ラグ -1-
第7ステージをできる限り隅々まで調べた。さらに第6、第5と戻ってみても、結局のところプレイヤーはひとりも見つけられなかった。いるのは店員や案内役といったNPCばかりだ。
店を覗き何度目かの確認をした後、ダンテが一緒に来ていたショウを見下ろすと、これも眉根を寄せていた。他はと見回す。他の区画を当たっている3人の気配は近くにはない。
「何があった」
「――ダンテ、リョウジおじさんからメッセージは来てない?」
「ないな」
「そっか」
「それは心当たりのある顔か」
「うーん……ちょっと待って」
ショウは画面を呼び出して何かしら確認し、ほどなくして、低いうめき声と共に顔を仰向けた。
「閉鎖、された……」
「なに」
「こうならないように、頑張ってきたつもりだったんだけどなぁ……」
ダンテもまた掲示を確認し、得心して息を吐く。
“テオス・クレイス”自体が長期メンテナンスにより――というのはおそらく口実だろう――停止された。とうとう運営の上層部で問題視されるようになったのか、はたまたプレイヤーから苦情が出たのか。いずれにせよショウら運営側が、痛手を被るのも覚悟でそうせざるを得ない状況にまで陥ったということだ。
「信用問題でもあるからな。だがこうなった原因がお前だというわけでもあるまい」
「そうは言っても……」
「お前はよくやっている」
「そんなことはないよ。結果が伴わなくて情けないな」
「落ち着け」
ショウはいつになく取り乱した様子だ。普段の言動が自信に満ちている分、こうした部分を晒されるとさすがに動揺を覚える。
先に己を落ち着かせようと、ダンテは軽く息を吐いた。責任感の強い彼の気持ちはわからないでもない。しかしここで気を落としたままいられるのも困る。彼は自分たちの先導役なのだから。
「まずは目的を果たし、騒ぎを収束させることだ。悔いるも詫びるもその後でいい。違うか」
「……」
少しの間どちらも黙る。その後に。
「そうだね。しっかりしないといけないよね。みんなを、ちゃんと最後まで連れて行かなきゃならないんだから」
浮かんだのはまだ少しばかり弱い笑みだった。ダンテは思わず目をそらし、黒髪の上に手を置いた。そんなことをした自分が自分でも意外だった。
「え、ダンテ」
「大丈夫だ」
「ええと……ありがとう……?」
「それにしても」
ふと気にかかったことがあり再び見下ろすと、見返してくる青眼がきょとんと瞬く。おとなびた見目ではあるが――もしかするとショウの実年齢は自分より下かと、そんなことも脳裏に浮かんだ。
「変わっているな、お前は」
「僕?」
「この世界を守ろうとしているのはわかる。だがその割には、あまりに利を顧みない」
この世界は、基本的に金銭をかけることなくイベントに挑むことが出来る。ショウも自らそれを実践しているようだし推奨する。もちろんプレイヤーからすれば負担が少なく済むのはありがたい。しかし彼が運営側の人間であることを考えた時には、そのスタンスは不思議に思えるのだ。
この世界を、“テオス・クレイス”を維持するにもそれなり以上の金銭を要するはずで、それをショウは考慮していないということになるからだ。運営の正規職員ではないというから、単にそこまで気にしていないだけのことか。それとも何か、営利を度外視するだけの理由が彼にはあるのか。
どう返答するのかと窺えば、ショウはきまり悪そうに首を振った。
「僕は僕で、やりたいようにやってるだけだから。益がないなんてことはないよ」
「そういうものか」
「うん」
「そうか。突然すまなかった、ただの興味本位だ」
「いや、別に――」
言い終えるか終えないかというところで、ショウはぴくりと向こうを見やった。同時に、声が飛んでくる。
「おーいショウー!!」
アルを先頭に、別行動をとっていたはずの3人が揃って駆けてくるところだった。きっとどこかで合流したのだろうが、それにしても。
「様子、変?」
「そのようだ」
「どうしたのみんな?」
ショウの表情が引き締まる。ダンテも腰の宝剣に軽く手を添えた。
こちらからも歩み寄っていき、互いに顔を見合って足を止める。アルはひどく息を乱していた。対してその後ろのユーリとアヤノは、若干青ざめながらも、どちらかといえば困惑気味の顔だった。
「どうしたの」
「――出た」
「出た? って何が?」
「ここ、セーフティエリアで間違いないわよねぇ……?」
ユーリが割り込んで、眉をひそめながら口元を手で隠す。
「出たのよ」
「だから何が?」
「敵……だと、思う」
最後にアヤノがぽつりと漏らした。途端に、ショウの声音が鋭さを増した。
「もう少し詳しく、話してくれるかな」




