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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第8ステージ:洞穴
125/200

オラクル Ver. アフロディテ -7-


「私? どんな顔してるっていうの?」

 ユーリはショウを斜に見上げる。割と本気で疲れているものだから、表情を繕えていないという自覚があるにはあった。

 と、ショウがいたずらっぽく目を細める。

「けっこう目つき悪いんだね」

「オレらにはよくこんな顔すんぜ」

「ああ、そうなんだ」

 そうだと思った。言外にそう匂わせつつ、深く追求する様子はショウにはない。その代わりため息混じりに尋ねてくる。

「いくつか確認したいんだけど……まずひとつ。ユーリ、君の言ってた“目的”って、ここのドラゴンだった?」

「どうして?」

 素直にそうだと答えるのはなんとなく癪だ。それだけの理由でわざと曖昧に問い返す。

 どうせショウのことだ、ある程度の解はとっくに得ているだろう。

「答えたくないってことかな」

「別にぃ」

「一応、念のために言っておくと、各ステージのボスが召喚獣化するって噂ならデマだよ。ただの都市伝説。そういう風にはできてないんだ、残念ながら」

 デマ。都市伝説。

 その一言が妙に響いた。やっぱりという諦念に胸中が染まる。が、割り込んだ欲望の色ですぐに濁る。

 真実など知らなくてもよかった。いっそ正誤のはっきりしないまま追い求めていたかった。ただのわがままだろうが現実逃避的だろうが、それこそ、自分のやりたかったことなのであって――それなのに。

「……ユーリ?」

 目的のひとつがあっけなく失われた。

 同時に、ショウ達と行動を共にする理由もまた。

「ボスも倒してきりのいいところだし。私はここで、さよならさせてもらうことにするわ」

 ゆっくりと立ち上がる。四肢の痛みはそろそろ薄れて、動けないほどではない。白い法衣の裾を払ってから顔を上げる。満面の笑みを作って見せる。

「あとは4人で仲良くやってちょうだいな」

「君はどうするの」

「適当に好きにやるわよ」

「ひとりで?」

「他人の指図で動くのは性に合わないの」

「今この世界は危ない状態だって、わかってるよね?」

 ユーリは失笑した。ショウの反応はあまりにも予想通りだ。

「関係ないわよ。私にとってはね。力が足りなければそれでゲームオーバー、それって普通のことじゃないの?」

 横から何か言いかけたダンテをショウが素早く止めた。アヤノはじっとこちらを見ているだけだ。アルに至ってはとっくに知らぬ顔を決め込んでいる。

 何もかもが鬱陶しくてかなわない。だから、もういい。

「あなた達といるのは飽きちゃったの。ばいばいショウ君。一応、そこそこ楽しかったわよ」

「……待って」

 向きを変えかけた肩に、思いのほか強い力がかかった。仕方なくふり返る。目は合わせないようにして。

「なぁに?」

「もうひとつ、確認したいこと……いや」

「なによ」

「ちょっと言っておきたいことがあるんだけど」

 それなら早く言え、早く終わらせろ。内心で毒づきながら、同時に不安が兆す。

 にわかに鋭さを増した青い眼を向けられ、首のうしろがちりりと痛んだ。


「自分の目的を果たしたらはいそれまでって。つまり君は、今まで僕達を利用してきたってことになるよね? だとしたらあっさり『さようなら』はできないかな」


「どういう、意味」


「ここで離脱はさせない。一緒に来てもらうよ。僕達が君の役に立った分、君からもちゃんと返してもらわないと」


 その瞬間は、スイッチを押されたような気分だった。

 理性が切れたかのごとく頭の中で言葉が氾濫した。やっぱり他人なんて皆屑だ、どいつもこいつも自分のことしか考えない、自分より弱い人間を食い物にして、そんな奴らばっかりが得をして――そんな内容がいつまでもぐるぐると。

 その合間に、意識の中でチカチカと光が明滅した。そこに集中すると何か思いだしてしまいそうなのが一番不快だった。いっそすべて捨ててしまいたかった。

 すべて。何もかも。

 しかしながら、それらすべては表に出ず、すべて脳内ではじけて消えた。ショウはそんなユーリを黙ったままずっと見守っていて、言葉が尽きた頃に、ひとつうなずいた。

「うん。わかった」

「……何が……」

 ようやく発した声は自分でも滑稽に思えるほどかすれていた。

 が、ショウはそこには触れてこない。淡々と、普段以上に落ち着いた調子で続けた。

「やっぱり君を放ってはおけないってことだよ、ユーリ」

「……」

「たしか前にも言ったことがあったね。『指図するな』って。そのことは君にとって、ものすごく重要な意味があったみたいだね」

 徐々に頭が冷えてくると、逆に顔が火照りだす。

 “ここ”でまでこんな無様をさらすなんて。こんな形で本性を暴かれるなんて。

 こんな、こんな――

「試すようなこと言ってごめん。それともうひとつ、先に謝っておきたいんだけど」

 もうやめてほしい。

 耳を塞いでしまいたいようなユーリの心中を知ってか知らずか。ショウは微笑と共に言い切った。

「僕は指図はしないよ。でも、皆を無事に最終ステージまで連れて行くって約束したからには、さっき言った通り、さよならするわけにはいかない」

「……っ」

「君がパーティから離れるって言うなら、僕の方で勝手に君についていく。僕の意地というか、わがままだと思ってくれてもいいよ。とにかくこれだけは譲れない」

 ユーリはためらいがちに目を上げた。その先で変わらずこちらを見据える青も迷いのない表情も。

 ひどく、眩しく感じられた。



            * * * * *



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