◇第6話
今回から(遅いかもしれませんが・・・)会話文など行数を多くあけています。
これで少しは見えやすくなったと思います。
さ・・・寒い。
前と後ろから感じる冷気はなんだろう?
今は5月でぽかぽか陽気のはずなのに、景子の周りの温度はどんどん下がっていた。
2人の表情を交互に見ると、あまり穏やかな雰囲気でもない。
爽やかな笑顔でいる宗佑とその宗佑を睨んでいる竜弥の間に挟まれている自分を客観的に観察してみる。
うん。危険だよね。
景子の危機管理能力は低いと普段から周りに言われているが、そんな自分でも分かるぐらいの危険度マックス状態。
気分は肉食動物に挟まれている草食動物のような感じだ。
この2人から安全な教室へ逃げることは、限りなく不可能に近いと思われる。
だが、このままの状態でいるのは非常に精神上良くない。主に景子のだが。
ここは勇気を振り絞って、この状況から脱出するのよ!
出来るだけ穏便に・・・だけど。
今だ景子をガッチリ離さない宗佑に、内心冷や汗をダラダラかきながら顔を向ける。
「高倉さん・・・あの・・・離して欲しいです」
景子の言葉に残念そうにしながらも、宗佑は身体を離した。
竜弥を警戒してか、自分の傍からは離そうとしなかったが。
まだ距離的に十分近いが、それでも思いのほかアッサリ離してくれたことに景子は安心する。
「高倉さんは、どうしてうちの学園にいるんですか?」
「勘が働いてね。ここに来なきゃいけない予感がしたんだ」
「勘?」
「俺の勘って結構よく当たるんだ。でも本当に来て良かった。ちょうどお昼から大学の授業が休講になったのも運命の導きだったのかな」
そう言いながら宗佑は竜弥の方をチラッと見る。
視線を感じた竜弥はチッと舌打ちをし、イライラを隠そうともしない。
「勘がなんだか知らないが、部外者は立ち入り禁止だぜ。早く出て行けよ」
竜弥の言葉を聞いて慌てたのは景子の方で、言われている本人の宗佑は平然としていた。
それすらも自分の余裕のなさを見せつけられているようで、余計に竜弥はイライラする。
「ちょっと竜弥!年上の人になんて言い方するの!」
「うるさい!なんで景子はこんな得体のしれない奴を庇うんだ?そもそもこいつ誰だよ!?」
「さっき言ったでしょう。昨日私の携帯拾ってくれた人だよ」
「こいつが?」
訝しげに眉を顰め、宗佑を見る。
もっと強く言いたいが、そもそも景子が携帯を落とす羽目になったのは自分がドタキャンをしたことが原因だと知ったため、それ以上は言えず口を紡ぐ。
「へ~。一応罪悪感は感じているんだ。まぁ俺としては君のおかげで景子ちゃんと話が出来たんだから、逆に感謝するべきなのかな。・・・でも傷つけたことは許してないから」
顔は笑っているが、目は一切笑っていない宗佑は怖かったが、それ以上に冷え切った言葉の数々に竜弥は打ちのめされる。
確かに自分が悪いことも分かっている。そもそもドタキャンなんかしなければ良かったと今は後悔もしている。
それでも、竜弥は反論をせずにはいられなかった。
宗佑の話を聞いているとまるで自分よりも景子のことを思っていると聞かされているようで、余計イライラした。
「うるせぇ!そんなのお前に言われる筋合いはないんだよ。景子にはさっき謝ったからその話は終わってるんだ。おまえは、いい加減ここから出て行けよ!邪魔なんだよ」
「ふ~ん。ちょっと悪いと思ったけど、さっきの話聞かせてもらってたんだ。謝ったって言ってるけど、自分が思ってる以上に景子ちゃんは傷ついてるよ。そこのとこきちんと理解しているのか疑問に思うね。そんな君の言うことをなんで聞かないといけないわけ?」
「えっ?高倉さん聞いてたんですか?」
青天の霹靂というべきか、まさか宗佑に聞かれていたとは思っていなかった。
そういえば・・・と景子は宗佑が話に入って来た時のことを思い出す。
登場したタイミングが非常に良かったような気がしていたが、聞いていたなら納得がいく。
・・・だが、納得は出来ても恥ずかしさは消えない。
怒って泣いて顔もグチャグチャで、行動も見れたものではなかっただろう。
まだ長年付き合ってきた幼馴染である竜弥には見せれても、昨日会ったばかりの宗佑に見られたのは非常に辛い。
いや、宗佑だからこそ見られたくなかったと、景子は思った。
穴があったら入りたい・・・・。
隠れたい気持ちになるのも無理はない。
それほど乙女の心は繊細でナイーブなのである。
そんな景子の様子を見て、宗佑は謝罪の意味を込めてぽんぽんと頭を撫でる。
撫でられたことに驚き、顔を上げる景子――の表情は破壊力抜群だった。
うるうると目に涙を溜めて宗佑を見上げてくる姿は非常に可愛く、抱きしめたくなる。
が、今はそういう状況ではない。我慢しなければ・・・と思うが、未だうるうると見上げてくる景子に、寧ろ自分が抱きしめないからそんな表情をしているんだと思えてくる。(大きな勘違い)
そうなってくると、何で我慢しなきゃいけないんだ。そうだそうだ抱きしめろ、と頭の中で悪魔が囁く。
遥か彼方の向こう側から天使が駄目だと言ってくるが、そんな声は無視だ。
悪魔の声にアッサリと耳を傾け抱きしめようと手を伸ばすが、その手が第三者の手によって阻止される。
勿論、第三者とは竜弥のことである。
「何するの?」
今まで以上に鋭い目つきになり、ジロッと睨まれた竜弥は一瞬怯むが、自身を奮い立たせ声を張り上げる。
「お前こそ何してんだよ!いきなり2人で見つめ合って俺を無視した上に、景子に触ろうとするな!」
「景子ちゃんが見つめてくるから、期待に応えようとしただけだよ。普通ここは気を利かせて消えるべきでしょ」
横から慌てた声で、見つめてないし期待もしてません!と景子は一生懸命伝えるが、2人には聞こえなかった。
別に2人は無視をした訳ではない。目の前にいる敵を倒すという本能が勝っただけだった。
「ふざけんな!さっきから爆弾発言落としやがって。何で部外者が学校に入って来た上に盗み聞きしてるんだよ!」
「なんか言葉だけ聞くと俺って怪しい人じゃない?失礼だよね」
「怪しいから言ってるんだろ!景子の携帯拾ってくれたことは感謝するが、俺には怪しい奴にしか見えないぜ」
近くでギャンギャン叫ばれ宗佑は顔を顰める。
もう暫く様子見をしてようかと思っていたが、あまりにも竜弥が五月蠅いので白状し、事の詳細を伝えることにした。
「景子ちゃんの友達の紗枝ちゃんって子に屋上にいるって聞いたから来たんだよ。取込中みたいだったから見守ってただけ。その時に大声で話すから聞こえたの」
「だったら最後まで見守ってろよ・・・」
「そんなこと俺がする義理ないからね。遠慮なく入らせてもらったよ」
「このやろう・・・」
眉を顰めて睨みつける竜弥の表情も迫力があったが、それを宗佑は無視する。
先ほどから一所懸命自身の服の裾をクイッと引っ張ってくる景子が気になるからだ。
竜弥には見せない表情(主に甘ったるい顔)で、景子の顔を覗き込む。
「どうしたの?五月蠅い大型犬がいたから、かまってあげれなくてごめんね。寂しくなっちゃった?」
五月蠅い大型犬?と疑問に思いながらも、先ほど宗佑の口から出て来た紗枝のことが気になり、景子は顔を赤らめながら話しかける。
ちなみに五月蠅い大型犬と言われた竜弥は怒って吠えているが、無視されている。
「なんで紗枝ちゃんのこと知ってるんですか?」
「やきもち?」
「なっ・・・違います!」
「ふふっ、分かってるよ。ただ景子ちゃん探していた時に教えてもらっただけ。俺のこと覚えくれてて、紗枝ちゃんから話しかけて来てくれたんだ」
「???」
景子が心底分からない、という顔をするので宗佑は思わず苦笑する。
「う~ん。昨日も思ったけど、やっぱり覚えてないみたいだね。影薄かったのかな?景子ちゃんが中3の時、俺は高3で同じ学園内にいたんだよ。一応生徒会長もしてたんだけど。・・・まぁ中学と高校じゃ校舎も違うから、覚えてなくても無理はないけどね」
この宗佑の発言には景子だけじゃなく、竜弥も驚きのあまり2人とも目が点になった。
高科学園は小学校・中学校・高校・大学と一貫教育をしている。
ほとんどの学生が小学校で入り、中学・高校となるとだんだん外部からの受験で入ってくる学生は少なくなる。
それぞれ試験もあるが、真面目に勉学に励んでいたらエスカレーター式で上がっていく。
余談ではあるが、景子達は中学から入ったので、そのため特に幼馴染4人の仲間意識は強かった。
一貫教育のため、それぞれ校舎は違っても交流は盛んである。
ましてや景子が中3の時の高校の生徒会長は容姿端麗・頭脳明晰・人望もあると中学でも大変有名であった。
ただ、非常に苦しい言い訳になるが、合同集会があった時に見たことはあっても生徒数も半端なく多い中、舞台の上で話す姿は景子の位置からは遠くほとんど見えなかったのである。
そして竜弥のことしか目に入っていない景子は異性に対して興味がなく、噂を聞いても凄いな、と思うぐらいでそれ以上の感情はなかった。
今目の前にいる本人にそんなことは、ぜっったい怖くて言えないが。
ちなみに竜弥は集会があるたびに寝ていたので、覚えていなかったのだと思われる。
「覚えてなくてすみません・・・。卒業生だから学校に入れたんですね」
「別に気にしてないから謝らないで。まぁ、卒業生なら誰でもってわけじゃないけどね。生徒会長してたのが良かったみたい。結構簡単に入らせてもらえたよ」
実際セキュリティー面も高科学園はしっかりしているので、卒業生でも学校を卒業したら簡単に入れるわけではない。
特に他の大学に進学をした宗佑は、事前申請をしないと学園には入れないようになっているが、そこは元生徒会長。先生からの信頼も厚いので、入りたいと言ってすんなり入らせてもらえたようだ。
「・・・・・で、その元生徒会長さんが何でここにいるんだよ?」
「あれ?まだいたの?いい加減空気呼んで消えればいいのに」
「ずっとここにいただろう!・・・はぁ。なんかお前と話してると疲れる・・・」
「安心して。俺も君と話してると疲れるから」
バチバチバチ。
2人の視線が合う度に火花を散らす音が聞こえるのはなんでだろう?と疑問に思いつつ、口を出さない景子は無意識の内に防衛本能が働いたようだ。
そうしている内にチャイムがなり、昼休みの終わったことが分かる。
「おっ。いいところでチャイムが鳴ったな。いくら元生徒会長でも授業は一緒に受けれないからな。学生の俺達は授業があるんで、残念だけどここでお別れだ。ふんっ、景子行くぞ」
「ちょっと、竜弥!手引っ張らないでよ~。あっ、高倉さん・・・わざわざ心配して学校まで来てくれたみたいで、ありがとうございます」
「俺が来たくて来たんだから、頭下げないで。そうだ!クラスまで一緒に行っても良い?なんか懐かしくて」
竜弥がたった2ヶ月で懐かしくなるわけないだろっ、と口を挟もうとしたがその前に景子が話し出す。
「そうですよね。懐かしいですもんね。良いですよ!一緒に教室まで行きましょう」
「ありがとう。本当に景子ちゃんは純粋で可愛くて優しいね」
そう言いながら景子の腕を掴んでいた竜弥の手を叩き落とす。
勿論、景子には見えないようにするのを忘れずに。
手を渾身の力で叩かれた竜弥は声を上げずに、なんとか我慢する。
少し涙目になるのは情けないが、2回目なだけあって声を出さなかった。
自分の存在を忘れたように、前をスタスタ歩いていく2人を見るのはムッとするが、まぁいいだろう。
どうせここで別れたら2人が会うこともない。
所詮高校生と大学生。生活のサイクルも違う2人だ。
一緒にいる時間が違うんだよ、と内心ほくそ笑む。
今日は告白を邪魔されたが、次はきちんとする。これまで傷つけてきた分を含めて、これからは景子のことを大切にする。
だから今のうちに話でもしていろ、と完全に上から目線で考えていたため、2人の会話を聞く事をしなかった。
今まで自身に向けていた、顔を赤らめながらも嬉しそうに話している景子の表情も気づくことなく・・・。
注意深く聞き観察していたら、2人が放課後に会う約束をしていることやそれを確認し、嬉しそうにしている景子に気づくことが出来たのだから。
まぁ、気づいていても景子の気持ちの流れを止めることが出来た・・・とは考えにくいが。
そもそも注意深く聞き観察していたら、宗佑が巧妙に仕組むだろう。
竜弥は明日、己の悲しい現実を見ることになるとはこの時思っていなかった。
だが、今まで再三重なる景子に対しての非道な態度の数々を神様は見逃してなかった、とだけ今は言っておこう。
次回でいよいよラストかな?
けど、思った以上にもっと景子たちを書きたくなってる自分がいます。
とりあえず区切りは付けますが、番外編などは書くと思います。(予定)
今日の活動報告にちょっと懺悔的な内容を書いてます。
キャラの性格がおかしくなってるぞ、的な感じです☆
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
呼んで頂けるだけで幸せなのに、評価やお気に入り登録本当に嬉しいです!(*^_^*)
本当にありがとうございます!!