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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第1ステージ:市街
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オラクル Ver. ヘラ -3-


 すぐにアルが飛び出した。2匹の黒犬、カラスが1羽。それぞれの攻撃をうまく避け、まずはカラスを続けざまに2発撃った。

「行こう」

 ショウがアヤノの肩をたたいた。うなずいてアヤノも前に出る。ショウはその少しうしろをついてきた。あくまでサポート役というスタンスらしい。

 隙を見て斬りかかる。しかし黒犬は跳ねて離れてしまった。アヤノの剣はわずかに耳先をかすめただけだ。

 犬の次の行動パターンは、突進。

 アヤノは思いきりうしろに跳んだ。目の前を黒い胴体が通過していく。そして今度は別の黒犬がこちらを向いた。アヤノはとっさに弧を描くように走った。首を左右にふっている1匹目を2匹目の盾にしながら、力いっぱい刃を振り下ろす。今度はダメージ表示が飛んだ。黒犬は高い声を上げてうしろに下がっていった。

 視界の隅で2匹目が大口を開けるのが見えた。噛みつきにくる。アヤノはさらに横にステップを踏んだ。

 その時ふと、“見えた”気がした。

「……やれる」

 3歩動いた場所で踏みとどまった。それで正しかった。目測通り、黒犬は腕を伸ばしたほどの距離で立ち止まった。

 剣をふるった。2回、3回、4回。最後にぐっと腕を引き、首めがけて突きだした。

 ――捉えた。

「やった……!」

「アヤっ」

 ショウの鋭い声が飛び、同時に、さらさらと崩れる黒犬の向こうからまっ赤な口が飛びかかってきた。

 アヤノは思わず目を閉じかけた。その時。


「おっせぇよ!!」


 銃声。刃が触れる前に、最後の犬は身をよじりながら消えた。

 その様子を最後まで見届けてから、ショウが軽くアルをにらんだ。

「アル……はしゃぎすぎ」

「だってよーさっきまでガマンしてたんだぜ? もっと暴れてぇくらいだっての!」

「まったく」

 ショウの口調はそれほど強くなかった。アルの方でもショウを恐れる様子はない。オラクルエリアに入り、『アヤノの邪魔をしない』という制約がなくなったからだろう。

 と。

「わかった、こうすりゃいいじゃん! お前ら2人は正規ルートで行けよ。オレは脇道の奴らを根こそぎ狩ってく。そんならお互い邪魔にゃならねーだろ?」

 アルがパチンと指を鳴らした。アヤノが視線だけ動かすと、ショウは一拍待って「なるほど」とうなずいた。

「たしかに、その方が効率がいいかもしれないな」

「おっし決まりな! な!」

「僕はいいけど。アヤは? それでもいい?」

「……」

 アヤノは唇を引き結ぶ。勝手に話が進んでいるのは少し気に入らない。しかし反対する理由は特に思いつかなかった。

 何より、子供のようにきらきらと輝く赤い瞳に負けて、アヤノはこくりとなずいた。

「好きにすれば」

「おうよ! んじゃあオレは先行くぜ。お前らゆっくり来いよー!」

 言い終わる前にアルはもう動いていた。その姿はすぐに、ゆがんだ壁を折れて見えなくなった。

「僕らも進もう。移動距離はあっちが断然長いはずだけど、アルのやつ、僕らを置いてく勢いだ」

「そんなこと、させない」

 アヤノも小走りに駆けだした。そして2人分の足音を聞きながら、ちらりとショウを見返った。

「ねえ」

「ん?」

「平気なの、あいつは1人で」

「アルのこと? ああ見えて引き際はちゃんと心得てるからね。あぶなくなればこっちへ戻ってくるよ。たぶん大丈夫じゃないかな」

 あっさりした返答だった。なんだかんだと言いつつ、ショウもアルをそれなりに信用しているようだ。アヤノは少し、足を速めた。

「どうかした?」

 黙り込むアヤノの横にショウが並んだ。アヤノはそれを無視した。

 本音を言えば――認めたくないが――アルがうらやましかった。

 自分はいつになったらなれるだろう。ショウやアルの信頼を得られるほどの存在に。どのくらい強くなればいいだろう。あと、どのくらい――


「集中!!」


 いきなり突き飛ばされ、アヤノは前へつんのめって膝をついた。はっとして顔を上げると、風斬り音が耳をかすめた。とっさにごろごろと地面を転げ距離をとる。“それ”が何かは視界に収める前に察した。

 毒性と長い触手のようなツルを持つ“花”。この第1ステージで、まだアヤノが1人で倒せたことのない唯一の敵だ。

「どうする!」

 叫んだショウを見やると、その近くでまた黒い影がわいていた。犬だ。どちらの相手がいいかとショウは聞いている。

 アヤノは立ち上がった。

「花!」

「……わかった」

 黒犬に身体を向けながら、ショウは続ける。

「確認するよ。最優先は“避ける”! 君はまだ生命力も防御力も低いから、1撃くらうだけで致命傷になりかねない」

 犬が動いた。ショウに飛びかかる。ショウはすっと身体をひねるだけでそれをかわした。まるで飼い犬をじゃれさせているかのような気安さだった。

「だけど、アヤには攻撃力がある。ここでなら充分通用するレベルだ。あわてず、確実に当てていこう!」

「了解」

 答えると同時に犬のことは意識から抹消した。あちらはショウがなんとかしてくれる。アヤノは花に向き直った。



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