メモリ -2-
少し前にアヤノとユーリが一緒に買い物から戻ってきたのを見た。別に悪いというのではないが多少もやっとしたのは否定できない。
アルは前々から、アヤノに対しては好感を抱いている。真面目だしひたむきだし嘘をつかないし、あれで意外に普段の人当たりはいい。やたらと他人を悪く言ったりするタイプでもない。つまるところ、信用できる。
そしてその対極にいるのがユーリだと、密かにずっと思っていた。何しろいつもにこにこしているくせに口を開けば皮肉ばかりだし何を考えているかわからない。
情けないことに、少し、怖いとも感じる。
向こうもこちらを見る目は冷たいから、たぶん好かれていないだろう。だったらお互い様だ。できるだけ関わらないようにすればいい。
ただ、アヤノにもユーリとあまり関わってほしくなくて、しかしそこまでいくとただのわがままだから言うわけにいかず、もやもやとした感情は募るばかりだった。
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自分はどうして、ユーリの言にあんなに動揺したのかと、アヤノは思い返して首をかしげた。
ショウのことは嫌いではない。ユーリに問われて答えたとおりだ。けれど恋愛感情としてどうかというのは、正直なところわからない。
わからない、ということにしておきたい。考え出すとあれや頭の中がぐるぐると回って知恵熱でも出そうだった。
それでいったん考えるのをやめた。
やめたはずが、いつの間にかショウを目で追っているし、はっとして違う方を向けばユーリと目が合ってパチンとウインクをされたりする。なかなか気が休まらない。
アヤノはこっそりと、大きく息を吐いた。気持ちを整理するにはもう少しかかりそうだった。
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ユーリは内心でほくそ笑んでいた。当初の心づもりからはだいぶ逸れた展開へ流れたものの、結果的には悪くない。
どちらかといえば硬派というか奥手に見えたアヤノが、ショウへの恋心に反応を示した。正直予想外だったし、もしかしたら誘導による思いこみかもしれないが、その辺はこの際どうでもいい。ショウの方でもアヤノにはやけに甘いところがあるから、うまく近づけてやれば気を許して何かしらの情報を漏らしてくれるかもしれない。
ダメなら、また別の手を考えなければ。泥船に乗ったまま沈むのはごめんだ。
――でも今のところ、ショウ君達と一緒にいるのが、アレのためには一番近道っぽいのよねぇ……
自分にはほしいものがある。だからここにいて戦っている。そしてそのために、もう少しだけ彼らに協力してもいいかという気になってきたところだ。
ともかく、“それ”を手に入れるまでであれば。
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なんと、不甲斐ない――
ダンテは皆の目を盗んで眉根を寄せた。心底から自己嫌悪に陥るのはひさびさだ。志願して護衛を買って出たはずが、皆どんどん自分より強くなっていく。
今の自分に存在意義はあるか。
彼らの益となれているのか。
考えるほどに自信は失われていく。いっそ彼らの荷物になる前に手を引くべきなのかもしれないと、弱気な思考がよぎりもした。
だが……しかし。
「ショウ」
「ん?」
「たのみがある。――邪魔になるようならば、その時は言ってほしい」
ここまで来てしまっては、自ら降りることなどできない。ならば自他共に認めるリーダーに判断を委ねるのが最良のはずだ。その意図を込めて見据えると、ショウは一瞬目を見開いてから、微笑と共にうなずいた。彼のことだ、きっと伝わっただろう。
明確な宣告を受けない限りはこのままで。可能なだけの努力と協力は惜しまない。ダンテはそう決意を新たにした。
* * * * *
ダンテが。条件付きにせよ、自分から離脱を申し出てくれた。どんな心境の変化があったかわからないが、素直に喜んでおくことにする。これで何かあったときにはあちらへ戻ってもらえる。
それで若干気が楽になったせいだろうか。ショウには、どことなくメンバー間の雰囲気も和んでいるように感じられた。
「さて。もうひととおりは話を聞いたはずだけど……どうしようか」
雪化粧の町の人影がまばらになったのを見計らい、恒例のリアルでの話を促す。
そこでふと気がついて、ダンテに目を向けた。
「時間は?」
「今日はもうしばらくいられる」
「そっか。だったらどうだろう。今回はダンテの話を聞かせてもらえないかな」