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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
130/200

NPC -1-


 経験値を稼ぐ合間のアイテム補充の時に、アヤノは他の目を盗んでユーリに声をかけた。店内であれば今のところ敵が出現したことはない。安全だ。入り口にはショウ達もいる。あちらでも何か話しているようだ。

「聞きたいことあるんだけど。いい?」

 ユーリは購入画面の方を向いたまま、視線だけこちらへ動かした。

「なぁにぃ」

「ファントムのこと」

「……ああ……」

 曖昧にうなずくユーリからはなんともいえない空気が伝わってきた。

 そういえばあの時は、他のことに気を取られていて気がつかなかったけれど。自分たち2人に対して、ファントムはどちらとも面識があるような口振りだった。もしかしてユーリも以前から彼と会っていたのだろうか。――同じようにショウの話を聞いて、気にしていたのだろうか。

 もっともファントムと縁の切れてしまった今となっては、そんなことを蒸し返しても仕方がない。

「彼について私から教えられることなんてないんだけどぉ」

「今は本人じゃなくて、あの時のこと。最後に会ったときの、最後の言葉」

 聞きそびれてしまって気になっていたことだ。ユーリは覚えているだろうか。

 期待を込めてじっと見入ると、あからさまに顔をしかめられてしまった。

「移動の瞬間て五感が遮断されるようにできてるのよねぇ。あれ以上の話聞く気もなかったし」

「そっか――」

「ま、ほんのちょっとだけ聞こえたのは、『敵の中に』どうとかってところだけねぇ」

「!」

 アヤノは思わず目を見開いた。

 直接繋がるかはわからないけれど、自分が聞いた単語――『危険』とまったく関係ないだろうか。

「どうかした?」

「……ユーリはここのところ、敵と戦ってて気がついたことってある?」

「は? なんで急に敵の話?」

 訝しげに眉をひそめ、こちらに向き直る。「それは」と言いかけたままどこからどう説明しようか思案していると、その途中で遮られた。

「別にいいけど。でも、敵について気づいたことねぇ」

 思い出そうとするようなそぶりはしつつ面倒そうな顔をするものだから、アヤノは小さく息を吐く。これ以上聞いても、たぶん答えは得られない。

 などとつい考えていたところへ。


「なくはない、かもねぇ。セーフティエリアに出るヤツの中に、見た目のおかしいのがいなかった?」


 思いのほかまともな返答があったことに驚いて、その次に、ユーリが自分と同じものを見ていたことに2度驚いた。

「いた」

「あぁやっぱり」

「なんだと思う、あれ」

「知らないけど、何にしても“敵”でしょ。倒せば同じ。それでおしまい。……話ってそれだけ?」

 言いながら購入画面から離れるユーリは、アヤノほど深く追求する気がないようだった。とそこへ、店員の男性が陽気な声を上げる。


『どうだい、うちの品揃えは! またいつでも来てくれよな!』


 どのステージの店にも同じようにギリシャ風衣装の店員がいて、同じような言葉をかけてくる。ただし、本当に決められた言葉しか発しないので、いつからかいてもいなくても同じという感覚になっていた。


『――どうだいうちの品揃えは! またいいいいいいつでも来てくれよなななな』


 アヤノとユーリは揃ってふり返る。笑顔の店員男性は腰に手を当てた格好のままでこちらへ歩いてくる。

 “彼ら”は本来、定位置から動かないはずというのに。

「なに、あれ」

「触らない方がよさそうね」

 目だけは離さずそっと場を離れようとした、次の瞬間。

 ぐにゃりと店員の輪郭が崩れた。ざりざりと音を立ててモザイク模様に覆われ、ぐにゃりと縦に長く伸び上がり、こちらへ、迫る。

「!!」

 考える間もなかった。目の前でモザイクが一気に広がった。



 時は、それよりも少し前――


 買い物を済ませて店を出たところで、ショウは、ふと目が合ったアルに苦笑を返した。

「どうしたの? なんか、ずっとこっち見てたよね?」

 するとアルはふいと目をそらした。表情の動きは乏しくて読みづらい。なんとも彼らしくない様子だ。

「何か用事だった?」

「や、別に。なんでもねーよ」

「本当に?」

 まじめな顔で腰をかがめ小柄なアルを下からのぞき込む。ショウとしては、不満でもなんでも思うところがあればはっきりと言ってほしい。内にため込んでこじれるくらいなら、その方がどれだけいいかわからない。

 けれどアルは頑なに首を振り、次いで、急に笑顔になった。変わりようが急すぎて不安になるほどだった。

「それよりさーショウ! お前ってやっぱエライよなー、誰とでもうまくやれてさ!」

「え……? 残念だけど、そんなに誰とでもってわけじゃ」

「あいつとはやってんじゃん、最初はぜんぜん乗り気じゃなかったのにさ。やっぱすげーよ。尊敬する」

「アル。本当にどうかしたの」

 違和感があった。前からこんな風に作り笑いをするタイプだったろうか。

 確かめるためにさらに尋ねようとして――しかしそこへ、店内からの切羽詰まった声が割り込んだ。


使役獣召喚プロスクリシー:プロヴァート!!』




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