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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第8ステージ:洞穴
123/200

オラクル Ver. アフロディテ -5-



魔法マギア:カタラクティス』


 水の防御壁がコウモリをはじき返す。それを横目に見ながら足早に前へ。

 途中には脇道があった。アヤノは少しだけ首を伸ばして見やったが、少なくとも戦闘しているような気配はない。それだけ確認できればあとは、前へ。

「もうすぐボスのテリトリーに着くよ」

「第8ステージのボスについては覚えがある。たしかドラゴンだったな」

 視線だけを向けるダンテに、ショウは指で丸印を作って見せた。

「正解」

「ドラゴンか! なんだそれカッケーな!」

「そう? 喜んでくれる?」

 アルが興奮した声を上げ、ショウも嬉しそうに目を細めた。するとアルのテンションはますます高くなる。

「喜ぶって! マジで! 途中の第8で出ちまうのはもったいねー気もするけど、ドラゴンと戦うとか燃えるじゃんか!」

 アヤノはつられてドラゴンと戦う自分の図を思い描いた。――確かに、身体がじわりと熱くなる。気づけば剣の柄を握る手が強く脈打っていた。

 とそこで、しばらく黙っていたダンテが口を開いた。

「その気分は俺も理解できる。古来ドラゴンは敵対するもの、手強い幻獣というイメージが強い。倒すべき敵としての設定は適切だ」

 これにアルが反応する。銃を振り回しながらダンテ相手に力説を始めた。

「だよな!? 相手にとって不足ねーってやつ!」

「今この状況にあっては不足である方が有難いともいえるがな」

「んなことねーだろ、強いヤツをぶっ倒すのがいいんじゃねーか!」

「心配は要るまい。ここまでの敵よりも弱いということはないだろう。こんな時でさえなければ、困難に挑むことも好もしい」

「! だよなー!」

「ただし、今はあくまで『非常事態』ということを忘れるな。いっそそうした強力な幻獣を仲間に加えられればと考えないでもないな」


「――え?」


 急にショウが足を止めた。目を見開いたまま何か考えているようだ。

「ショウ? 何やってんだ?」

「……思い出した……」

「あん?」

「“召還士の噂”。誰かが掲示板に書き込んでた。まさかユーリ、あれを信じて」

 同時に、今度は全力で走り出す。アヤノ達は慌てて後を追った。

「ショウ!」

「ユーリはまっすぐにボスのところへ行ったはずだ! 急ごう!」

「確信があるような口ぶりだな」

 前を行くショウは横顔だけをこちらへ向けた。


「ある! ユーリはたぶん、ここのボスを自分の召喚獣にしようとしてるんだ!」




            * * * * *



 以前、どこかで誰かが書き込んでいた。召還士を名乗のるプレイヤーだった。


『召還士は体力的で他より弱いけど、

 代わりに特典があるらしいぞ!


 条件はステージボスを1人で倒すこと。


 で、倒すのと同時に能力値タレンドを消費すると、

 そのボスを手持ちの召喚獣にできるんだってさ!』


 ずっと、それを試してみたかった。せっかくだから強いのを。カッコイイのを。そう思って調べていたら、第8ステージにドラゴンがいるとわかった。

 だから1人でここへ来た。能力値タレンドを稼いで回復アイテムを限界まで買い込んで。

 考えられる限りの準備はしてきた――はずだった。


「それでも、これだけ力の差があるわけね……!」


 ザコを散らすまではなんとかなった。けれど肝心のドラゴンに対して、いくら攻撃をくり返してもまったく手応えがない。アイテムばかりがどんどん減っていく。おかげでもう満身創痍だ。

「あーあ、とりあえず今回は無理そうねぇ。ま、そもそもあの噂が本当かどうかもわからなかったんだから、別にいいけど」

 つぶやいたその目の前で、ワニのような四つ足のドラゴンが吼えた。

 このステージボスは、動きはにぶいが破壊力がとんでもない。魔法攻撃もかなりのもので、とにかく範囲が広くてなかなか避けきれず、それで最初に足を片方焼かれてしまった。おかげでうまく動けなくなって、左の肘から先も失った。

 ユーリはだらりと錫杖を下ろした。こうなったら勝てる見込みは薄い。次の一撃を正面から食らって終わらせてしまう方がいいかもしれない。ショウ達が知ればうるさいだろうからその前に。

 自分は自分の思う通り行動した。それがうまくいなかっただけのことだ。もういい。受け入れて、終わらせる。

「“ゲームオーバー”」

 まっ黒なドラゴンがのしかかるように迫ってきた。至近までやってきてかぱりと大きく口を開ける。これで終わりだ。ユーリは意外なほどの満足感を覚えつつ、静かに目を閉じた。

 その時だった。


「――ダメだよ、ユーリ」


 ふわりと身体が浮く感覚と共に、耳元で低いささやきが聞こえた。




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