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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
132/200

NPC -3-


 アヤノは何度も思い返す。あの時。思いもかけない相手が襲ってきたとき。ユーリが防御膜を張るのを目にしながら、自分はまるで動けなかった。

 少しは成長したつもりでいたけれど、本当はそんなには変わっていなかった。痛いほど自覚して、同時に改めて決心した。


 強く。もっと強く。誰にも何にも負けないくらい強く――


 呪文のように胸の内でくり返しながら、巨大ネズミの背中に曲刀タルワールを振り下ろした。蒼炎のたてがみを持つ火ネズミからは触れただけでもダメージを受けるが、魔法攻撃がないだけ御しやすい。

 連中より速く動いて速く攻撃すればいい。そういうことなら得意分野だ。


 もっと速く。もっと、強く――


「片づいたよ」

「こっちもオッケーだぜー」

「進むのはちょっと待ってぇ、ケガしちゃったからぁ」

 小さく手を上げたユーリに全員の視線が集まった。見れば座り込んで折り畳まれた足の片方が黒く焦げてしまっている。敵にやられた傷ではなさそうだ。

「もしかして、踏み外した?」

「一瞬浸かっちゃった」

「ちゃんと周りを見ないと……!」

「大したことないわよぉ」

 ユーリ本人は暢気なものだ。とはいえ以前ダンテが指摘したように、第9ステージのバトルフィールドで最も厄介なのは、実はステージ自体だった。なにしろ溶岩溜まりにうっかり足を取られようものならもれなく大やけどを負ってしまう。その分余計に回復の手間がかかるのだ。

「さりげに不親切設計とは思うけどねぇ?」

「仕方ないよ。進むごとに難易度は上がっていくものだし」

「主張は理解するが、ともかく手当をする。じっとしていろ」

「別に魔法じゃなくていいわよ。アイテムがまだ残ってるから」

 ユーリは足をさすりながらアイテムを取り出した。じっとそれを見下ろしていたダンテの表情がふと曇る。

「気を抜きすぎだ。その調子では、いずれ怪我では済まなくなる」

「別に……私はかまわないんだけど」

 身も蓋もない返答にダンテとショウが口を開きかける。

 しかしその先を待たず、アヤノは曲刀を掲げ軽く地面を踏んだ。もう次の敵が出現しつつある。ネズミ1体、トカゲ2体。ちょろりと走るネズミを追って跳躍する。うまく進行方向に割り込むと、着地したその場で軸足だけで回転し、正面から突きかかった。

 曲刀の刃はネズミの顔面を割った。運良くクリティカルだ。その間に他からもあわただしい気配が伝わる。


魔法マギア:プリミラ!』


使役獣召喚プロスクリシー:ヒドラ!』


 ダンテに続いてユーリの詠唱も聞こえた。ユーリも戦ったり身を守ったり、そういう気がないわけではないはずなのだが。現にそのおかげでアヤノも助かっているのだが。

 どうも他のメンバーの指示には逆らいたがっている、ように見える。

「ユーリ、ストップ! そっちの壁は溶岩が!」

「だぁいじょうぶってぇ」

「大丈夫じゃないから言ってるんだけど!!」

 ショウが焦り気味の声を上げる。アヤノは即座にきびすを返した。ユーリが自分を大事にしないのならば、他が代わってやるしかないではないか。

「ユーリ!」

 低い姿勢からトカゲの胴を斬り上げる。その真上から、ユーリの召喚獣が降ってきた。長い胴でトカゲを押し潰し、そのまま頭に食らいつく。

「アヤちゃんナイスー」

「アヤ、ユーリ。そろそろ戻ろう。少し休憩しないと」

「了解」

 ぐったりと倒れ伏したトカゲを後目に曲刀を収め、アヤノは無言でショウのあとを追う。もっともっと戦いたいという気持ちは強く脈打っているものの、休息をとった方が効率よく戦える、そのくらいは覚えている。だから少しくらいは我慢できる。

 それに、ショウとの約束は守りたい。

 守るためには自分の身も守らなければダメなのだ――


「待って」


 セーフティエリアのすぐ手前で、ショウが急に立ち止まり、腕を上げて道を遮った。

「何か、ちょっと嫌な気配が……様子を見てきてくれないかな、ユーリ」

「はいはぁい」

 ユーリが例のごとく“グライアイ”を召還する。目玉おばけはカサカサとその場で1回転した後に、勇んでセーフティエリア内に入っていった。

 その時だった。


『いいいいいらっしゃいいらっしゃいいいいらららっしゃ』


 グライアイの進む先に影が立ち上がった。それが発した声には覚えがあって、アヤノは反射的に体に力を込めた。そうして脳内ではせいいっぱいの早さで思考を巡らせる。

 あれはあの時店で見た――あれは危険だ――グライアイが触れられたらユーリの方にもダメージが――けれど直接は触れられない――ならば――?

 とっさに思い出したのは最近入手した武器の存在。あれを選んだ理由のひとつは、ある程度の魔力を帯びているということ。

 そして何より、速いこと。

 アヤノはそれを手に呼び出した。この“戦輪”なら。間に合うはず。


「やあっ!!」


魔法マギア:フロガ!』


 ショウの唱えた火の魔法より、戦輪は確かに速かった。

 しかし、次の瞬間に。アヤノの間近でうめき声が上がる。

「痛……っ」

「……あ……?」

 アヤノはその場で凍りついた。

 おかしくなったNPCの店員はすでに消滅していた、けれど。それはショウの魔法によるもので。


 戦輪は敵に届かず、グライアイに傷を負わせていた。




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