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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第7ステージ:氷原
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オラクル Ver. ヘスティア -3-


 アヤノはオオカミの配置を確認した。曲刀タルワールを左手に、右手に以前の剣を呼ぶ。

 投擲する。刃が1体の背を抉っていった。横に飛んで倒れたオオカミをアルが追撃にいく。アヤノ自身はふり向きざまに曲刀を薙ぎ、飛びかかってきた方を払いのけた。

「オオカミ1匹やったぜ!」

「こっちもやったわよー」

 そこでビリビリと空気の震えるような咆吼が響いた。

 ふり返ると、両腕を振り上げもだえる大熊の頭上をショウが飛んでいた。

「――大熊、オーケーだよ」

 そう言ったと同時にショウの手で何か光った。

 ナイフを投げたのだとわかったのはすぐ後のこと。いつの間にかオオカミの横腹に柄が突き立っていて、よろめいているのをとっさに斬り下げた。

「オオカミ。ラスト」

 ヒュッと口笛を吹いたのはアルだろうか。アヤノは他に何もいないのを確認し他メンバーのステータスを確認した。ショウに言われて最近は習慣化に努めている。

「アルはちゃんと回復した? 他は怪我なさそうだね」

「魔力消費も問題ない」

「よし。じゃあ進もう」

「まだ先は長いな」

 敵残数を見ながらダンテが言うと、ショウがうなずきながら笑った。

「やりがいあるでしょ?」

「まあな」

「楽しくない?」

「そういう意味ではない。それに、」

「ん?」

「……。いや。なんでもない」

「え、どうして途中でやめたの」

 急にダンテがしかめ面をして横を向いた。ショウは不思議そうに瞬いている。たぶんアヤノも端から見たら似た顔をしている。その上アルは怪訝そうにしているしユーリは興味津々といった顔で目を輝かせているしで――凄まじい無言の催促に、さすがのダンテも折れた。

 ショウの方は見ずに低い声で。そこはかとなく、耳を赤くして。

「……見ているだけでも、意外に面白いと。このところ思った。それだけだ」

「……うん?」

「お前の戦い方は隙がない。参考になる。……好もしく感じる」

「……ええと……ありがとう……?」

「……わかるかも」

「えっ」

 同意してつぶやいたところ、ショウが目を丸く見開いた。

 かなり疑わしげに見られたが本心だ。ショウが苦もなく敵を斬り伏せていく姿はとても綺麗で、気持ちがよくて、いつまでも眺めていたくなる。

「わ、わかるんだ、アヤには? どういう意味か聞いてもいいかな?」

「いや、この話は終わろう。次が来た」

「ええぇ……」

 ダンテが強引に打ち切った。ショウは『わけがわからない』とはっきり顔に出して唸る。敵がもう視界に入っているからにはこれ以上言わないのだろうけれど。と思っていたら、あからさまに面白がっている表情のユーリがショウに寄っていった。

「ショウ君のそういう顔って初めて見るわぁ。ふふ、かーわいい」

「そういうのはやめてくれるかな……」

「ダンテも柄にもなく照れちゃって」

「……うるさいぞ」

「おいこら、もう敵がいんのわかってっかお前ら!?」

「! 無論」

「わかってるよ!」

 苛立ち混じりのアルの声でやっとスイッチが切り替わった。

 けれどアヤノは、剣を振るいながらもつい頬を緩ませていた。さっきのやりとりはなんだか楽しかった。一緒にいる時間が長くなるほど皆の新しい顔が見えてくる。今さらそれを実感して、嬉しくもあった。話に入り損ねたからか、アルだけは心持ち不機嫌そうだったが。

「トナカイ、もう1体!」

「出現ペース速わねぇ」

「厳しい?」

「なことねーっての」

「この調子であれば、獲れそうだな」

「獲るだろ!」

 戦う合間にそんなことを言い合っていると、ショウが剣を振り抜きながら声を立てて笑った。


「みんながやる気なら、できるだけ援護するよ。約束だからね――『全員で13ステージをクリアする』って」


 朗らかな宣言を耳にしたその一瞬、アヤノは動きを止めた。

 違和感が、あった。約束は確かにしたが。


 ――全員でゲームをクリアすること、それが……約束……?


 しかし考え込んでいる余裕はなかった。さらにまた新手のオオカミが出現して、それと向き合ってしまったら、曖昧な感覚などすぐに消し飛んでいた。




            * * * * *




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