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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
133/200

NPC -4-


 アヤノは呆然と立ちつくす。

 自分は今、何をしたのだ。

「アヤ、……アヤ! 落ち着いて、大丈夫だから!」

「先ほどの敵は、今のところ復活しないようだな」

「最初っから焼き払っちまえばいいってことか?」

「アヤ、聞こえてたら返事して」

「それはまだなんとも言えんが。ともかく現時点での安全は確保されたと考えていいだろう。……ユリウス?」

「もうアイテムで治したし、私は平気なんだけどぉ」

 そんな周囲でのやりとりは、聞こえていても頭に入らなかった。呼ばれているのも両肩を揺すられているのさえ他人事のようだ。

 目の前が暗い。何も見えない。

 何も、考えられない――

「アヤ!!」

 強めに頬をはたかれて、一気に感覚が戻ってくる。呼吸も止まっていたらしく、入ってきた息の量にのどが鳴った。

「……、……」

「大丈夫だよ。大丈夫だからね。――ユーリ、ちょっとこっち」

「なぁにぃ」

 ユーリの姿が目に入る。はっとして上から下まで観察するが、傷は残っていないようだ。それを確認してなんとか人心地がついた。

「ほら、ね」

「……ごめんなさい……」

 やっと声になった言葉は虚しく霧散した。同時に悔しさがこみ上げてくる。

 知っていたはずだ。“戦輪”は扱いが難しく、充分に訓練を積んでから使う方がいいと。ショウからも言われていたはずだ。それなのに、つい手にしてしまったのは。欲があったからだ。初めての武器をうまく使いこなせたなら、自分が成長したことの証明になるのではないかと。

 結果的に、その欲が仲間の怪我につながってしまった。


「わたし、弱い……強くなれない……」


 うつむいて唇を噛んだ。すると間近で空気が動く。ほんの少し視線をずらすと、下からのぞき込んできた青と目が合った。

「そうだね。まだ強くないね」

「……」

「だけど、ここであきらめたら、成長する可能性もなくなるよね?」

 ショウはこちらをなだめるように微笑した。

「戦い続けよう。もっともっと強くなろう。それと……僕達のことも、もっと頼ってほしいな。他のプレイヤーとの連携だって“強さ”だよ」

 ――違う。

 ショウの言葉は正しいと思う。けれど、それはアヤノの望むものではない。


 “独力で戦える強さ”がほしい。

 この人と肩を並べられるくらいの強さが――


「アヤ……?」

 反感が伝わっているのだろう。ショウが心配そうに瞬く。アヤノは、気を落ち着かせようと息を吐いた。

 わかっている。自分よりずっと熟練のショウに従う方がうまくいくに決まっている。

 わかっては、いる。

「……がんばってみる……」

「うん。協力するから。がんばろう」

「ひとまず落ち着いたか」

 ショウが立ち上がったところでダンテが口を開いた。普段通り淡々としてはいるが、眉間は心持ち狭い。その寄った眉を見上げながら、アヤノは自分に言い聞かせるように言った。

「もう、だいじょうぶ」

「そうか?」

 ダンテはアヤノと目を合わせ、ひとつうなずいて――決して腑に落ちた表情ではないようだったが――仕切り直すように他も見渡した。

「今後の方針について、考え直しておくべきと思う。補給経路に不安が生じた。これまでと同じというわけにはいくまい」

「確かに。ショップが使えなくなるとなると痛いよね」

 セーフティエリアの奥、岩棚の狭間の店を見やって、ショウも表情を曇らせた。

 当然ながらアイテムを“購入”できるのは各エリアのショップだけだ。アイテム自体は敵を倒した時にも入手できるが、数量は限られるし、戦って負傷するリスクを負いながらではなかなか割に合わない。

 と、アルが軽く口を尖らせた。

「それってそんなに問題か? おかしくなってんなら、店員だってぶっ倒しゃいいじゃん。さっき魔法一発だったし楽勝だろ。したら、しばらくは安全になるっぽいしよ」

 これに対する反応は割れた。ショウとダンテは渋っている様子だ。ユーリは逆に、そんな2人へ呆れ顔を向ける。

「いいじゃないの倒しちゃって。私はアルちゃんの意見に賛成だわ。こんなところで気が合うなんて思わなかったけど」

「合いたくもなかったけどな……」

「あらご挨拶」

「もちろん考え方としては理解できるよ。だけどやっぱり、心理的抵抗、というか……前はお世話になってた人だと思うとね……」

「そ? 前がどうでも、襲ってくるなら“敵”でしょう? それに店員なんて、どうせ――」

 ユーリはそこで言葉を切った。

 『なんだっけ』とでも言いたげに一瞬顔をしかめ、それから、大仰に肩をすくめる。

「どうせ、死なない人達、でしょ……?」

「店での補給はこれまで通りに継続、邪魔されるようなら店員を排してでも、か。……致し方ないのだろうな」

 腕を組みながら、ダンテが静かに息を落とした。それを見て、ショウが弱く笑った。

「仕方ない……そうなのかもね……」

 そう口にした、次の瞬間。

 不意にショウの視線が動いた。


「みんな。とにかくここは離れよう」


 ピンと緊張した空気が戻ってきた。先ほど“店員だったもの”を倒した場所で、まっ黒な灰が渦を巻いている。目に見えない何かが手でかき集めているかのように、寄り集まって形になっていく。

「店員が復活するか」

「そんな感じだね。うん、やっぱり『仕方ない』みたいだ」

「そんじゃもう1回倒しとけば」

「アイテムは補充したばかりなんだから、経験値になる普通の敵を倒しに行く方がいいよ」

「あーそっか! さすがだな!」

 やりとりをしつつ、不吉な塊からは足早に離れつつ。

 それでもアヤノは半ば上の空だった。というよりは、ひとつの考えに囚われていた。


 次はあれにも負けないように。

 強く、なる――




第9章2節 了

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