アヤノの視界の端を赤色がかすめた。

 後方にいたはずのアルが、ウミヘビに向かっていく。

「アル!?」

 得物の銃は効かないとわかっているはずが。アヤノは止めようとしたが、アルの険しい表情と気迫が、それをさせなかった。

「オレだけ後ろになんざいられっかよ……!」

 小さな体で真正面から。噛みつきにかかったウミヘビの顎を紙一重でかわし、丸い頭に銃口を押しつけて。


「この距離なら――どうだってんだ!!」


 立て続けに撃った。水の抵抗力など関係なしのゼロ距離射撃だ。いきなりのクリティカルヒットで長いからだはぐんにゃりと力を失い、水底に沈んだ。

 その反対方向からはサメの暴れる気配がする。しかし近寄ってくる気配はなかった。ユーリの召喚した大蛇が牽制してくれているのだ。

「これは、僕達剣士にとってずいぶん不利だったみたいだね」

 ショウが苦笑した。その横でダンテが宝剣の先を上げる。


魔法マギア:ケラヴノス』


 放たれた稲妻がサメを貫く。これも効果ありのようだ。大ダメージにもがいているところへ、さらにショウが追い打ちをかける。


魔法マギア:アフティダ!』


 光線は脳天を直撃した。サメもまた、小さく痙攣した後に動かなくなった。

「よかった、空系攻撃も効くね」

「新手はいるか」

「今のとこいねーぜ!」

「意外にあっさりねぇ。敵の出現率、他よりちょっと低いのかしら」

「いや、確か、マップの奥に行くほど高くなってたはずだよ」

「あぁそういうこと」

「遠隔攻撃もなかったようだが」

「そうだね。その辺はバランスを取ってるってことかな。ところで……アル」

「お?」

「さっきの攻撃だけど」

 ショウに真顔を向けられてアルがたじろいだ。明らかにうろたえながら、何か怒られることをしただろうかというような、しっぽを垂れた子犬の目をする。

「アルは中距離攻撃主体でしょ。さっきみたいな戦い方、僕はあまり勧めたくない」

「いや、けど……オレだって……」

「実戦で慣れるのが早いって言ったって、できるだけ危険度を減らす努力をするのも忘れちゃ駄目だからね?」

 言い訳を封じるようにたたみかけてから、ショウがため息を落とす。――が。


「でも正直、かっこよかったけど」


 さらりと続いた言葉は意外なものだった。

 アルは一瞬ぽかんと口を開け、それから、ぱっと顔を輝かせた。

「オレ、役に立ったか? ちゃんとショウの役に立ててっか?」

 ショウの表情も苦笑に変わった。

「もちろんだよ」

「!」

 それを聞いたアルの顔は、なんともいえず、幸せそうだった。


「おっしゃああああ次もいくぜええええええええ!!」


 タイミングを量ったかのように2か所で黒い泡が湧いた。なんとなくだが、アルにつられて士気は上がっているようだ。

 慣れないまだ危ういところは多々あるにせよ、まずは自分にできることを――アヤノを含め、全員がそう考えているのが伝わってきた。




第10章1節 了

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