オラクル Ver. アフロディテ -6-
ユーリは驚いて硬直する。が、すぐに青色と目が合った。
そろりと窺ったショウの表情は、思ったよりも穏やかだった。
「僕らを待っててくれればよかったのに」
「ショウ……くん」
「治癒を!」
やわらかく着地した先にはもうダンテが待ちかまえている。
『魔法:サブマ』
淡い光に包まれて、負傷した手足が復元されていく。その間にふたつの影が飛びだしていった。機敏に駆け回りながら合間に攻撃を加え、ドラゴンの注意を引きつける。機動の高いアヤノとアルのコンビネーションは威力絶大だ。
「ユーリ、動ける?」
問いかけにつられ、復元したばかりの左手を開いて、閉じる。とたんに鋭い痛みが腕全体を突き抜けた。動けなくはないが動きたくない感じだ。顔をしかめていると、ショウが膝をついてのぞき込んできた。
「痛むの」
「ちょっと、ていうか、結構」
「そっか。損傷が大きすぎて体が驚いてるのかな。……動くんだよね?」
「まあ、一応」
「それじゃあユーリは休んでて。ボスは任せてよ」
ショウは立ち上がり、視線をまっすぐドラゴンへと向ける。
「ダンテはサポートよろしく」
「3人でやれるのか」
「うん、なんとかなるんじゃないかな」
ユーリと、気遣わしげなダンテを等分に見下ろして。
ショウは笑った。不安も疑念も吹き消すような力強い笑みだった。
「ありがたいことに取り巻きは潰しておいてもらったし。ここからは、僕達の番」
言うが早いかショウの姿は視界から消える。と思えばもうドラゴンの頭上にいた。
『魔法:メテオリティス!』
ドラゴンめがけて光の筋が雨霰と降り注ぐ。銃声と、鋼の風切り音。ユーリの攻撃はほとんど効かなかったのに、今は馬鹿みたいなペースでダメージ表示が飛ぶ。
能力値を使うか使わないかでこんなに差がつくものかと、半ば他人事のように考えた。
しばらくショウ達の戦いぶりを眺めたあと、ダンテの方を見てみると、宝剣を握りドラゴンを注視している。いつでも魔法が使える――どんな風にも動ける体勢だ。
「……ねえ」
試しに話しかけてみた。するとダンテは声だけ落とす。
「なんだ」
「ずいぶん早かったじゃない、ここまで来るの」
「そうだな。大分急いだ」
「どうして?」
「ショウが言うのでな。お前を放ってはおけないと」
「……」
「アヤノはそれに賛同した。俺には俺の考えがあった。アルは、本心ではどうだったかわからんな」
「急にずいぶんとおしゃべりね」
ドラゴンの咆哮が響く。ダンテの表情に緊張が走ったものの、ショウ達の方は変わらず動き回っているから問題ないのだろう。
「――聞かれたことを答えたまでだが?」
「あ、そ」
「それ以上の話は奴を倒したあとだ」
「はいはい」
一閃、ショウが前脚を斬りつけた。ドラゴンがバランスを崩す。その背に飛び乗ったアヤノが曲刀を振り下ろす。
「そろそろっ! 倒れやがれえええええ!!」
アルの雄叫びが相変わらず呆れるくらいやかましい。
まあとにかく、この調子なら通常クリアはできそうだ。結果オーライというやつか。この後をどうするかは、考える必要があるだろうけれど。
「なんだか疲れちゃった」
「勝手な単独行動をとるからだ」
「話はあと、なんでしょ。それにしても動けないとヒマね」
これには返答がなかったので、ユーリも黙って自分の膝に頬杖をつく。と、ちょうどドラゴンが脚を折り、べたりと腹を地につけた。それでも抗うように大きく開きかけた口、その正面にアルが走り込んだ。
銃口をドラゴンの口内に突き入れ、撃つ。
その両脇からショウとアヤノが同時に首を突き刺した。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア
岩壁を揺るがすような悲鳴を残し、黒い巨体が沈黙する。ユーリは仕事を終えた3人におざなりな拍手を送った。
「おつかれさまぁ」
「ユーリ。怪我は」
アヤノとショウが駆けてくる。アルはそのあとからゆっくりと。ユーリのかたわらではダンテがやっと宝剣を下げた。
「大事ないはずだ」
「そろそろ動ける? 無理ならもう少し待つけど」
「……。ねぇ、あなた達って」
ユーリは他の4人を見上げ、座り込んだまま首を傾けた。
「馬鹿?」
「は!? おま、せっかく来てやったのにいきなりそれかよ!?」
予想通り沸騰したアルはさておき、ショウに視線を留める。と、ショウは一瞬意外そうに目を開いた。そうして笑う。少しばかり意地悪げに。
「僕はそうかもしれないね」
「なにその顔」
「ユーリこそ。もしかしてそれが、本当の君の顔なのかな?」