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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
131/200

NPC -2-


 はっとふり返ったショウは、異様な光景を目の当たりにした。

 アヤノとユーリに襲いかかる大きな影。反射的にナイフを喚び投擲するが、それは影を透過してしまう。


魔法マギア:ケラヴノス!』


 血の気の引いたショウのうしろから、ダンテの詠唱と共に稲妻が走った。アヤノ達に触れるよりも早く、影は貫かれて消滅した。

「無事か」

「まあねぇ。一応防御してたし」

「よかった……心臓が止まるかと思ったよ」

 じわりと冷や汗が滲むのを感じながら小走りに店内へ。そうしてアヤノ達より奥の床に、焼け焦げて倒れている塊をみつけた。

「これは」

「……ここの、店員さん……」

「店員!? それが襲ってきたの!?」

 アヤノが半ば放心したようにうなずく。横ではユーリが眉をひそめて髪を押さえた。

「間違いないわよ、わたし達の目の前で変身したんだから。こう、こっちに歩いてきたと思ったら、グニャっと」

 ショウは思わず歯を噛みしめた。想定外だった。協力者であるはずのキャラクターまで知らないうちに敵に回るとは。これ以上の何かがなければいいと言った矢先だけにダメージも大きかった。

 きっとこの先もいくらでも、思いもしなかった事態が起きるのだろう。再認識して気を引き締めることにする。

「他のステージでも同じようになってるのかな。こっちサイドの人にも迂闊に触れないね」

「そう思っておくのが無難だろう。アイテム購入に使う店もここに限定するのが良くはないか。わざわざ危険を冒す必要はあるまい」

「うん。そうかもしれない」

 見回すと皆がそれぞれにうなずいた。それにうなずき返しながら、ショウは小さくため息を落とす。

 安全の確保が第一ということは重々承知している。が、どうしても異変の原因を突き止めたいとも思ってしまう。簡単にわかるなら苦労はないと、頭ではわかっているのに気が逸れるのは、早くこの状況をなんとかしたい、重圧から逃れたいという願望の裏返しなのだろう。


 ――駄目だな……もっと、しっかりしないと――


 自戒の意味を込め手の平に爪を立てた時。

 アヤノが唐突に、顔を上げた。

「ごめん。……動けなかった」

「え?」

「また、竦んだ。せっかく教えてもらったのに。ユーリがいなかったら、やられたかもしれない」

 きつく眉根を寄せた固い表情に、ショウはあわてて手をほどき横に振った。

「そんな思い詰めなくても……仕方ないよ、そういうのは慣れもあるし」

 以前アヤノには、戦闘中に動きを止めない方がいいと教えたことがあった。しかし、とっさの時に体が動くかどうかは、経験や生来の性質も大きく影響してくる部分だ。教わったからといって簡単にできるわけもない。わかっているから、ショウも一度か二度しか指摘しなかったはずだ。

 それでも当人がどう考えるかは、やはり別問題なのだった。

「今のままじゃ、いつか足を引っぱるかもしれない。これ以上迷惑かけたくない」

「迷惑なんてそんな……」

「忘れてた――思い出した」

 つと、向けられたまなざしは、思ったよりもしっかりとしたものだった。


「強くなる、もっと。誰にも頼らないで済むくらいに」


 ショウは思わず息を呑む。それほどに、アヤノの眼の金色は燃えていた。

 強さに対する執着、翻って弱さへの嫌悪。アヤノはその傾向が人一倍強い。だからこそこんなに早く上達したのだろうし、いつまでも向上心を持ち続けている。成長に奢らず失敗をしても諦めない。

 このところ少し落ち着いていたようなだったのが、ここへきて、文字通り『火がついた』らしい。

「もっとレベル上げないと。もっと戦わないと。もっと」

「待ってアヤ。まずは落ち着いて……1回深呼吸してみようか」

 そんなひたむきさを見ていると、つい手を貸したくなる。それに度が過ぎるようだと心配だ。アヤノには、単独で急に暴走しだした前科もある。

「目的意識もやる気ももちろん大事だけど。焦りは失敗の元だよ。それと、アヤにはもうひとつ、覚えておいてほしいかな」

 普段よりもう少し見開かれた金色がこちらをじっと見上げてくる。それをのぞき込みながら、ショウはゆっくりと続けた。


「1人で完璧にやろうなんて、そんな寂しいこと考えないで。僕達がここにいること、忘れないで」


 口にした瞬間、背後でダンテがため息をついた。『お前がそれを言うか』という声なき声はひとまず聞こえなかったふりで、ぽんぽんとアヤノの肩をたたく。

「ね」

「……ん……」

「不満そうな顔してうなずかないでほしいな? 応援してるのは本当だよ」

「……知ってる」

 答えるが早いかアヤノはふいと顔をそらした。視線はそのまま、まっすぐにバトルフィールドを見据えた。

「待って待って、焦らないでって」

「おいアヤ! お前ひとの助言は聞いとけっての!」

 アルが若干の苛立ちを含んだ声を上げた。しかしアヤノはちらりと見返っただけだった。それを離れた場所から眺めるユーリは、まだ脱力気味のままだ。

 軽い頭痛を覚えつつ、ショウは口を引き結ぶ。また噛み合わなくなった。何事も、人間関係も含め、詰まるところ一進一退ということなのだろうが――


「ショウ。先の言葉は自戒でもあると理解していいのだろうな」


 上からささやきが降ってきた。ショウは一度目を伏せ、次いで、精一杯の笑顔を作りダンテを見上げる。

 こぼれ出たのは我ながら誤魔化しめいた返答だった。


「努力するよ」



            * * * * *




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