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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第7ステージ:氷原
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オラクル Ver. ヘスティア -1-


 ダンテの話につられ『ピアノが弾ける』と思い出してから、少し、脳裏によぎる影が増えたようだった。影は黄色い鳥の形だったり、白と黒の鍵盤だったり、ひらひらと揺れるブレザースカートだったりする。

 けれど、黄色は時折急に見えなくなる。その後には必ず喪失感が襲ってくる。

 もしかしたら、あの黄色は、もう――


「ああ。ダンテも無事に適正レベルまで来たみたいだね」


 アヤノはショウの声で我にかえった。それからダンテを見上げると、いつもは不機嫌そうに固い表情がどことなくやわらかだ。

 ちょうど『誇らしげな』という形容がしっくりくるような表情だった。

 それはともかく。さっそくアルが反応して声をあげる。

「“オラクル”か!」

「そう簡単には決められないよ。オラクルエリアに入ると、クリアかゲームオーバーかだから」

「だが、これ以上時間をかけてもいられまい。俺は今これから挑むのでも構わないが」

 アルへの賛同は意外な人物からだった。ショウも驚いたようで、いつもより反応が遅れた。

「……君にしては、珍しく積極的だね、ダンテ」

「そうかもしれんな」

「なんだか盛り上がっちゃってるみたいねぇ? で、行くの? 行かないの?」

「行こう」

 ダンテが腰の宝剣に手をかけた。確かにいつもと違う。アヤノも若干驚きつつ、同時に嬉しくなった。これまで一歩引いた態度を保っていた、そんな彼がやる気を見せてくれたのだから、自然とこちらの気分も上がる。

「アイテムは揃えてあるよね? じゃあ……いってみようか」

 ピン、と空気が冷えたような気がした。心地のいい冷たさだった。

 平和なセーフティエリアの外へ。敵のいるフィールドへ。

 その向こうにある、神の居所へ。

「今までのステージと同じに考えないこと。防御魔法はないものと思って。ダメージを通されると逆にあぶない。できるだけ避ける方向で」

「わーかってるって!」

「ダンテ、君は魔法防御が習慣になってるはずだから、特に気をつけてね」

「ああ」

 言っているそばから、進む先に黒い影が見えた。トナカイ1頭、オオカミ2頭だ。蹄で雪を蹴る動作は突進の前兆。5人は一斉に散ってそれぞれの武器を構えた。


魔法マギア:エクリクシー!』


 爆発音と共に雪煙が舞い上がった。火の攻撃魔法を放ったショウは、自身もそのままオオカミに突っ込んでいく。他のメンバーも負けじと動く。

 アヤノはアルと共にトナカイに向かった。まずは脚を崩す。動きを止めればクリティカルのチャンスも生まれる。互いに見合って、それぞれ左右から攻撃を仕掛けた。

「あいてっ」

 ダメージを受けたらしいアルが呻くが、ここは手を休めない。

「しっかり」

「わかってら!」

「オオカミは1体倒したぞ」

「こっちも――トナカイはオッケーだ!!」

「ねぇねぇ新しいのが来てるわよー?」

「おっと、厄介なのが出たね」

 ショウの苦笑いを聞いてふり返ると、黒い影が大きく伸び上がって形を為した。

 熊だ。第3ステージの森にいたものよりも頭ひとつ分以上背が高い。しかもあの大熊は、あれでそこそこ動きが速いのだ。

「ダンテ、足止めを!」


魔法マギア:アンベロス』


 蔓が巨体を絡め取り、その間に全員で周囲の敵を倒しにかかる。途中熊が蔓を引きちぎる気配がしたものの、すぐにショウが飛び出して気を引きに行った。

「ショウくーん加勢は必要かしらぁ?」

「大丈夫、そっちに集中してて!」

「すぐ片すから待ってろよー!」

「アルはもうちょっとダメージに気を遣わないとだめだよ!」

 どすん、どすんと重い地鳴りが響いた。大熊は前脚で地面を殴りつける。あれにつかまったら大ダメージだ。

「ユーリ!」

「はぁい」

 大蛇が召喚され大熊の背後から飛びかかった。わずかにバランスを崩したところへアヤノも突撃する。脇腹を斬り払うと、反対側から白銀が突き出てきた。

「離脱!!」

 すぐさま長剣を引き抜いてショウが後方へ跳ぶ。アヤノも大きく飛び下がった。

 大熊が大きく上半身を揺らし太い両腕を振り回す。ああして暴れている間はこちらから攻撃するのは危険だ。

 その狭間で、ダンテが注意を引くように手を上げた。

「先は長い。ある程度は相手にせず受け流すことも必要ではないか」

 ショウがちらりと視線を投げた。少し、笑ったようだった。

「……一理あるね。でも、」

「そんなんもったいねーって!! かち合った敵は倒すだろ!!」

 アルが吼えた。

 アヤノも剣を目の高さに上げ、意思表示をする。不可能でないならば。敵は倒す。その方が強くなれる。もっと。もっと。

「そうか……わかった」

 ダンテも苦笑気味にうなずいた。最後にユーリが、肯定しないが否定もせず、ただ肩をすくめた。

 そこで大熊が両手を地面に下ろした。と同時に戦意が鋭く駆けめぐり、5人を繋いだのがわかった。


「さあ。それじゃあ」


 さほど大きくもないショウの声で、全員が一斉に身構えた。




            * * * * *




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