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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
134/200

ロスト -1-


 溶岩溜まりの泡が爆ぜる。あとからあとから湧いて出て、不穏な音を立てているはずだが、それも聞こえないほど活発に皆の声が飛び交った。

「さっさと叩けよ手ぇ空いてんだろ!」

「はいはいはいわかったわよ」

「アヤノ、そちらへ行ったぞ!」

「見えてるっ」

「南側、新手1体! アル!」

「任せろー!!」

 ショウは周囲に気を配りつつ密かに肩をすくめた。噛み合わない感覚は相変わらずというのに戦闘ではあうんの呼吸なのだから、なんというか、わからないものだ。もちろん進行がスムーズなのはありがたいことだが。

「こっち、終わり」

 アヤノが火トカゲの背中に曲刀を突き立てた。そのまま、怖いくらいの静かな表情で視線を走らせる。次の獲物を求めている。

 各人レベルはと確認すると、もう少しで全員が“オラクル”の適正レベルに到達するところだった。中でもアヤノが少しだけ上を行っている。これまで以上の気合いをみなぎらせているのは、ショウとした約束のせいもあるだろう。


「――アヤ」


 そろそろいいだろう、の意味で呼びかける。と、アヤノがぱっとこちらを向いた。思いきり期待に満ちたまなざしだった。それを見たダンテまで微笑する。

「もうそんな頃合いか」

「しばらく待たせることになっちゃうんだけど」

「……ごめん」

 アヤノが神妙に頭を下げると、なぜかアルがふんぞり返った。

「ショウが決めたことなんだから文句ねぇよ! とっとと教わってうまくなってこいって!」

「なんであなたが威張るのよぉ」

「それじゃあ行ってくる。何かあったらすぐメッセージ送って」

「了解だ!!」

 ぐっと親指を立てたアルに手を上げて見せ、アヤノと2人で離脱する。

 予定では、アル達3人は第9ステージで引き続きレベル上げ、ショウとアヤノは別メニュー。一定時間後に合流しようということになっている。

 ちなみにこちらの別メニューというのは、例の“戦輪”特訓だ。


『――アヤ、今のままそれを持ってるのは危ないと思う。あきらめて捨てていく?』


 あの騒動の後。問いかけに対してアヤノからは沈黙だけが返ってきた。奥歯を噛みながらの悔しげな表情とセットだった。だから、もう1度尋ねてみた。


『それとも、この際ちゃんと練習して、使えるようにする?』


 これに対する反応は早かった。あっという間に光の戻った金色の眼は実際の返答よりも雄弁だった。


『……したい』

『じゃあ、してみようか。時間がかかるから、みんなが良ければ、だけど』


 見回してみると反対意見はなかった。それから更に相談を重ねた結果、現在に至る。

「だけど教えるっていっても、僕もそれは使ったことないからね。練習につき合うだけになるかもしれないけど」

「平気。ひとりで練習する」

 ひとり、の部分が強調された気がした。アヤノのことだから、本当は誰の手も借りず誰の目にも触れずに練習したいのかもしれない。らしいといえば、らしい。

「で、どこで練習するか決めてるの?」

 話をしながらアヤノは迷いのない足取りで歩いていた。セーフティエリアの中心へと向かっているようだ。ステージを移動しようとしているのだと予想はついた。

 が。

「第5……荒野のステージ。あそこの敵は、動きが速い」

「ちょっと、待って」

 慌てて止める。確かに船舶ステージのハゲタカやらジャッカルの動きを捉えられるようになれば充分すぎるほどだが、最初からあまり難易度を上げすぎるのはどうかと思う。うまくいかずにストレスを溜めるだけで終わる危険があり、訓練として不適当だ。


「ひとつ提案、いいかな。いっそのこと第1ステージから順に移動していったらどうだろう。たとえば10体倒したら次のステージに、とか」


 アヤノがふり返る。『それは考えていなかった』という顔だった。思わず苦笑してしまった。

「今までやってきたことと同じだよ。段階を踏んでコツコツと。それがかえって近道なんじゃないかな」

「……。うん」

「急ぐのはともかく。焦らない、焦らない……」

 暗示をかけるほどのつもりで言い聞かせながら、ショウはふと、アヤノと出会った当初を思い出した。戦い慣れなかった頃も今と同じように、とにかく早くどうにかしようとひとりで躍起になっていた。見かねてショウの方から声をかけて、あれこれ揉めた末にパーティを組むことになって、そして。


 ――あの後って……何か、なかったっけ……?


 急にしくりと頭の中が痛んだ。おかしい。以前にも似たようなやりとりをしたのは確かに覚えているのに、その前後が妙にあやふやだ。ただ、とてつもなく印象的なできごとが続いたという感覚だけ残っている。

 感覚は訴える。それは、簡単に忘れられるようなことではなかったはずだと――

「ショウ?」

「……アヤ、ちょっと聞いてもいいかな」

「? うん」

 なんとかして思い出さなければいけないという気がするのに、何かが回路の邪魔をする。自分の中からは答えを引き出せそうになく、ならばと一縷の望みをかけて、アヤノに向き直った。


「変なことでごめん。僕達、どうしてパーティを組むことになったんだっけ?」


 アヤノは黙ったままこちらを向いた。

 しばらく見合って、その後に。


「どうして……だったっけ……?」


 困惑の色濃い返答に確信した。

 自分は――アヤノも、もしかしたら他の面々も。何かを忘れている。忘れたことさえ忘れている。

 これは早めに確認する必要がありそうだと、ショウは眉根を寄せながら胸の内に刻んだ。



            * * * * *




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