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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第8ステージ:洞穴
111/200

ラグ -2-


「これは私より、アヤちゃんから説明した方がいいわよねぇ」

 ユーリが流し目をくれると、アヤノは何度か瞬き、記憶をたどるように視線を落とした。ショウはアヤノが話し始めるのを待った。

 それから少しして。

「エリアの、北側。裏道までひととおり見て回って。そしたら……影が」

「影……」

「ちらっと目の端に見えて。とっさに斬っちゃったから、どんなのだったかわからなかったけど。斬った手応えはあった、と思う」

「私もちょうどそこに居合わせたんだけどねぇ。遠目でよくは見えなかったわぁ」

「一応、バトルフィールドの境目近くだったけど。一応」

 アヤノは念を押すように付け加えたが、それでも聞き捨てならない。ここは“セーフティ”エリア。絶対に敵が出現することのないように作られた場所だ。そこに敵の影が現れただけでも大問題である。運営サイドがこれまでのように世界をコントロールできていないということになってしまう。

 なぜそうなった。みつかったのが休止中で、みつけたのがアヤノだからまだ良かったものの。それとも“それ”が休止の理由か。すぐにも叔父と連絡をとるべきなのだろうか――

「ショウ」

 そこまで考えたとき、ダンテに肩をたたかれた。軽く横に首を振る、その意図はたぶんわかる。彼はこのところ自分に甘すぎるように思う。

「今できることを優先すればいい。問題ない」

「……そうかな」

「そうだ」

「ほぉんとあなた達って、ときどきいい雰囲気すぎてあやしいわねぇ」

「あーはいはいそれはよかったね」

 ユーリに関しては、ひとを茶化すのはほとんど習性なのだろうと割り切って流す。とはいえこれが出ると思考ループが止まるという意味ではありがたいのかもしれない。今後を含め絶対に口に出すつもりはないが。

「立ち止まってても仕方ないか。進もう。ただし注意は怠らずに。――あと5つ“オラクル”をクリアすれば、13ステージへの道が開くよ」

 叔父にはあとで連絡を取ろう。皆がいないところで秘密裏に。そうしてこちらの動きに影響がなさそうな限りはとにかく進む。今のところはそれでいいだろう。


「さあ、次のステージに飛ぼう!」




            * * * * *




 “はじまりの扉”から第8ステージへ。

 アヤノが目を開くと、周囲は濡れ光る土色の岩に囲まれていた。岩はドーム状になっているようだ。ところどころから水滴が落ちて水たまりを作っている。空気は夏場の雨の後のような湿気を含む。

 案の定、プレイヤーは5人の他見あたらない。


「ここは“洞穴”のステージ。守護神はアフロディテ。別名“ヴィーナス”っていう方がわかりやすいかな」


「ヴィーナス」

「ああ、それなら私も知ってるわぁ」

 全員が同じような反応を示した。ヴィーナスといえば有名な絵画や彫刻があるし、割合あちこちで聞く名前だ。これまでで1番馴染みやすいかもしれない。

 それにしてもと、首元の布をつまんでくつろげる。環境変化がなかなかに厳しい。汗が流れるほど暑いわけではないにせよ、雪山からすぐここへ来たのだ。体が慣れるまでにしばらく時間がかかりそうだった。

「あ、そういやオレまだアイテム補充してねーや」

 不意にアルが言い出して、ショウが向こうの岩壁を指さした。よく見るとそこには長方形に近い穴があり、傍らには看板も立っているようだった。

「それならまず買い物タイムにしようか。ほらあそこ、あれがお店だよ」

「へー、岩をくり抜いて店舗を造ってあんのか!」

「おもしろいでしょ?」

 そんなやりとりを聞きながら、アヤノはじっとショウを見ていた。

 口を開きかけてやめるという動作を2度くり返したところでいきなり背後から肩に手を置かれ軽く押された。ユーリだった。

「ねーぇショウくん。アヤちゃんが何か用があるみたいよぉ?」

「ん? なに?」

「あ、……ええと」

 不意打ちに言葉を詰まらせつつ。一応、事前に考えて用意して置いた言葉を口にしてみる。

「ちょっと、新しい武器、見てみようかと思って。できたら……一緒に」

「……もちろん見繕う手伝いはするけど?」

 ショウが不思議そうに見返してきた。それだけか、と問いかけてくる視線からは目をそらす。――当たりだ。武器選びは本題ではない。ショウも察しているのだろうけれど、とりあえず聞かないでいてくれるようだった。

 だから、2歩3歩と皆から離れて立ち止まり、ふり返る。ショウが肩をすくめて歩き出す。

 追いつくまで待ってから、2人並んで武器屋へと足を向けた。




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