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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
129/200

シフト -3-


 最初は蒸気の揺らぎかと思うほどの小さな変化が、すぐに黒い影と化し輪郭をあらわにする。

 最終的にそれはトカゲの形になった。迷宮ステージにいたものよりも体全体がごつごつとして、まるで小さなドラゴンだ。


魔法マギア:アンベロス』


「っりゃあああああああぁ!!」


 ダンテが蔓で大トカゲを絡め取り、同時にアルが銃弾を撃ち込む。しかしその程度では揺るがない。激しく身を揺すって蔓から逃れたトカゲは、仕返しとばかりにアルに向かった。


使役獣召喚プロスクリシー:ヒドラ』


 そこへユーリの召喚した大蛇が飛びかかる。横っ腹に体当たりして足を止めさせ、そのままの勢いで首に噛みついた。能力値タレンドをつぎ込んだというだけあって、その攻撃力は格段に増した。大ダメージと共にトカゲをダウンさせる。

「アヤ」

「ん!」

 合図を受けてアヤノも跳んだ。ショウは右から、アヤノは左から。体勢を立て直す時間など与えない。交差する軌道で斬撃をたたきこむ。

 更に、ショウがふり向きざまナイフを投擲した。ナイフはまっ赤な両眼にまっすぐ吸い込まれる。間髪入れず頭上に跳んだアルが脳天を撃った。

 咆吼。地響き。脚が折れ、トカゲは動かなくなった。

 アヤノはふうっと息を吐く。それなりに手応えはあった。通常の敵はこんなものか。

 が。

「あ」

「うん? どうかした?」

 アヤノはとっさに目をこする。黒い背中を見下ろした瞬間、輪郭がブレた気がしたのだ。


 そう、たとえるならば、×××の砂嵐のように――


「アヤ?」

「……なんでもない。平気」

 というよりは、何を言おうとしたか忘れてしまった。わからなくなってしまった。前にも似通ったことを考えたような、おぼろな記憶はあるのだけど。

 忘れるくらいだから大したことではない……はずだ。

「ならいいけど。それにしても……どうかな、みんな、“セーフティエリア”内での敵の出現頻度は上がったと思う?」

 ショウがぐるりと見回した。ここへ到着するなり襲われたことを気にしているのだろう。アヤノは首を横に振る。体感的に、頻度はまだそれほどでもないと思う。たまたまタイミングが悪かっただけだ。

「今のところはまだそれほどでもあるまい。ただし、今後もその状況が継続するとは限らない」

 率先して口を開いたダンテに異を唱える声はない。ショウも「わかってる」とうなずいた。

「動こう。これ以上妙なことが起きる前に」

「やむなしか……慎重を重んじてばかりもいられんな」

「そういうわけで、ユーリ、またお願いできるかな?」

 ショウが暗に“グライアイ”の召喚を求める。今度もまた見通しの悪いステージだ。少しでも安全性を高めるために、進行方向の情報が手に入るならそれに越したことはない。自分たちはただ戦っていればいいというわけではないのだ。

 絶対に負けられない。倒れられない。

「グライアイ……意外に使いどころが多くてびっくりよねぇ、これ」

 乞われるままに召喚した目玉を見下ろして、ユーリが気のない様子でうそぶいた。

 と、それを聞いたダンテが目を細めた。

「パーティである以上、その程度の貢献はしてもらわなくては困る」

 ぴくりとユーリの眉が上がった。言い返すわけではないがあからさまに嫌な顔になったところへ、ショウがさりげなく割って入る。

「いつも偵察ありがとう。助かってるよ」

「いいのよ別にはっきり言ってくれても。『団体行動を乱す奴はさっさと出ていけばいい』って」

「ちょっと待って、誰もそんなこと言ってないじゃないか」

「思ってはいるんじゃない?」

「そんなこと、」

 思っていない。決して。

 アヤノはそう口にしかけたが、それより早く、ダンテがきっぱりと声を上げた。


「団体行動を乱していることは事実として認識している。だがそれを理由に放逐するのは道義に反する。それが俺の考えだ」


「……道義とか。素で聞いたの初めてかもだわ……」

 ユーリが毒気を抜かれたようにつぶやくまで、アヤノも半ばあっけにとられていた。

 けれど、古式然とした宣言は、つまり正義感の強さを表しているのだろう。それがダンテの根元にあるもので、だからこそ何があってもついてきてくれたし、協力してくれたし、これからもそうしてくれる。きっとそういうことなのだ。

 以前から感じていたことではあるが。なんとも生真面目な人物だ。


「――あぁもうなんなの! こんな変人の集まりだなんて思わなかったんだけど!」


 唐突に、ユーリが勢いよくしゃがみ込んで頭を抱えた。するとショウが堪えきれない様子で噴きだし、つられてアヤノも笑ってしまう。当のダンテはショウのとなりで、釈然としない顔をしていたけれど。

 少し離れたところでは、アルが、ひとり無表情にこちらを見ていたけれど。



            * * * * *



 ――アヤノとユーリはダメだった


 ――もう協力してくれない



 ――だったら次は……もっと、“正義感”の強い……――




第9章1節 了

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