◇第5話
今回特に話が長いです。
「景子、こっちに来い」
昼休みが始まり景子は紗枝も含めてクラスの仲の良い友達と話をしていた。
内心竜弥をどうやって呼び出すかな~と思っていたが、楽しく過ごしていた時に急に竜弥から呼びかけられた。
振り返ると不機嫌そうな表情をした竜弥が入口付近に立っており、景子よりも周りの友達の方が騒いでいたが、表情から見ても友達が思うような展開ではないのは目に見えている。
紗枝は竜弥のことを睨みつけながら、一緒に行こうか?と目で合図をしてくれたが首を横に振る。
紗枝を連れて行ったら心配してくれているのに申し訳ないが、火に油を注ぎそうだったから断る方が賢明だ。
「すぐ戻るから。行ってくるね」
「・・・分かった。でも、何かあったら携帯で呼んでよ」
渋々納得したのか紗枝はそれだけ伝え、友達の方へ戻る。
景子は入口まで歩いて行き、竜弥の方を見る。
「お待たせ。どこに行く?」
「・・・屋上」
「分かった」
竜弥が言葉を短く話す時はお怒りの時だけだ。
長年幼馴染をしてる自分には分かるが、今回のようにここまで不機嫌オーラを出しているのは珍しかった。これでは周りも驚いただろう。
廊下を歩いていても普段なら竜弥に熱い眼差しを送ってくる女の子達も端に避け、関わろうとしない。
陽気でクラスのムードメーカ的存在の人気者の竜弥とのギャップに、女の子達は少し怯えているようだ。
何度か怒っている時の竜弥を見たことがある景子は、彼女達ほど怖くは感じないので、普通について行く。
階段を上り屋上に着くとそこは誰もいなかった。
高科学園は屋上を解放しているので、昼休みなら誰かいるのにこれは珍しい。
けど、これからの話し合いを誰かに聞かれ、噂になっても困るので良かったと安心する。
屋上に来るまでに2人が歩いているのを大勢に見られているが、幼馴染だしただ歩いているだけで、そこまで大げさにならないだろう・・・多分。
屋上は風が強く吹き、景子は胸の位置まで伸ばした髪を下ろしただけなので、風が吹く度に手で押さえる。
両手で押さえながら、竜弥の様子を見る。
こちらをジッと睨みつけ、先ほどよりもお怒りのようだ。
無言で非難されている様に感じ、景子もイライラしてきた。
そもそもなんで竜弥が怒ってるわけ?
私が怒るのは分かるけど、竜弥に怒られる理由なんてない!
イライラしてくるとこちらの怒りのバロメーターも上がってきたようで、景子も睨みつける。
景子の様子に竜弥は内心動揺していた。
今まで自分が何をしても笑って許してくれていたのに、今日は怒るばかりか睨みつけてきた。
今日も竜弥が睨んで怒っているのをアピールすれば、景子ならまず謝ってきて私が何をして怒らしたのか聞いて来るとばかり思っていたのに、計算外だ。
まあ・・・怒ってる理由を話したら景子もきっと分かってくれるだろう。
そしていつものように景子から謝って来て、すべて丸く収まるのだ。
今までとは違う景子の様子を深く考えず、いつものように竜弥は話し出した。
それが間違いだとも気づかずに・・・。
「なんで俺が怒ってるのか分からないって顔だな」
「そうだね。さっぱり分からない」
キッパリと言い切った景子にイラっとしながらも、竜弥は話し続ける。
「昨日の午後男と街のカフェにいたのは間違いないか?」
誰に聞いたのかと思ったが、休日の街だ。
誰かが景子を見ていても可笑しくはない。きっと竜弥のクラスメイトが見て親切心かはたまたその逆かは分からないが、教えたのだろう。
2人が付き合ってると誤解していることも多いので。
「うん。お茶をしていたのは間違いないよ」
景子があまりにもサラッと言うので、竜弥は怒りで眩暈を起こしそうになった。
「なっ・・・おまえ、俺と約束をしていた後に男と会っていたのか!?」
「はぁ?」
竜弥のあまりの言い方に景子は驚きのあまりそれしか言えなかった。
何言ってるの?そっちからドタキャンして来たくせに!
自分のことは棚に上げて私を責めてるの!?
など心で思っていても、長年黙って許すことを習慣にしていた景子は思わず口を閉じる。
景子が黙ったことに気を良くし、自分のペースにやっとなってきたと思った竜弥は続けさまに景子を責めるように話をしていく。
暫くしてそれをジッと耐えていた景子が今にも泣き出しそうになっていたので、責め過ぎたかと少し後悔をしてフォローをする。
「まぁ、ドタキャンした俺も悪いけど、急に友達と用事が入ったからな。しょうがないだろう?けど、なんで男とカフェにいたんだ?」
「・・・携帯・・・拾ってもらった・・・」
「ふ~ん。景子はドジだな」
そう言って竜弥は笑った。
景子は物を落とすことはしない。だからドジではなく、落とすような何かがあったと親しい人なら誰もがそう思うはずだ。
幼馴染なら特に分かるはずなのに、竜弥はドジという一言で終わらした。
その一言で、景子は奈落の底に落とされた気分になった。
この人は今まで私の何を見て来たの?
私のことを何も分かっていない。
そうよね・・・全部今まで許して来て竜弥を増長させていた私が悪い・・・でも・・・今の言い方は酷過ぎる!
携帯落としたのは私がいけないけど、落としたのはあなたが原因でもあるのよ!
そう思った時、今まで弱弱しかった景子の目に力が戻ってきた。
だが、竜弥はまだその様子に気づかずに笑っていた。
「携帯拾ってもらってお礼にカフェしてたのか。まぁ、それならしょうがないな。もう落とすなよ」
そう言って景子の頭を撫でようと近づいてきた手を景子は思いっきり拒絶した。
パシッ!
一瞬の沈黙と手を払った音が辺りに響く。
手を払われたことで再び景子に怒りが湧いた竜弥は声を荒げようとしたが、景子の様子を見て黙った。
風が吹いても髪を手で押さえることをせず、涙を流しながらも力強い目で竜弥を睨みつける景子の姿がそこにあった。
「誰の・・・せいで携帯落としたと思ってるのよ!」
「はっ?」
「何が友達と用事が入ったよ!随分楽しそうに遊んでいたよね。友達――女の子と手を繋いで!」
「っっっ!」
竜弥は驚きのため、目を見開く。
まさか見られていたとは思ってなかったのだろう。
景子が宗佑と一緒にいたところを見られていたように、竜弥も街にいたのだ。見られているとは思わなかったのだろうか。
・・・違う。私はこんなことを言いたい訳でも思いたい訳でもない。
こんな支離滅裂な言い方で責めたい訳じゃない。
ただ分かって欲しいだけなのに!
頭に血が上ってる自分に嫌気が差し、景子は落ち着くように深呼吸を繰り返す。
高倉さんにも紗枝にもきちんと話すって言ったのに、このままじゃ駄目。
後悔しないように、話をしようって決めたじゃない。
暫くして大分気持ちが落ち着いてきた。
景子が気持ちを落ち着けてる間も竜弥は呆然とした顔で景子を見ていた。
その様子を見ると胸が痛んだ。
「ごめん。ちょっと頭に血が上り過ぎてたね。」
「景子・・・」
「・・・私が怒ってるのは、別に女の子と一緒にいたことじゃないよ。約束を破られた上に嘘をつかれたことだけ」
「・・・景子」
「別に幼馴染ってだけだし、誰とデートしてようと私には関係ないよ」
「・・・景子・・・聞いてくれ」
「もう聞きたくない!・・・けど、これからは彼女との約束は守るようにね。じゃないと愛想尽かされるよ」
「俺は・・・」
竜弥が何か言いかけたが、遮り話を続けた。
「私達お互い優しくなかったね。・・・自分のことだけでお互いの気持ちを考えてこなかった」
「・・・」
「私は色んな言いたいこと我慢してたけど、それは・・・間違いだった。竜弥のことを本当に思うなら怒って、教えるべきだった。でも嫌われるのが怖くて言わなかった」
「景子は・・・優しいぞ」
竜弥の言葉に景子は驚いた。
優しいなんて思ってるとは思わなかった。
けど、そう言ってくれるということは・・・少しでも言いたいことは伝わったのだろうか?
「ありがとう。・・・これからは我慢しないで何でも言うね。竜弥のために・・・自分のために」
「ああ。俺も悪かった・・・。景子の気持ち全然考えてなかったな」
「ふふふ、お互い様だね。これからはきちんとしていこう」
自分は上手く笑えてるのか分からなかったが、自分が出来る精一杯の笑顔を向けた。
涙で顔はぐちゃぐちゃで見れたものではないだろう。
現に竜弥の顔も潤んでよく見えない。
けど、やっとお互いが分かり合えたような気がした。
そんな風に思えるなんて思いもしなかった。
幼馴染として10年以上も付き合ってきたのに、漸くスタートラインに立てたようだ。
景子は今の気持ちを宗佑に伝えてたかった。
勇気を持って言えたのは、宗佑が昨日話を聞いてくれたおかげだ。
お礼を含めて話がしたいが、腕時計で時間を確認すると昼休みが終わるまであと5分。
午後からの授業もあるわけで、約束の5時半までまだ時間がだいぶある。
思わず溜息をつくと、竜弥が身体をビクッとさせた。
勘違いさせちゃった?
誤解を解こうと口を開く前に竜弥から話かけられた。
「本当にごめんな?」
「もう謝らないで。えっと、さっきの溜息はそうじゃなくて・・・」
「いやっ。溜息だってつきたくなるだろう・・・本当にごめんな。これからはそんな思いさせないからな!」
「・・・・・・」
駄目だ。話を聞かない癖は直っていない。
これはそうそう直るものではないようだ。
こういう時は話を別の話題にするべきだな、と思い話を変える。
「私のことはもう良いから気にしないで。それよりも彼女さんに悪いから、これからはその子のためにしてあげてね」
「はっ?」
「昨日デートしてた子の顔は見えなかったけど、お似合いな雰囲気だったよ」
「えっ?いやっ違・・・」
「これから頑張ってね」
少し寂しいし、竜弥のことは好きだったけど、2人の仲を引き裂く真似だけはしたくない。
昨日までの景子なら無理だったかもしれないが、今日は違う。きちんと目を見て応援出来る。
それも高倉さんのおかげだな。
それに今は・・・早く高倉さんに会いたい。
思ったよりも失恋したのにそこまで辛くない気がする・・・何でだろう?
疑問に思い考えようとした時、二の腕に痛みが走る。
「っっ痛い!」
二の腕を見ると必死の形相で竜弥が掴んでいた。
痛みに顔を歪めると竜弥も気づき、力を緩めてくれたが離そうとはしなかった。
「悪い!でも話を聞いて欲しいんだ!」
「分かったから手を離して」
「俺・・・俺・・・」
手を離して欲しいという願いはスル―されてた上に、また暴走しているようだ。
困ったなぁと思うが、先ほどよりも痛くなかったのでそのままにしておく。
「どうしたの?」
「景子、俺本当は・・・」
「本当は?」
「景子のことす・・・いてっ!」
「は~い。ストップ!これ以上敵に塩は送らないよ」
「えっ?」
突然景子の二の腕を掴んでいる竜弥の手が払われたと思ったと同時に、第三者の声が聞こえてきた。
さらに景子は後ろから誰かに抱きしめられていた。
パニックになりそうな展開だが、この声に聞き覚えがある。
身体はがっちり抱きしめられ動かないので、顔だけ後ろを向くと―――宗佑がいた。
「高倉さん?」
「こんにちは、景子ちゃん。危ない展開だったから助けに思わず来ちゃったよ」
「ええええっなんで~?」
屋上には爽やか笑顔の宗佑とパニックになっている景子、そして左手を抑え痛そうにしながらも宗佑と睨んでいる竜弥の3人がいた。
なんか・・・やばい感じ?
そう景子が思っていても助けてくれる人は誰もいなかった。
長い話の上まだ終わりませんでした。
次回かその次ぐらい(多分)終わる予定です。
もう少し竜弥をフォローしたかったのですが、ダメでしたね^^;
もし興味ある方がいたら番外編を書くかもしれないです。
竜弥にとって景子は近くにいることが、当り前になりすぎてたんだと思います。
だから気付かなかった。けど、気付いた時には遅かったという残念な展開に・・・・(苦笑)
さらに美味しいところはどうやら宗佑に持っていかれそうです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ラストまであともう少しです。それまでお付き合い頂けたらと思います☆