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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第8ステージ:洞穴
114/200

ペイン -2-


 ともかく先に大蛇を片づける。そう決めて尾の方向へ走った。が、蛇は素早く身をくねらせると壁づたいに天井まで這い進む。行動できる範囲が広いことは頭に入れておく必要がありそうだ。


使役獣召喚プロスクリシー:プロヴァート!!』


 ユーリが鋭く声を上げる。ちらりとだけ向けた視線の先には金色の羊がいた。防御召喚獣だ。金色の膜が広がったところへ壁からムカデが飛びかかり、弾かれて地面に落ちた。

 アヤノはすぐに目をそらした。すれ違ったショウがすれ違ってそちらへ駆けていったからだ。

「挟み撃ちには注意して!」

「おおっ!」

「360度移動可能って面倒くさいわねぇ!」


魔法マギア:アンベロス』


 ダンテの蔓魔法が蛇の尾を壁に縫いつけた。移動を妨げられて頭がだらりと地に触れる。アヤノは即座に突っ込んだ。

 頭部を潰す。噛みつきの危険はあるが1番効果的にダメージを与えられるはずだ。


『アンベロス!』


 重ねての詠唱。ダンテが意図を汲んでくれたようだ。2本目の蔓が頭を捉える。これで危険は軽減した。アヤノはまっすぐに、最大速で突きかかった。

「っ、まだ――」

 眉をひそめて後方へ離脱する。大ダメージが表示されたというのにまだ絶命には至らない。思った以上に生命力の強い敵だ。

 と。


「下がっていてくれ」


 有無を言わさぬ口調に全員がふり向き、その場で動きを止めた。それはちょうどムカデが大蛇のすぐそばまで移動していった時でもあった。

 ダンテがそこへ宝剣を向ける。


魔法マギア:ケラヴノス!』


 稲妻が走った。

 アヤノが初めて見る魔法は大蛇の頭のつけ根を射抜く。大蛇は崩れ落ちた。しかしムカデはそのまますり抜けてアルに襲いかかる。

 銃声。

 臆すことなく正面から、顔のどまん中に撃ち込んだアルに続いて、ショウの剣が一閃した。それで、ムカデも墜ちた。

「すまない、ふたりとも。攻撃範囲を読み誤った」

 ダンテが足早にショウとアルへ歩み寄る。アルが笑って手を上げた。幸い怪我はしていないようだ。

「これくらい! なんてことねーよ」

「空系攻撃魔法……しかも強攻撃、だね?」

「ああ。なるほど扱い難い」

「おまけに魔法ゲージの消費も早いだろう。どうして急に?」

 ショウの問いかけに、ダンテは口の端を上げた。

「これまで全体効果の攻撃魔法を選択してきた。しかしそれでは対応しきれない場面があると学んだからだ。であればせっかくだ、『最強』を扱ってみるのもいいと考えた」

 “空”系魔法は効果範囲が極端に狭く、代わりに随一の攻撃力を誇る。うまく扱うことができたなら重宝するだろう。特に船内や迷宮、この洞穴のように、四方を囲まれた類のステージでは。こういった場所での全体攻撃には視界を奪われるというリスクがあるからだ。

「魔法力であれば“術士”の俺は“戦士”のお前に勝る。その特性を利用しない手はあるまい」

 まっ向から、どことなく得意げに告げられて、ショウの表情がほころんだ。なんだか生徒の成長を喜ぶ先生のようだと、アヤノはつい考えた。

「うん。そうだね」

「! ショウ!」

 突然アルが銃を構え直した。はっとして銃口の先を見ると、倒したはずの大蛇がまだ消えていない。

 それどころか見る間に色味が変わり、全身モザイク模様に覆われていく。

 戦慄が走った。“あれ”にユーリが襲われた場面が否応なく思い出される。このところなりを潜めていたが、やはり急にいなくなるなどという都合の良いことはないらしい。

「くそ、またかよ……!」

「いまだに出現条件がよくわからんな」

「ショウ」

「うん。……大丈夫、僕もちょっと、本気出してく」

 ふと見上げたアヤノは、思わず息を呑んだ。ショウが笑っている。とてもとても、楽しげに。

 剣を掲げる。す、と息を吸うのが聞こえ、そして。


魔法マギア!:メテオリティス!!』


 詠唱と共にたくさんの光の筋が奔った。さながら流星のように流れ落ち、モザイクのある1点で集約される。

 一撃だった。モザイクは金属音のような声で啼き、そのまま、消えた。

「……はは……調子に乗っちゃったかもしれない」

 ふり向いたショウがきまり悪げに苦笑した。その時にはもう雰囲気は元に戻っていたが、すぐには誰も何も言えなかった。

「みんな?」

「……お前もだったか。新しい魔法を」

 ようやくダンテがつぶやいた。ショウは目を細め、肩をすくめた。

「君の言うとおり、魔法は専門家に任せた方が良さそうだ。同じ“空”の強攻撃なのに、もう魔法ゲージがカラっぽになったよ」

 そう言いながらきびすを返す。アヤノ達に背を向ける。

 歩いていった先は、片膝を立てて座り込んだままのユーリの元だった。




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