第4章「鉄の巨人は静かに佇み、冥漠なる世界に繊翳を落す」
「今日もなんとかなったな……」
ボヤく。
空を見上げればどこまでも昏い縹色の空が広がっている。
斜陽は既にその姿を半分近く隠していた。
赤と青が混じりあった街は美しく、どこか妖しい様相を醸し出している。
風が僕の身を震わせた。
小さな溜息を零す。
なんとか3人から逃げ、ホームルームを迎え、それから授業と授業の間にある10分休みも猛攻をなんとか躱し、昼休みは一時停戦、そしてまた10分休みは逃走と闘争……放課後はチャイムがなったと同時に鞄を持って誰よりも早く帰宅する。
一応4人の間で規定されたルール『裏切者の犯した罪に対する罰の執行は発覚してから24時間のみ有効』というものによって僕達――勿論主に僕の生命はどうにか今日まで保たれている。
それらに対する祀達の表情は呆れ、同情、ニコニコだった。
まぁ当たり前か。
僕も我ながら愚かな事をしていると自覚している。
しかしそれをやめる訳にもいかなかったのだった。
ちょっとした下らないプライドみたいなものである。
だけど誰かがもう止めようと言えば全員納得しそうな脆いものでもあった。
故に現在まで誰が最初にそれを言い出すか、という見えない形での心理戦が繰り広げられている。
それはそうと僕が今何故外に居るのかというと単なる気分転換の散歩だ。
神社を出て、大通りを少し外れればすぐに自然豊かな情景が僕を迎え入れてくれる。
そしてちょうどこの時間は太陽が傾き始める頃合なので散歩中に風景がめぐるめく変わっていくのを楽しめるのだ。
僕は鼻歌混じりに人気のない歩道を悠々と歩く。
視界の端には桔梗や撫子の紫がちらちら顔を覗かせている。
と、不意に閃光が見えた。
「ん?」
一瞬遅れてぱん、という爆発音。
そこから黒煙と炎が揺らめいているのがわかった。
僕がそれを見て思い出したのは鋼を拾ったあの光景だった。
もしかしたらまた宇宙人関係か?
とはいえ危険だが心当たりがある以上行ってみるしかない。
僕はそう考え自分からまた点滅する赤信号のような世界に飛び込んでいく。
それは僕の居る田圃道のちょうど前で起きていた。
あの辺りとなると大きな自然公園の中だろうか。
その名の通り殆ど遊具のない公園で、まわりに住宅街があまりない事から休日にも利用者が見受けられないという場所だ。
僕は走って現場に向かう。
「なんだ……これ」
僕の目に飛び込んできたのはとんでもないモノだった。
現実離れしていてリアリティが感じられない。
しかしそれが脅威である事は痛い程わかった。
それらは合計3機存在していた。
流線型ながら所々角ばったゴツイ黒色の装甲を纏った巨人という説明がわかりやすいだろうか。
中には足が複数あるものも見受けられる。
全長は10メートルくらいで両腕に巨大な機関銃と背中にチェーンソーみたいなでかい武器を搭載しているのが見て取れる。
背中にでかいバッテリーらしきものがある事から察するにこの機体はやはり電動なのだろうか。
小型バッテリーながらかなりの電気を使えるようになっているらしい。
そう考えるとこの人型ロボット達の動力は核や半永久機関など莫大なエネルギーを発生できるものが使われているに違いない。
こちらの科学技術では実現は不可能そうだが彼ら月の科学ならばできそうな気がする。
そしてロボット達に囲まれているのは1人の少女。
特に大きな傷は見受けられないが疲労があるのはわかる。
とんでもない危機的状況だ。
しかし幸いにも彼らは僕に気付いていないようだ。
ならばロボの背後からこっそりと能力を使って纏めて破壊してしまえばどうにかなるかもしれない。
僕は楽観的にそう考えて、どうにか実行に移す。
彼らから50メートル程離れた場所で能力を解放、そして天満月を延長させて救出に臨む。
待っていろ乙女、そして地獄に落ちろ卑劣なメカ共。
僕は彼らとの距離を数歩で埋め、少女に銃口を向ける前方の機体から解体を始める。
レーダーに反応したのか攻撃を叩き込む前からロボット達の首がこちらに向かって動き出す。
しかし遅い。
僕は天満月を思い切り上から下に振り下ろした。
金属が擦れる音と火花が弾ける。
影物質の物量に押されて攻撃を受けた機体は僅かに傾く。
「やったか!?」
期待して装甲を見るが浅い傷が走っているのみで中まで至っていない。
見た目以上に頑丈なようだ。
重力に従って地面に着地する僕。
それを見計らった2機が僕目掛けて握っている目測100mmくらいの口径である機関銃から弾を発射した。
慌てて飛んできたそれをがむしゃらに薙ぎ払う。
しかしマシンガンのごとく発射される大きな弾だがそれはいつまでも続く。
このままだと際限がないのでこちらのスタミナが先に切れてしまうだろう。
そうなると影物質が切れて僕は一瞬で蜂の巣だ。
いや、あれ程の大きさとなると一撃で粉々になるから蜂の巣にすらならない。
どっちにしろ死ぬのには変わらないが死ぬときは老衰、そして安楽死というのが夢の僕は勿論こんなところで死ぬ気など毛頭ない。
なので如何にしてこの危機的状況をくぐり抜けるか考えた。
繊細に能力を調整する事でスタミナ切れを起こさせないようにする。
……いや、こんな場面でそんな芸当ができる訳がない。
ならば弾が飛んでくるよりも早く横に移動して回避する。
……そんな事ができれば最初からこんな防御には出ない。
身体を影物質に一時的に変えて再構成。
確かにこれは一紗との戦闘時に廃墟でやってのけ成功したがあの時は殆ど運が良くて成功したようなものだ。何度か試してみたもののあれ以来瞬時に使えた事は片手で数えるくらいしかない。そういう事もあり、そうそう使う訳にはいかないのだった。父親なら簡単にやっていたのだがやはりこれは才能と経験の違いか。
しかし弾は際限なく飛んでくる。僕はそれを壁を作って防いでいるような状態だった。そして弾が命中する度に徐々にその壁が摩耗しているのを実感した。影物質の壁を単なる物理の力で傷付けられるのはとんでもない事だ。それだけ彼らの搭載している武器の破壊力が凄まじいという事だろう。月の人々は罪深い。
こうなると力ずくで止めるしかない。防御が駄目なら攻撃に転じるしかないだろう。このままでは僕が先に倒れるのは明白。考えていても答えは出ないのだから。
機体が壁を破る為に一層強い攻撃を放つ。
僕は影物質の塊を合計3つ前方に展開する。そしてその形を整え、弾丸の形状にした。この尖り具合ならば空気抵抗も少なくなるし、先端に力が集まってあの装甲を貫くのも容易いだろう。そしてロボット達も僕の思惑に気付いたようだ。
対応を見た感じ、能力系の相手は慣れていないという事がわかる。おそらく操縦者も実戦経験は殆ど無いに違いない。どちらかというとパイロットが機体に操縦させられているといった感じだろうか。どちらにしろ僕からしてみれば脅威ではあるがその差は大きいと思う。このような場面に対して冷静に対処できるかできないかの違いだ。
僕は展開した弾を発射する。それは空気を切り裂きながら凄まじい速さと威力をもって彼らに襲い掛かる。破壊力だけで見るなら彼らの兵器の方が上だろうが耐久力はどうなのか。果たしてこの弾に耐えきれるのだろうか。
おそらくそれは難しいだろう。彼らの兵器は主に人類の兵器に対する脅威であって能力に対する脅威にはなっていない筈だ。
機関銃の銃口が影物質の弾丸に向けられるがもう遅い。
音速近い速さで飛んでくる弾丸はいともたやすく機関銃に命中、それを破壊する。
その瞬間、ロボットの手で爆発が起きた。
閃光と爆音、衝撃が発生し、それに伴って腕も纏めて大破した。
1機だけではなく3機まとめてだ。
我ながらここまで上手くいくとは思わなかった。
鉄くずとなった部品や装甲がボロボロと落下する。
そうしてロボ達があたふたしている隙を狙って少女はこちらにやってきた。
長い黒髪に彫りの深い整った顔、白い肌。
モデルのように細い身体だがとても美しい。
惚れるよいうよりも芸術品に抱く憧れのようなものに近い。
「助かりました……しかしどうして私なんかを?」
「困っている人が居ると身体が勝手に動くんだ」
我ながら安っぽいヒーローみたいだと思ったが構っていられない。
ロボ達はすぐに体勢を立て直すとこちらに新たな攻撃を仕掛けてくる。
今度はなんだ、と僕は少女を取り敢えず背後に下がらせると慌てて天満月を身構えた。
超音波を使ったものなど目に見えない攻撃には流石に対応しきれない。しかしこういう兵器対兵器を想定して作られた機体にそのようなものは搭載されているのか。
自信はないが、多分ないと考える。ナチュラルに上から目線の連中が人類の力に対して危機感は持っていない。
少なくとも人類と彼らとの間に今まで様々な作品にあるような宇宙戦争が起きた事は一度もないのでそんな効果が出にくい兵器よりも単純な破壊兵器を優先する筈だ。
そうしてほぼ同時にロボが動き出す。
彼らが使用したのはミサイルだった。
肩と膝に搭載された小型のポッドの蓋が開き、そこから計8発のミサイルがこちら目掛けて飛んでくる。
下手に切れば爆発してこちらもお陀仏になりかねない。
そして回避しようにも熱源探知でもあるのだろうか執拗に狙ってくる。
かなり面倒な相手だった。
僕はひとまずある程度後ろに下がり、ミサイルを引き付ける。
そうしてこちらに命中する寸前を見計らってそれを躱す。
何度も曲芸じみたそれを繰り返すがドラム缶サイズのそれはストーカーのようにいつまでも僕を追い続ける。
しかしアニメとかだとビームサーベルで敵の発射した水爆の弾頭を上手く切って爆発させずに破壊した場面を見たことがあるのだが実際にあんな事はできるのだろうか。
無理だ。あまりにもリスクが高すぎる。
しかしこのままではどっちにしろ危ない。
ミサイルは機体の内部に収納されている小さいものだし早さもノズルが小さい事もあってせいぜい車道を走る普通自動車程のスピードだが決して鈍い訳ではない。
当たれば僕は爆死。誰でもわかることだ。
僕が一刻も早くするべき事はただ1つ、このミサイルをどうにかする事だ。
何度も回避された事でミサイル側も学習したのかそれぞれ別方向から飛んでくるようになった。
流石にこれは捌ききれない。
こうなれば爆発を起こしてでも破壊するしかないな。
しかし至近距離だと影物質で防ぎきれるかが心配だがこの期に及んでそんな事は言っていられない。
僕は天満月を肩に担ぎ、ミサイルの反応を待つ。
8発のミサイルは円を作ってこちらに襲いかかってきた。
上から下に落下するそれらはかなり恐ろしいがどうにか恐怖を押さえつけ、落ち着こうとする。
そして僕は頭上に天満月の切っ先を向け、影物質を展開した。
黒いドームが一気に広がる。
まるで傘のように広がるそれはそれなりの大きさになる。
直径10メートル程だろうか。
あのサイズのミサイルの威力がどれ程かは知らないが白兵戦を想定した機体に収納されているという事は事故による爆発の被害を最小限にする為にそこまで威力は無いと思われる。
あったとしてもせいぜい普通自動車が爆発するくらいだろう。
いや、それでも十分凄いのだけれど、影物質には勝るまい。
そして僅かに遅れて衝撃。
爆発によって周りが明るくなったのがわかる。
オレンジ色の火の粉が散り、公園の草木を少しばかり焦がす。
「よし、潰した……!」
しかしまだミサイルの飛ぶ音は残っていた。
数はおそらく3つ程。
横を見るとミサイルの鉄塊の隙間からこちらに生き残りが飛んでくるのが見えた。
更にその向こうからロボが背中にマウントされたチェーンソーを握り、こちらに襲いかかってくる。
「やばっ……い!」
僕は慌てて影物質のドームを崩し、大きなスペースを作ると地面を蹴って上に跳ぶ。
そうする事によって僕を挟み込むように飛来してきたミサイル2発は綺麗に衝突し合い、木っ端微塵に爆発する。
しかしそれを免れた残りの1発が下から僕に向かって飛んできた。
空中では思うような動きはそうそうできない。
回避ができないのならばここで迎え撃つしか無いだろう。
僕は握った天満月を槍投げの如く下に向けて放つ。
僕の手を離れた刀は重力に従ってミサイルに突っ込んでいく。
直後爆発。
背中から落下をはじめた僕は瓦礫の山になんとか綺麗に着地できた。
しかし衝撃はある。
僕は足に襲い掛かる痛みをなんとか堪えてロボ達に向き直った。
しかし見ると3機はもう目前に居た。
モーターの動く音が聞こえる。
ダクトから熱風の出る音まで耳に届いた。
「うおっ!?」
僕は影物質の壁を作り上げどうにか攻撃を防ごうと考える。
その直後にチェーンソーが襲い掛かった。
幸いにもそれは僕に命中するよりも早く影物質に食い止められた為、なんとか助かったがゆっくりと刃はこちらに近付いてくる。
一機だけならまだしもそれが3機からだ。
消耗はそれに伴って早くなる。
仕方なく影を更に厚くし、どうにか食い止めようと努力するがやはり攻撃は止まらない。
このままでは真っ二つだ。
僕はそう判断してそこから逃げる。
ロボ達のカメラアイがこちらに向けられた。
しかし握っているチェーンソーは影物質の切断に使っている為動かせない。
彼らもなんとか抜こうと頑張っているが中々抜けないようだ。
抜くのを諦めたロボの一機がこちらに向けて足を落とした。
その重量を使って踏み潰す気らしい。
僕は上からプレス機のごとく襲い掛かるそれをなんとか回避し、地面に刺さっている天満月をすぐに抜くとそれを横薙ぎに振るった。
刃が装甲を切り裂いていく。
やはり今回もダメージはそこまでなかった。
さっきみたいに表面を削るだけではどうにもならない。
という訳で今度は一味加えて影物質を小刻みに震わせて切り込む。
超音波カッターのようなものだ。
食材が中々切れない時、包丁を前後に動かすと簡単に切れる事があるだろう。
つまり僕が行ったのはそういう事だ。
するとさっきまで表面に浅い傷を付けるしかできなかった敵の装甲に深い傷が付く。
このまま押し通る。
僕は力を込めて更に刃を進める。
すると装甲の中から何かが爆発する音が聞こえた。
僕は刃を抜く。
そうした途端に切れ込みを入れた敵の脚部はその亀裂を広げていき、やがて身体を支えきれなくなって胴体が倒れる。
その拍子にダメージを受けた足はちぎれて破壊された。
取り敢えずこれで自由に動けなくなっただろう。
しかしまだ2機が残っている。
彼らは地面を蹴って跳ぶとこちらに向かってチェーンソーを振り下ろす。
しかしその攻撃もなんて事はない。
寧ろ巨大で動きが鈍い分避けるのは難しくない。
これならば能力を使われた方が対応は難しい。
操縦者が兵器に頼ってばかりで未熟というのが主な要因だろう。
熟練者がやればこちらはあっさりとやられていたに違いない。
あちらは所詮子どもと舐めきっていたであろうがこっちもそれなりに殺されかけた事が何度もある。
故にこちらはそう簡単にはやられはしない。
地面に刺さったチェーンソーの側面に刀を突き刺し、外歯のチェーンごとそれらを切り裂いた。
使い物にならなくなったチェーンソーのグリップから離された手がこちらに向けて振り下ろされるがこれも鈍い。
能力によって大幅に感覚と身体能力が上昇した僕には大した相手ではなかった。
この攻撃も容易く躱すと天満月を振り下ろしてその腕を叩き切った。
火花が散ってごろん、と腕が落下し、地面を転がる。
敵が動揺している隙を狙って残りの1機が来る前に僕はそれに止めを刺す。
懐に入り込み、ロボの攻撃できない間合いに入るとその両足を纏めて切断した。
地面に2機目が倒れこむ。
3機目がその背後から僕に強襲するのが見えた。
これで最後の敵だ。
僕はそいつを迎え撃つ。
チェーンソーが上から下に振るわれる。
先ほどと同じような攻撃だったので避けられない訳がない。
僕は横合いに転がってその攻撃を回避する。
しかし攻撃はそれだけで終わらない。
今度は横凪に鉄の刃が振るわれる。
この攻撃もある程度予想できていたので難しくなかった。
「よっと」
僕は高く跳んでそれも躱す。
空気を切る音が聞こえた。
回転する刃が芝を削る。
僅かに青臭さを感じた。
僕はロボの手首に天満月を突き刺す。
それによって重いチェーンソーを片手で支えきれなくなり、容易く手首が切断され、最期の武器は地面に落下する。
このまま他の2機と同じように足を切って止めを刺そうかと考えていたがこいつはそう簡単にやらせてはくれなかった。
武器を全て失った敵機はただ脚と腕を使って攻撃を繰り出してきたのだ。
これは先ほどの敵もやってきたが今回の場合は操縦者が中々の手練らしく鋭さと早さがある。
それこそ蝶のように舞って蜂のように刺すようだ。
予想外の方向から凄まじい威力を持った拳が飛来し、脚が落とされる。
「強い……!」
相手を少し舐めていたかもしれない。
敵の出してくる攻撃の一番恐ろしいところはその質量によって生まれる地面の揺れだ。
これによって上手く立ち回る事ができない。
まともに立っていられないくらいの揺れは気味悪さすらある。
まずはどれか1つでも破壊しない限りどうにもならないか。
僕はひとまず上半身を傾ける分隙が多くなる両腕の対処からはじめようと考えた。
飛んできた腕を僕は最低限の動きで避ける。
そしてまずはその右腕に刀を突き刺した。
しかしすぐに2発目の腕が襲い掛かる。
僕はそれが放たれるよりも早くもう一方の手に影物質の大剣を生み出し、握ると2発目にそれを突き刺す。
凄まじい力が肩に襲い掛かった。
葉を食いしばり、それに耐えると刀と大剣を動かして腕の破壊を開始する。
すると深く突き刺さった刃が少し動いただけで敵の腕は機能しなくなった。
腕はだらりと力が抜けてぶらぶらと振り子のような動きをとった。
だが、それでも操縦者は諦めず残った足だけを武器にした。
まず右足が落下する。
鉄槌のようなそれを僕は切り飛ばした。
それに伴ってあげられた左足もバランスを崩して見当違いの場所に落ちる。
片足が使い物にならなくなればもうどうなるかはわかったものだ。
バランスを崩した機体は前のめりに倒れこむ。
僕は急いでその場を逃げた。
そして背後から大きな音と衝撃。
ゆっくりと後ろを振り返れば鉄の塊がいくつも落ちていた。
自然公園の広場はもう見るも無残な状態になり、いくつもクレーターができていた。
我ながらとんでもない事をした、と戦慄する。
それはそうと止めを刺さなければならない。
僕はコクピットハッチに近付き、装甲を切り開いて中を確認する。
やはり遠隔操作の無人機だった。
モニタの類は何も点いていない。
なら気兼ねなく壊せるな。
僕は影物質の塊を取り敢えず生み出すとそれをハンマーのような形に変化させる。
あとは潰してしまえば完璧だろう。
「ちょ、ちょっとストップ! 早くそこから逃げてください御恩人!」
見るとなにやら深刻そうな顔で助けた少女がこちらに手招きをしている。
「どうして?」
「どうしてって……それ今すぐにも自爆すると思いますよ!」
自爆だって?
確かに冷静に考えればこれは最新テクノロジーの塊なのだ。
それなりの所が調べれば全く同じ――いや、それ以上のものが作られるかもしれない。
それを未然に防ぐ為に殆どの兵器にはそういった機能が搭載されている。
成程それは一大事だ。
「やばっ!」
僕は破壊するのをやめて彼女の元に向かう。
そして少女の手を握り掴むと一目散に自然公園から逃げ出した。
すぐに爆発は発生した。
吹き飛ばされないように身を屈めてどうにかそれをやる過ごす。
ゆっくりと爆心地を見ると広場に大きな窪みができていた。
近くの木も何本か倒れている。
「助かった……」
「本当にありがとうございます……感謝しきれません。どんなお礼をすれば良いか……」
「あー別に良いよ感謝なんて生きているならそれで」
僕は構わない、と手でジェスチャーする。
寧ろこっちが助けられたし。
僕達はゆっくりと地面から立ち上がった。
できたクレーターには原型を留めていない程破壊された残骸が転がっていた。
直径20メートル程だろうか。
そこそこ大きい。
耳を澄ませると遠くからパトカーや消防車のサイレンの音が聞こえる。
誰かから通報を受けてやってきたに違いない。
しかし見つかると面倒だな、ここからはさっさと逃げるのが賢明かもしれない。
だけどなんかしら僕がこれに関わったことを証明するようなものが見つかっていらぬ疑いを受けて逮捕されるというリスクもあるな。
どうしよう、と悩む。
いや、そんな事よりも彼女に何があったのか訊いてみないと。
外見の美しさを除けばどこにでも居そうな人がどうしてあんなのに襲われていたのか。
そう考えて僕は少女の居た所を見る。
「あれ?」
しかしそこに彼女は居なかった。
不思議に思って周囲を見るがどこにも居ない。
「あっ、あんなとこまで逃げてるし!」
目を凝らすと山の方に向かっているのが見えた。
追おうかと思ったが遠いし、ストーカーと思われるのもあれなのでやめておいた。
「一体なんだったんだ? まさかお姫様じゃないよな」
自分で言っておいてないな、と思う。
まぁ同じような目に彼女はもう遭わないだろう。
あんな目にも遭えば誰か信頼できる人にでも保護されるだろうし。
そこまでいって僕はようやく足元にある何かに気付いた。
「なんだこれ?」
拾ったそれを顔の前まで持ってくる。
街灯の光に照らされてようやくそれがなにかわかった。
小さなサイズにしてはちょっとばかし重い。
光を反射して眩い程金色に輝いている。
そしてこの形……間違いない。
「何故金貨が……」
純金ならばこの厚さとサイズだと10万くらいはありそうだ。
もしかしてお礼だろうか?
いや、これだと寧ろこっちが心苦しいのだけれど。
そうして僕は金貨の下に敷いてあった紙切れを見る。
そこには何か文章が書いてあった。
「ええとなになに……『本当にありがとうございました。突然の失礼をどうかお許しください。これはせめてものお礼です』……」
ふむふむ。かなり律儀な方らしい。
しかし金貨は困るよ。
僕はもうどこかへ行ってしまった彼女にそんな事を思った。
処分に困るぞこれ。
しかしこのまま放っておく訳にもいかず金貨はポケットに入れる。
さて僕もさっさと逃げる事にするか。
サイレンの赤い光はもう近くまで来ていた。