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◇第2話

気持ち的にはもっと走っていたかったが、文化部の景子の体力は長くは続かず、壁に手を置き走るのを止め呼吸を整える。

何度か人とぶつかった気がしたが、きちんと謝っただろうか。

途中呼び止められた気がするが、それも曖昧だ。

そんなことも分からないほど、動揺していたようだ。


暫くとぼとぼと歩きながらそっと周りを見渡すと公園があった。

小さい頃よく来ていた公園だ。

家の近所なので、竜弥ともよく遊んだ大切な思い出の場所でもある。

いつの間にかここに無意識に来ていたようだ。


公園に入り、ベンチに腰掛ける。

大きくなってから来ていなかったが、記憶よりも遊具のペンキが色褪せており月日を感じる。

心なしか遊具の数が少なくなったような気がした。


息を整え、2人の様子をもう一度思い出す。

凄く楽しそうだった。

女の子の方は、幸か不幸か竜弥の方を見ていたので顔も見えなかったが、反対に竜弥の顔はよく見えた。

景子と一緒の時とは大違いの、甘い表情で女の子を見ていた。

大切な――そう、彼女を見る様な眼差しで。


馬鹿みたい。彼女がいるなら、そう言ってくれたら良いのに。

なんで私と今日会おうとしたの!

ドタキャンするなら最初から誘わなきゃ良いのに!!


それでも面と向かって付き合ってる彼女を紹介されたら平然と居れるだろうか。

それは――無理だ。

竜弥が好きなのだ。

小さい頃からずっと近くで見てきた。

竜弥が言うことは何でも笑顔で聞いていた。

そんな景子の態度に紗枝や信治は良い顔をしなかったが、止めることはしなかった。

これからも同じように近くにいれると思っていたが、どうやら勘違いしていたようだ。


恥ずかしい。勝手に勘違いして・・・。

竜弥はとっくに好きな人を見つけていたんだ。

私だけ昔のまま、変わらずにいて・・・。

もしかしたらドタキャンされてたのも遠まわしに断られてた?

早く気づけって思ってたのかな。

けど、誘うのはいつも竜弥からだったし、意味が分からないよ・・・。


両手をギュっと手を握りしめ、顔を埋める。

暫くそのままでいたが、違和感を感じた。

何だろう、と思い顔を上げ両手を広げてみる。

手の中には何もなかった。

ないのが普通だが、それでは可笑しいのだ。

曖昧な記憶をたどっていくと、答えが見つかった。


あっ、携帯がない!


慌てて鞄の中を見るが、やはりなかった。

走り出す前は確かに握っていた。

落ちたら音がするのにそれにも気づかなかったようだ。


もしかして途中呼び止められた気がしたけど、あれってこの事だったんじゃ!

確か公園に公衆電話あったよね!?


バッと辺りを見回すとひっそりと片隅に残っていた。

今の携帯時代に生き残ってくれてありがとう、と思いながらボックスに入り自分の携帯番号を打つ。


番号覚えてて良かった!どうか良い人に拾われていますように。


ドキドキしていると5コール目で相手が出てくれた。


「もしもし?」


男性の声だった。声も大人びていて年上のようだ。

年上の男性と話したことはなく、緊張するが今はそんなことを言ってる場合ではない。

勇気を出し、声を出した。


「すみません。その携帯の持ち主です。拾って頂きありがとうございます。もし良ければ取りに行きたいのですが・・・」

「あぁ、良かった。落ちた時声をかけたけど、気付かなかったみたいでさ」


やっぱり勘違いじゃなかったんだ。それに呼び止めてくれたのに気付かないなんて!


「気づかなくてすみません。今どちらにいられますか?」

「取りに来てくれるの?」

「勿論です!ご都合が良ければですが・・・それか近くの警察に届けて頂いても・・・」


かまいません、と言おうとした時向こうが慌てたように景子の言葉を遮る。


「予定ないから大丈夫だよ!街にあるブロッサムっていうカフェ知ってる?良ければそこで待ち合わせしない?」


ブロッサムといえばここら辺では有名な街にあるカフェだった。

ただ主に大学生や社会人が利用しているイメージがあり、高校生の景子は入ったことはない。


「分かりました。多分20分ほどで着けると思います。ただ待たせちゃうかもしれませんが良いですか?」

「良いよ。気をつけて来てね」

「ありがとうございます。それでは、また後で・・・」

「焦らなくていいから。じゃあ、待ってるね」

「はい」


電話を切り、フ―と溜息をつく。

携帯を落としたことは最悪だが、拾ってくれた人が良い人そうで良かった。

また来た道を戻るのはしんどいが、携帯を拾ってくれた上に待たせるのは申し訳なかったので、出来るだけ早く着くように急いで向かう。



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