表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
143/200

オラクル Ver. ヘファイストス -7-


「……やった……?」

 アヤノはつぶやいて、ごろりと転がる首に剣を向けた。ひとまず動く気配はなさそうだが、これまでのことを考えると何が起きるか知れたものではない。

 そんな逡巡のさなか、不意に、背筋を悪寒が走った。

 火花を立てそうな勢いで刃が岩を噛む。

 まっすぐに突き立つのは見慣れた長剣。その柄にすがるようにしながら、ショウが大きく息を吐いた。

「これはもう……大丈夫だと、思うよ」

「アホか! お前が大丈夫じゃねーだろ!」

 間髪入れずツッコみながらアルが駆け寄ってきた。わずかに遅れてダンテも。そうして無言でショウの肩をつかむ。

 改めて見るとショウの顔はまっ青だった。しかも自分で自分の脇腹を強く押さえている。そこへ、ダンテが大きな手のひらをかざした。


魔法マギア:サブマ』


 完全回復魔法だ。光がショウの全身を包むと、アヤノの視界の端で、パーティメンバーの生命力ライフゲージが――半減して黄色く点滅していたものが一気に満タンになった。

「ありがとう、余力残してくれてて、助かった」

 ショウがダンテを見上げる。ダンテの眉間には、まだ深くしわが寄っていた。

「まだ休んでいろ。傷は消えても痛みはしばらく残るはずだ」

「敵は……?」

「殲滅した」

「……そっか……」

 やっと表情を和らげたショウは、その場で崩れるように座り込んだ。呼吸は早いが声は割合しっかりしていて、アヤノも内心で胸をなで下ろした。

「みんな、怪我はなかった、よね?」

「お前以外はな!」

「ごめんアル、怒らないでよ。みんな無事なら、よかった」

「……らしくないミスを犯したな」

 ダンテが非難を込めた真顔で腕を組んだ。対してショウは軽く肩をすくめて見せる。その程度には回復してきたらしい。

「自分でもそう思う。ごめん」

「何かに気を取られていたようだったが?」

「ちょっと考えごとしちゃって。でももう、いいんだ」

 言い切ったショウの様子は、ふっきれたような、妙に清々しいものだった。

「もう迷ったりしない。大丈夫。ちゃんと自分の役割は果たさないとね」

「そうか」

「うん。ところで……ついでと言ったらあれなんだけど、お願いしたいことがあるんだ、実は」

 あぐらに座り直したショウは、ちらりとアルを窺ってから改めて口を開いた。


「ここから先、パーティ全体の指揮は、ダンテにやってほしくて。はいアルはちょっと黙って最後まで話を聞いてくれるかな?」


 さすがの先読みにアルもぐっと言葉を呑み込み、頬を膨らませてそっぽを向いた。その横顔に、ショウは困ったように笑いかけた。

「冷静さとか安定感とか、そういう部分はダンテの方が上だと思うんだよね。それに僕も、指示出ししなくてよくなれば援護に力入れられるし。今はもうそっちの役割分担がベストなんじゃないかな。っていうか、もう実際そうなってたよね?」

「う……けど……」

「リーダーは1人に決めた方がいい。混乱を招かないために。それはアルもわかってくれるでしょ」

 アルはもごもごと口を動かしたものの、反論はできないようだった。ついにはため息と共に「わかった」というようなことをつぶやいた。

 さらに青い眼差しが動く。順番にそれぞれの顔を、表情を確認して、最後にダンテを見る。それを受けてダンテが腕をほどいた。

「お前がそう言うのなら、引き受けよう」

「ありがとう」

「念のため聞いておくが。お前にも俺から指示を出していいということだな?」

「もちろん。どんどん使ってよ」

 安心したような、朗らかな笑みがこぼれた。自力で立ち上がる動作にも支障はなさそうだ。

 ただ――アヤノの目には、そんなショウの笑顔がどことなく危うく映っていた。



            * * * * *




  ――ねえ、君達。

    大丈夫? 気づいてる?


  ――すごく大事なこと、みんなして忘れちゃってない……?




第9章 了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ