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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第7ステージ:氷原
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メモリ -3-


「俺のか」

「君は向こうのことを『覚えてる』だろう? そういう人の話を聞いて思い出せることもあるかなって。もちろんダメならかまわないけど」

 提案して窺うと、ダンテは比較的あっさりとうなずいた。自ら本名を明かしてくれた彼のこと、断らないだろうという目算はあったわけだが。

 ならばと、ダンテは改まるように居住まいを正す。つられてそショウの背筋も伸びた。こういうときはもっと気軽に座れる場所があるといいな、などと余計なことがふと頭をよぎる。

「そうだな。――まずは改めて名乗る。神谷淳だ。身分は学生。両親と姉がいる。集合住宅なので動物は飼えない。他に、何か聞きたいことはあるか」

 当たり障りない部分だけ口にして他のメンバーを見るダンテに、アルが目を見開く。

「学生っつーと大学か? 勉強熱心なんだな」

「そうだろうか」

「アル、勉強嫌い?」

「アヤも好きだってのかよ!?」

「嫌いじゃない」

「てことは、アヤノもまだ学校に通ってる年齢なのかな」

 叔父からある程度の情報は得ているが、まだアヤノ自身からその手の話を聞いていない。ものは試しと掘り下げにかかる。

「学校は行ってた。たぶん」

「どんな科目が好きだったのかな。国語、英語、数学――」

「おんがく」

 予想外にすんなりと答えが返った。ショウだけでなく、アルとダンテも大きく身を乗り出した。

「音楽? そう言った?」

「え? うん好き。ピアノ、やってた、し……?」

「それは今思い出したのか」

「マジで!? 音楽!? 鑑賞とか眠くなるだけじゃねーか!」

 ――アルは違う方面で驚いているようだった。アヤノがぱちぱちと瞬く。

「おかしい?」

「そんなことはないよ。アルが苦手ってだけでしょ」

「あと……社会も。わりと好き、かも」

「うげぇ」

「アルちゃんは座学全般キライってイメージあるわよねぇ」

「ああ、それは僕も思った。体育とか技術なら好きそうなイメージ」

「間違っちゃいねーよちくしょー」

「歴史なんかは僕も好きだったけど。ダンテは? 学生なら専攻とか」

「経済だ」

「あんたも大概だな!」

「ユーリ、君はどうなの」

「んー。特に好き嫌いとか考えたこと――」

 言いかけて、ユーリは頭痛がするような表情で眉根を寄せた。しかしすぐに気怠げなため息をつく。

「そう、ねぇ、強いて挙げるなら古文とかかしらね」

「ユーリ、渋い」

「へえ……そうなんだ」

 ショウは目を細める。狙った以上のいい目が出てくれたようだ。この調子で皆の他の記憶も蘇ってくれるといいのだが。

 他の科目名もいろいろと飛び交う中で、不意に、ダンテが一歩うしろへ下がった。

「すまない。そろそろ時間だ」

「ああ、引き留めてごめん。おつかれさま。――ありがとう」

「いや……」

 ダンテの姿がほどけて消えた。その間もアヤノ達はまだ盛り上がっている。ユーリまでがそこに混ざって。邪魔をするのも悪いので、しばらくの間、温かく見守ることにした。




            * * * * *




 自分にも、まだやれることがあったようだ。

 柄にもなく口元をほころばせながらヘッドセットをはずす。こうも浮ついた気分を味わうのは久方ぶりだった。というより、忘れていたように思う。通常は――リアルの世界では、あんな風に他人を手助けしようとしても邪魔者扱いされるだけだ。逆にこちらが非難を受けることさえあった。

 感謝されたいわけではないが、やはり見返りがあると嬉しいものだ。

 だから。


 可能な限り長く、彼らと共に。


 半ば無自覚に抱いた願いだった。

 その思いを映すように、ヘッドセットのランプが瞬いた。


 そして無意識の中に『声』を聞く。


 ――ダンテ、


 ――君もまた誇るべき仲間だ。



 ――だけどこのままじゃ……君も……――





第7章3節 了

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