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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第1ステージ:市街
12/200

オラクル Ver. ヘラ -5-


 ねじ曲がった街並みもいい加減に見慣れてきた。しかしそれも今さらだ。

 終点は、もう近い。

「やっと来たか! 2人ともおっせーぞ!」

 道の奥に見える曲がり角の手前で、アルが大きな銃ごと手を振っていた。その先に第1ステージのボスがいるはずだ。アヤノは少し足を速めた。ショウは相変わらず、歩調を合わせて少しうしろをついてくる。

 走りながら目線をずらす。広げたままの地図マップの右下。

 オラクルエリアの敵の残数は、1だ。

「やあ。そっちも無事だったみたいだね……」

 アルの方からもこちらへ歩み寄ってきた。それをよく見ると、かなり不満そうに頬をふくらませていた。

「おいこら。ショウ。なんでちょっと残念そうなんだ」

「え? そんなことはないよ? お互いなかなかがんばったよね。あとはボスさえ倒せれば目標達成だ」

 ショウのもの言いははぐらかすようだったが、アルは簡単に引っかかり、うって変わって嬉しげな顔でこぶしを握る。

「だな!」

「“紋章クレスト”まではもうひと息だよ」

「おうっ! ――お、アヤはレベル上がってんじゃねーか」

 ふとこちらに目を向けたアルがにっと歯を見せた。アヤノはふいと顔をそむけた。

「これだけ戦って、上がってなかったら逆におかしい」

「ていうかさ。実は前から気になってたんだけどさー」

 アルが腕組みをする。何やら見られているらしいと気づき、眉をひそめる。

「なに」

「つまりレプタも溜まってきてるってことだろ。そろそろ装備品買った方がいいんじゃねーか? それ初期装備のまんまじゃん」

「悪い?」

「悪かねーけど露出度高いだろ。自分で気にならねーの?」

 はたと、アヤノは自分を見下ろした。白い布を巻きつけたような服――キトンという民族衣装らしい――それにたすきがけの革の胸当て。あとはサンダル。剣と鍵をつけるためのベルト。それで全部だ。

 装備品が少ないのは仕方ないとして。言われてみれば、キトンの布地はやけに薄い。体の線が透けそうなほどだ。意識したとたん、急に顔が熱くなった。

「……あんたって、そんなとこばっか見てんの」

 照れ隠しと腹立ちまぎれにアルをキッとにらみつけた。すると、アルは噴きだした。

「わかったぜ。たぶんお前って、“中身”もオンナだよな……ってうわっ!」

 途中から悲鳴に変わったのはアヤノが殴りかかったからだ。とっさに身をかがめてよけたアルは、いぶかしげに見上げてきた。

「んだよ、そんな怒んなよ」

「今のはアルが悪いよ……セクハラ発言」

「! お、オレはただ、そーいう反応するくらいだし、男じゃなさげだなって思っただけだって」


「女で何が悪い!!」


 思わず力の限り怒鳴っていた。

 一気に沸騰した感情とは逆に、3人の間の空気は冷えていった。なだめるように手を上げたショウも、目から笑みが消えている。

「まあまあ……アルに悪気はなかったと思うよ。考えなしだったのは確かだけど」

「馬鹿にするな……!」

「は!? バカになんかしてねーって、どうしたんだよ急に」

 アルが困惑の声を上げる。それでまた怒りが増長した。子供じみた反応だという自覚はうっすらとあった。それでも、どうしてもおさえられない。

 理由はわからない。――思い出せなかった。

「だったら! “中身も女”ってどういうこと!」

「いや、ほら、アルが言ったのは、アヤがリアルでも女の子じゃないかって意味で」


「“リアル”って何! 意味がわからない!!」


「――アヤ!!」


 突然肩をつかまれた。反射的に払いのけようとするが、かえってショウの手には力がこもる。

「ちょっと待って。落ち着いて。君の名前は?」

「え……」

 聞かれた意味がわからない。問い返そうとしたができなかった。

 正面からのぞきこんでくるショウの顔が、まなざしが、戦っているときよりもさらに恐い。

「口に出して言わなくていいよ。思い出すだけ。それで……アヤノっていうキャラクターじゃない、君の“現実世界での名前”は、なに?」


 ――キャラクター?


 ――“現実”?


 ちくりと、電気のような痛みが頭を刺した。

 現実。

 現実世界とは……なんのことだろう?

「お、おいおい、マジかよ。なんかそういう症状があるって聞いたこたあったけど」

 答えられないアヤノに、アルも顔色を変えた。ショウがうなずく。そしてきつく眉根を寄せた。


「“幻想症候群”かもしれない。今回はもうやめておこう。出直した方が無難だ」



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