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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第9ステージ:火山
127/200

シフト -1-


 ひとまずセーフティエリアに戻ってアイテムを整え直す頃には、ユーリの様子は――少なくとも表面上は、いつもとそれほど変わらなくなっていた。

能力値タレンドは全部使ったんだよね?」

「言われなくてもやったから」

「よかった。通常フィールドで少し慣らしたら、もう一度“オラクル”だね」

 ショウが言うのを横目に、アヤノは我が身を顧みる。急なステータスの変更をすると感覚が変わるということは経験済みだ。

 それにしても、よかった。まだ全員無事だ。

 皆でした約束は、まだ続いている。

「これはただの興味で聞くけど、どこに数値振ったの」

「召喚獣と魔法の強化にぜぇんぶ」

「へえ?」

「召喚獣だけでも攻撃と防御、両方いるんだから充分でしょ?」

「もちろん。ひとつの考え方だよね」

「ショウ君」

 それまで脱力気味にあさっての方を見ていたユーリが、ちらりとショウに視線を向けた。

「あなたってほんと、気持ち悪い」

「はぁ!?」

 覇気のない暴言に反応したのは、ショウではなく案の定アルの方で。どうどう、とショウがなだめるところまでお約束と化しつつある。

「気持ち悪い、かな?」

「だいたい誰にでもいい顔してほいほい言うこと聞くかと思えば妙なところ頑固だし譲らないし……何考えてるのかわからないし」

「そうかな。――ああ、そっか」

 ショウがひとつうなずいた。それを見たユーリが首を傾ける。

「なに1人で納得してるの」

「いや。前からちょっと、もしかしてと思ったんだ」

 ショウは思いのほか真面目な顔で、ユーリに向き直った。

「君って僕を、っていうか、他人を信じてなかったりする? 厚意にも裏があるんじゃないかって疑ったりなんかして」

 ああなるほど、と思いながらアヤノもユーリを見た。常に他の人間を避けようとする、その理由が不信に根ざしているというのなら納得できる。

 ユーリはといえば答えない。ただ、否定もしようとはしない。

「僕の想像だけどね。違ってたらごめん。だけど一応、言っておくね」

「……」

「僕は、裏切らないよ」

 それからショウはアヤノ達にもひととおり視線を投げた。全員に聞いてほしいのだという意図が伝わってきた。

「間違えたり失敗することはあるかもしれない。それでも“約束”は守るから。そこだけは信じてほしいな」


 ――誰ひとり欠けることなく、13番目のステージへ。


 何度となく言ってきたことを実際に果たすため、ショウはいつでも努力していた。アヤノはそれを見てきたし、だからショウを信じている。

 同時に、他の皆にもショウを信じてほしいと思っている。ここへきてふとそんな願望に気がついた。

「……馬鹿みたい」

 ややあってユーリがつぶやいた。ショウが、苦笑する。

「そうかもね」

「馬鹿って自覚あるくせについてこいなんてよく堂々と言えるわ」

「ごめん。でも」

「今さら誰か信じるなんて無理だから。……ただ……」

 言いかけた語尾が小さくしぼんでいった。ついさっきまでの気の抜けた様子に代わって浮かんできたのは、子供がふてくされたような表情だった。

「まだ、次にやりたいこともみつかってない、から……みつかるまでは……」

「いっしょに戦ってくれる?」

 すかさずショウが割り込むと、ユーリの頬がかすかに紅潮した。否定も拒絶もしないことを確認してショウが手招く。そうしながらアルとダンテにも視線を送った。2人とも何も言わなかった。最後に目を向けられたところで、アヤノはしっかりとうなずいて見せた。

 ショウは、ほっとしたように笑んだ。

「ありがとうみんな。……それじゃあ行こうか」

 きびすを返す。全員揃ってバトルフィールドの方へ。ユーリもちゃんとついてきてくれている。


「アフロディテの“紋章クレスト”、次こそ獲るよ!」


 見返ったショウの力強い一言が、アルの不満げな顔も一変させた。アヤノも手に曲刀を呼び前を見た。

 このステージの“オラクル”にはもう不安はない。が、そこでふと脳裏をよぎったのは別れ際のファントムの言葉だった。実はよく聞こえていなかったのだが、危険、という単語だけは耳に入っていた。

 あとでユーリにも、聞こえたかどうか確認してみよう。

 アヤノは後で忘れないよう、ごく小声でそうつぶやいた。



            * * * * *




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