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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第7ステージ:氷原
108/200

オラクル Ver. ヘスティア -6-


「敵残数」

「ゼロから動いていない」

「モザイクは……出てないね?」

「そのようだ」

「おっし、ここもクリアだな!!」

 アルが満面の笑みで両手を振り上げた。

 空気が緩む。心なしか雪の勢いも弱まったように感じられる。ショウだけはまだ警戒しているようで、緊張感のある表情だった。

「もう少し苦戦するものと思っていた」

「なあ! オレ達ってもしかしてすごくね!?」

「油断して魔法攻撃食らった君が言えることじゃないね」

 微苦笑と共に、ショウが下がりかけた手首を握る。アルがうっと痛そうに顔を歪めた。

「ほら、ここにも切り傷作って」

「あり?」

「深いな。回復アイテムはあるか」

「ある。てか気がつかなかったな……血が出てねーからか」

「戦ってる間はアドレナリン出ちゃって気づかないこと、あるわよねぇ」

 ユーリは、口調は気遣っているようでいて『そんなことも知らないの』とでも言いたげな表情を浮かべていた。アルの眉間にしわが寄る。これは良くないだろうと思いアヤノは口を開きかけた。が、先にショウが割って入る。

「ユーリは無駄に煽らない。アルも乗らない。ユーリの性格の悪さは今に始まったことじゃないんだから」

「んもぉショウ君たらひっどぉい」

「反省しない君も悪いよ」

 ショウが冷ややかに言うとおり、ユーリはまるで堪えていない様子で笑った。まあ、例によって例のごとくだ。アヤノはほっと息をつく。これでいつもどおりだ。


 いつも通り――の――はず――


「ところで、ダンテ」

 腕組みしたショウが強めの声を発した。アヤノは思わず1歩後退する。ダンテはと視線を移せば、こちらも若干気まずい顔だった。

「さっきのはずいぶんな無茶だったよね」

「……今回は、そうかもしれん」

「もう少し自分のことも考えてほしいってちょっと前にお願いしたばかりだったような気がするんだけど?」

「実際のところ考えている間がなかった。しかし俺は魔力と生命力の強化を重視している。生命力の弱いアヤノよりは生存の可能性が高かった」

「あ」

 ふと思い出した。ユニコーンの攻撃から庇ってもらったのに、その時は状況をうまく把握できなかった。


「そうは言っても――」

「ダンテ、さっきは」


 思い立ったままに口にしたのがよくなかった。ショウが言いかけたセリフに完全にかぶってしまって、2人同時に口を閉じるはめになる。

 ショウと目が合い、少しの間、沈黙があって。

 目をそらしたのはショウの方だった。

「お先にどうぞ」

「……ええと」

「感謝を伝えるのは大事なことだよね」

「……」

 改まって促されると、かえって言いづらくなる気がしないでもないが。

 アヤノはちょっとばかり耳が火照るのを感じながら、小さく息を吸った。

「さっき。助けてくれてありがとう」

「……いや」

「遅くなってごめん」

「気にするな」

「……」

「……」

「お前らどっちも無口だなー」

 呆れたようなアルの一言で、ダンテはアヤノから1歩離れた。

「必要なことは話している。それで……続きは」

 ぶっきらぼうに言って視線を戻すと、ショウは気の抜けた表情で肩をすくめた。少し前までの尖った雰囲気は、もう感じられなかった。

「この流れでまだ続けるのも、ちょっとね」

 そのままアヤノ達に背を向ける。と同時に、ダンテがこちらを見ないまま手を伸ばしてくる。そのままくしゃりと頭をなでられた。

「こちらも助けられた。ありがとう」

「……別に……」

 ふるふると首を振る。ショウは怒らせると怖そうだから、本気にさせず終わったならアヤノの方でもありがたいのだ。

 不意に風が強くなった。雪が吹きつけ、とっさに目を細めて手で覆う。そこへショウのいつも通りの声が届いた。

「神殿に戻ろう。次のステージが待ってる」

 とっくに扉は出現している。戻るために“それ”に触れる、その寸前。

 アヤノの頭の中で何かがちりりと疼いた。

 予感――のようだった。

 それが勘違いなどではなかったとわかったのはそのあとすぐ。移動の際の閃光を避けるために目を閉じ、また開いてみると。


『やあ。こんにちは』


 そこには、またも“ファントム”の姿があった。



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