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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第8ステージ:洞穴
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オラクル Ver. アフロディテ -1-


 しばらくレベル上げに徹した結果、無事、全員が第8ステージのオラクルに挑めるところまできた。

 その間に気づいたことがある。まずひとつ、セーフティエリアにも敵は出現するようになったが、それでもバトルフィールドより頻度は低いということ。だから休憩をとるくらいの余裕はあって、今のところ、皆そこまで消耗していない。少なくともアヤノにはそう見えている。

「運動するとおなかすいちゃうわぁ」

「しっかり食べて回復して。そろそろ“オラクル”まで進むよ」

「あら本当?」

「なーなー、レベル上げけっこう早かったんじゃねーか? 他に誰もいねーと捗るもんだな!」

 気づいたことのもうひとつ。アルがやけに上機嫌だ。少し前――たぶん、セーフティエリアに敵が出始める前くらいまでは、不機嫌そうに黙り込んでいることが多かったような。特に、ちょうど今のように、ユーリが近くにいる時は。何かしら心境の変化でもあったらしい。

「そうだね。皮肉な話だけど。ああそれと、ダンテのレベルも追いついてきたみたいでよかった。安心したよ」

 アヤノはショウにつられてダンテを見上げた。ダンテは他メンバーにレベルで出遅れている期間が長かった。けれど、それはもう以前の話になった。

 見上げた先では漆黒の眼が細まった。

「皆が戦闘時の配分を考慮してくれるおかげだ」

「君の努力も大きいよ。けど、前はもっと、経験値をとるのに苦労していたっけ……ね……?」

「……ああ、そうだったか……」

 不意にショウとダンテが揃って首をひねる。腑に落ちないといった風だったが、どちらも納得のいく結論には至らないようだ。

 前は、とアヤノも少し考えてみた。しかし考えようとするほど頭の中がぼやけた。うまく集中することができない。疲れているのだろうかと目をこすっているところへ、ショウの苦笑が聞こえた。

「けっこう長くフィールドに出てたし、疲れてるのかもね。ここで休んでおこうか」

「あ。うん」

「了解した」

「はぁいはいはい」

「だったら最初の見張りはオレがやる。いいだろショウ」

「ありがとうアル。助かるよ」

 ショウの返答にぱっと目を輝かせ、アルはいそいそと銃を肩に担ぐ。それを確認し、お互い離れすぎないようにして、皆それぞれ洞窟の壁に寄りかかった。

 短時間でも眠っておくと動作効率がぜんぜん違う。だからここのところ交代で見張りを立てながら定期的に仮眠を取っていた。最初にそれを言い出したのはショウで、さすがといったところだ。

 アヤノも膝を抱えて顔を埋めた。目を閉じるとすぐに意識が鈍化する。アルが見張ってくれるからには、起こされるまでは安心だ。

 まぶたの裏の暗い世界をぼんやりと眺め。

 そのうちに、微かな光がもやのようにわき上がったのを見守り。

 光が色づいてばさりとはためいたところまでを確認し、顔を上げた。すると、ちょうどアヤノの肩をたたこうとしていたショウと目が合った。

「起きた?」

「ん」

「あれ。どうかしたの」

「え?」

「悪い夢でも見たような顔してる」

「……そう、かな」

 アヤノは自分の頬を撫でてみる。顔はよくわからない。が、たしかに少しだけ胸が痛むような気がしないでもない。ほんの、少しだけ。

「夢は、見た……かもしれない」

「大丈夫?」

「大丈夫」

「なんだよアヤ、具合でも悪くしたのか?」

 アルも驚いた顔で寄ってきた。向こうではダンテがこちらの様子を窺っている。アヤノはあわてて首を振った。動くことはできるし、皆が心配するほどではない。

「なんでもない。平気」

「だったらいいけど、無理はしないようにね」

 ショウが頭に手を乗せてきた。軽くなでて、すぐ離れていく。その後をアルが追った。

 しっぽを振る犬度合いは前よりも確実に上がっていた。

「なにかしらねぇあれ。なぁんかヘンな感じしない?」

 入れ替わりにユーリが寄ってくる。視線でアルを示しながらこそりと耳元にささやいた。変な感じというのは同感だったから、アヤノはうなずいた。

「でっしょぉ?」

「テンション、高いよね」

「それもあるけど、そんなことよりちょっと甘えすぎじゃない、ショウ君に」

「あ」

 そうか、あれは甘えているのか。

 言われてやっと違和感の正体を理解した。初対面の時にはもう、アルはショウに執着があるようだった。その延長戦というか度を超えた結果があれということだろうか。

「あそこまでって不気味よねぇ。ま、私には関係ないしどうでもいいんだけど」

 ユーリは肩をすくめるとあっさり行ってしまった。そのことに、アヤノは眉をひそめた。

 また違和感だ。何か変だ。何か、違う。


 けれど――何が――?


「アヤ、やっぱりまだ疲れてたりする?」

 気遣わしげなショウの声で我にかえった。皆の態度は普通だ。いつも通りだ。

 ということは、おかしいのは自分の方なのだろうか。

 わからない。――けれど。

「疲れてないから。行こう、“オラクル”」

 立ち止まるくらいなら先へ。次のステップへ。目的の“第13ステージ”まで、まだまだ長いのだから。

 アヤノは精いっぱい普段通りの顔をして、いつもより早足で歩き出した。



            * * * * *




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