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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
135/200

ロスト -2-


 二手に分かれた後も自分達のやることはこれまでと同じだ。アルは熱い岩場を駆けながら雄叫びを上げた。ぞろりと壁を這うトカゲの頭に続けざまに弾丸を撃ち込み、ふり向きざま天井に照準を合わせる。

 紐のように垂れ下がってきた灰緑色の蔓も、敵だ。つかまると一定時間動きを封じられる。第6ステージのキノコと同じで先に片づけてしまう方がいい。


魔法マギア:スィエラ』


 発砲より一瞬早く、風魔法が蔓を一掃した。少なからずむっとしながらアルはダンテをふり返る。

「今のはオレの間合いだったろ、邪魔すんじゃねーよ!」

「それは済まない。お前の立ち位置を把握し損ねたようだ」

 予想外にあっさりと謝罪が返ってきた。さすがに気まずくなり頭を掻いて、洞穴の奥の方に視線をずらす。

「あー、まあ、いいや。この辺は片したみてーだし、移動するか?」

「俺はかまわないが――」

「まだ進むのぉ? もうずっと休みなしじゃないのよぉ」

 少し離れたところでしゃがみ込んでいたユーリが、さも疲れきったという表情で肩を落とした。アルは銃を肩に担いで眉を吊る。今のは聞き捨てならない。

「次に合流するまでにレベル上げとく約束だろーがよ。もう“オラクル”の適正レベルになってないのお前だけだぞ!」

「だってぇ私がそうしたくったって、あなたが張り切りすぎて先に倒しちゃうんじゃない」

 一瞬言葉に詰まった。言われてみればそんな気はする。が、ユーリに言われると何か無性に腹が立つ。

「おっ、お前がグズグズしてるからだろ!」

「図星だからって怒らないでよぉ」

「とにかく! 約束くらい守れ! ショウを困らせんな!」

 こちらはショウに『任されて』いるのだから、やることはしっかりやりきらなくてはならない。そんな使命感を持つアルにとって、いつまで経ってもやる気のないユーリの態度は、正直ストレスだった。

 ふとユーリが忍び笑う。含みのある表情でゆっくりと立ち上がる。

「アルちゃん、なんだかこの間からずぅっとショウ君が、ショウ君がってそればっかりね。まるでお母さんが恋しいお子さまみたい」

「はぁ?」

「甘えてばっかいないで、早いところ乳離れした方がいいんじゃないのぉ?」

「ユリウス」

 咎める声を上げたのはダンテだった。するとユーリは首を傾けながらつまらなそうな顔をする。ダンテに冗談は通じない。そのくらいはわきまえているらしい。

「何時も茶化した態度しかとれないというのは感心しない」

「ちょっとした冗談じゃないの」

「本当にそのつもりか疑わしいな。いずれにせよ度を超えれば冗談の範囲に収まらないと覚えておくことだ。……しかし、アル」

 つとダンテの視線が動いた。目が合った。

「お前の言い様も妙だ。どうかしたか」

 アルは口をつぐむ。2人揃ってなんだというのだ。妙とはどういう意味か。よくわからないが、ダンテに限って、冗談や嘘は言わない。


「ユリウスの言にも一理ある。このところのお前は、ショウに依存する傾向にあると見える」


 だからこれも、本人は真面目にのたまっているのだろう。

 アルは皮肉を込めて笑った。

「依存とか大げさだな。んなわけねーだろ」

「アルちゃんアルちゃん、もう素直に認めちゃったら?」

「お前は黙ってろよ!」

 怒鳴り返したところでダンテが片手を上げた。無言の威圧感に双方で押し黙る。と、上から感情を抑えた声が降ってきた。

「咎めているつもりはない。だが自覚は持っておくべきだ。依存が過ぎれば、自ら思考することを放棄することにもつながりかねん」

 そう聞いた途端、顔が、頭が熱くなった。

 自分がそんな。ショウの足手まといになるような真似をするはずないではないか。

「そりゃ本当にオレに言ってんのか? 信用できねーってことかよ?」

「信用できるかできないかは、今の時点ではわからない。だからこそ忠告している。お前がそれほど愚かではないと信じたいところだ」

 ダンテが1歩下がって見下ろしてくる。いまだ声にも表情にも起伏は現れない。アルはそれに、怒気で応えた。

「バカにすんなよ」

「そうはならないと確約できるか」

「たりめーだ!」

 その時、ユーリの錫杖が鳴った。見れば黒い陽炎が2か所で立ちのぼっている。ここでもまだ敵が出るらしい。

 アルもひとまず銃を構えた。構えながら苦々しく舌打ちした。


 ダンテ――やっぱりこいつも嫌いだ。

 信じられるのは、結局、ショウ1人だけだ――



            * * * * *




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