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天来夢想  作者: 四畳半
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終章「千歳の旅の終わり」

 目を覚ますとそこは見慣れない風景だった。

 どこからか木々の幽香が漂っているのを感じる。

 老緑の草木が生い茂って山の間から日華が差し込んでいる。

 大きな欠伸をして上半身を起こす。

 そうしてすぐに思い出した。

「帰ってきたのか……」

 隣を見ると無表情に僕の頬をつねる鋼と対してにこやかな微笑みを浮かべて同じように僕の頬を引っ張る神月夜。

 人の顔を玩具にしおって許せん。

 とはいえ怒るとエネルギーを消費するので僕はただ呆れの溜息を吐くだけという大人の対応をした。

「到着しましたよ」

 鋼は僕の手をとってスペースシップから引きずり出す。

 しかしそこはまたも見慣れない場所だった。

「ここ何処?」

 朧想街……ではないな。

 確かにあそこも緑が多いがどこかしら周りを見れば建物があってかなり栄えている。

 しかしここは山間部のようでそれらしい街の風景は見えない。

 闃然としたその竹林は深閑と静まり返っている。

 あるのは常磐色の竹と鮮やかな紅緋、真紅、金茶の紅葉。

「ここが私達の目的の場所です」

 神月夜が僕の質問に答えた。

 竹。

 月。

 神月夜。

 竹取物語。

「じゃああれって本当の話だったのか」

「かなり昔の話ですがここではお世話になりました」

 そうして神月夜は当時の事を話し出す。

 要約するとこういう事だった。

 神月夜が何百回目かの転生をして生まれた際、タイミング悪く月では内部分裂が起きており、激しい戦争をしていた。

 生まれたばかりの彼女の身は当然危険である。

 そこで部下の判断によって彼女は当時平和だった地球、それも日本の山間部に送ったのだ。

 その際使用したロケットというのが現地の人々に怪しまれないようにカモフラージュした竹デザインだったという。

 当時最新のテクノロジーをふんだんに使用して作られたその竹ロケットは5年近くは普通に快適な生活ができるものだったとの事。

 しかしやってきてから間も無くその竹やぶで竹を取っ手はよろずのことに使って生活していた翁にそのロケットがおかしいと見破られたそうな。

 勿論3寸というのは誇張ですよ、とは神月夜の談。

 因みに物語ではかぐや姫は罪によって地球にやってきたらしいが実際はこの通り。

 超上から目線の月の使者に腹が立った誰かがそう伝えたのかもしれない。

 そうして偶然にも神月夜を発見した翁は家に彼女を連れて帰り、おばあさんと共に大事に育てられた。

 まぁこの辺りは竹取物語を参照していただきたい。

 そうして最後、立派に成長した神月夜は戦争が集結して平和を取り戻した月から使者がやってきて月に帰った。

「あの時『父』と『母』に満足に御礼を言えなかったので……それが今まで心残りだったのです」

 私にとっては何人もその存在が居り、感謝しているのですがそれでも見ず知らずの私を手厚く育ててくださった2人には誰よりも謝恩を抱いているのです、と彼女は続けた。

 そうして僕達はその竹林を進んでいく。

 しかし歩いても歩いてもそれらしい場所には出ない。

「確かにこの辺りだったのですが……」

 神月夜の顔が徐々に曇っていく。

 それを見た僕は少しだけ胸が痛んだ。

 折角ここまで来たのに全てが無駄だったとでも言うのだろうか。

 いや、そんな結末で終わらせたくない。

 僕は鋼と共に血眼になってそれらしい跡を探す。

 もう疲れすぎて寧ろテンションが上がっていたのかもしれない。

 僕達は段々と上っていく太陽にも構わず探し続ける。

「もう大丈夫ですよ……」

「いや、見付けないと気がすまない!」

 僕は神月夜の言葉を断った。

 こんな所で引き下がる訳にはいかない。

 最早プライドと意地だけで動いていた。

 鋼も同じようだ。

 気がつけば操縦士も責任感からか遠くの方を捜索している。

 これだけ頑張っているんだから何か、何かあってくれ。

「あ、何か見つけました……!」

「なんだって!?」

 僕の、いやそこにいる僕達の祈りが通じたのか鋼が大声をあげた。

 僕達は慌てて鋼のもとに集う。

 鋼の指差す場所。

 そこにあったのは小さな石碑だった。

 長い時間が経っている為か表面に刻まれている文字は所々消えかかっている。

 しかし辛うじてなんとかそれを読み取る事はできた。

「……銀の月 雲間を出でて 輝けば かの娘かと 思いつるなり ――讃岐造」

 鋼がその短歌を静かに詠んだ。

 清亮なるその声は僕の耳に少しの抵抗もなく染み込んでいく。

 隙間から差し込む朝日が苔を纏った石碑を金色に照す。

 それだけではない、竹林全体が金色に照らされていた。

 その眩しさに僕は目を細める。

「父様、母様……」

 神月夜は石碑に刻まれた名前にそっと触れ、指先でなぞっていく。

 彼女の目の端に何か光るものが浮かんでいた。

 彩光が僕達を優しく包んでいた。


   ×


 地球は知らないであろうクーデターが終わってからほんの数日後。

「……という訳でしばらくこの街に住む事になりました」

「これからよろしくお願いします」

 鋼と神月夜が僕たちに頭を下げる。

 祀達はそれはそれは楽しそうにしていた。

 吽形にいたってはテンション上がりすぎて鋼の腕を引っ張って外している。

 しかし鋼は遠隔操作で外れた腕を可動させ、彼女を驚かしている。

 どうしてこんな事になったのかと言うと神月夜がクーデター起きたのを理由に前々から住みたいと思っていた地球に行くとか言い出したとの事。

 彼女が病弱なのを理由に臣下達は止めたのだが鋼が彼らを言いくるめた。

 すると上司の命令だったとはいえ彼女達に引け目がある部下たちは渋々ながらそれを認めたとの事。

 まぁそれくらいで済んだという方が幸運だろう。

 姫に対してクーデターとかクビでも済まない、普通に考えれば極刑ものだし。

「で、あれが住む場所?」

「はい。姫様と私の新たな家『月行楼』です」

 僕が指差した所には城、と呼べそうな威容を誇る屋敷があった。

 周りにはそれを囲むように鮮やかな紅葉が咲き誇っている。

 境内の下ではリムジンと数名の部下がこちらにへこへこと頭を下げている。

 彼らも厄介事に巻き込まれたな、自業自得だが。

 しかしなんだかんだあったとはいえこれでまた僕は平穏を手に入れた。

「でも一体何があったんです? 夜行も全然帰ってこないから心配したのですが」

 そう言って祀はこちらにジト目を向ける。

 クーデターが起きたって説明しても全然信じてくれないしどうすれば良いのか。

「かぐや姫のボディーガードやってた」

 もっとシンプルに言ってみたが祀たちは首を傾げるだけだった。

 そうか、神月夜の正体とかまだ知らないのか。

 多分目を見開いて驚くんだろうなぁ、とか思いつつ僕は説明を始めた。

 すると3人は急に恭しい態度になって神月夜達に頭を下げ、対する2人は慌ててやめてください、と必死になっている。

 そんな光景を横目に僕はあの時の事を思い出す。

 僕が地球に帰る為のシップに乗る際、謎の男が僕の近くにやってきて囁いたのだ。


『終わりは近いぞ』


 僕は慌てて彼の方を見たがそこにはもう誰も居なかった。

 その言葉がどういう意味なのか、何が終わるのか僕には心当たりがない。

 しかしその時僕は何故だかやっぱりな、と思ってしまったのだ。

 

 皆様お久し振りです四畳半です。

 天来夢想完結です。

 今回のテーマは宇宙人だったのですが進めていくうちに竹取物語になってしまいました。まぁ……和風っぽくてステキ?

 さて今回は相手が強すぎるせいでバトルがいつもより難航してしまいました。強力すぎる武器っていうのも扱いにくい事この上ありません。


 キャラクターについて。

 鋼……ヒューマノイドです。個人的に境界線上のホライゾンに登場するホライゾンを意識して作ったのですが完全に一致。オリジナリティが欲しいです。

 神月夜……主な出番が後半からという夢想メインヒロインズの例に洩れていません。あらあら系のキャラで人畜無害な方。最初の名前は輝夜だったのですがこれでは永遠と須臾の罪人と被るという事で慌てて変更したという経緯が。

 氷輪……チート。特別な能力は一切持っていません。ただ武器の破壊力と耐久度と反応速度と動きが異常。書いてる途中で倒せるのか心配になりましたがなんとかなりました。

 謎の男……妖術の最後に登場したあいつです。

 

 そんな訳で拙作を読んでいただいた読者様、twitterでRT宣伝してくださったフォロワーの方々ありがとうございました!

 


 ……そういえばどうして月の人達は文字は母国のものなのに日本語を使っているんだろう?

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