◇第1話
携帯の画面を見て、静かに閉じる。
届いたメール内容は、最低だった。
その内容の所為で駅前なのに、思わず涙が出そうになる。
今月に入って、今回のも含むとドタキャンは3回。
相手から誘ってきたのに、断るのはいつも向こうからだった。
悪いと思ってないんだろうな、と自嘲気味に景子は笑う。
断る方法は電話でなくて、メールで送ってくる。
それも今日は約束の時間から30分も遅れて。
返信する気もなくなり、無視をすることにした。
ここまできたら怒るのが当然だが、相手――竜弥とは幼馴染の関係で付き合っているわけではない。
小さい頃からの腐れ縁で高校も同じだった。
クラスはさすがに違ったが、かれこれ10年ほどの長い付き合いだ。
景子と竜弥以外にも幼馴染はあと2人いる。
みんな同じ高校に入学し、1年生だ。
竜弥はサッカー部に入っており、1年生ながらレギュラー候補にも上がっている。
そのため、元々顔立ちも整っているせいで同学年や上級生にも人気が急上昇しており、余計調子に乗っている感じもする。
休日に珍しく部活が午後から休みとなり、街で遊ぼうと言ってきたが案の定ドタキャンになった。
急に友達と遊ぶ事になったそうだ。
私も幼馴染で友達のはずだけど、それ以下ってことなのかな。
はぁ、ドタキャンにも慣れたよ。・・・慣れたくないけど。
空を見上げながら景子は思った。
天気も曇りで今にも雨が降りそうだ。まるで心の中を見透かされてるように。
雨も降るかもしれない中、こんな気持ちで街にいるのも億劫なので早々に帰る事にする。
駅前ということもあり、景子と同じように待ち合わせに利用している人も多い。
待ち合わせた人と遊びに行く。そんな当たり前なことも出来ずに帰ろうとしている姿は、どれほど滑稽に見えるのだろうか。
そんなことをフッと考えるが、これ以上余計惨めな気持ちになりそうだったので、考えるのは止める。
電車で帰ってもいいが、自宅までは少し遠いが気分転換に歩いて帰ることにした。
まだ2時にもなってないので、これから連絡を取ればもう2人の幼馴染――紗枝と信治に会えるかもしれない。
中学の頃から付き合ってる2人は非常に仲が良く羨ましい。
もしかしたらデートをしてるかもしれないが、その時はその時だ。
曖昧な関係の景子と竜弥とは大違いだ。
学校の友達は付き合ってると勘違いしてる人も多いみたいだが、断じてそれは違う。
確かに、休日に2人で会うのは付き合ってると勘違いも受けやすい。
しかし、デートでは全くない。これまでドタキャンがなく会った事もあるが甘い雰囲気になったことなど1回もない。
景子は竜弥のことを好きだが、向こうは幼馴染かどうでもいい存在にしか思ってないのかもしれない。
だからこんな簡単にドタキャンできるのかも、と結論が出る。
昔はこんなことする人じゃなかったのに・・・。
疲れたし、楽しくないし。もういやだなぁ。
そう思いつつ、今日のように誘われたら喜んで了承するだろう。
今日のドタキャンだって文句は言うが、怒ることはしない。
時々昔のように優しくされることもあるので、余計に好きという感情から逃げ出せれない。
そんな自分が情けなくなり、溜息が出る。
1人でいたらグルグルと同じ考えの繰り返しだ。
このままではいけないと思い、紗枝にまず連絡を取ろうと携帯を取る。
電話をしようと、ふと目線を上げる。
道を挟んで向かい側にいる人物が目に入り、愕然とした。
高めの身長に細身だががっちりとした体形。最近少し染めたこげ茶の髪。
間違えるはずがない。先ほどドタキャンをして来た竜弥がそこにいた。
隣には女の子もいて、楽しそうに2人で手を繋ぎ、歩いている。
まるでデートをしているように。
道の反対側とはいえ、呆然としている景子に気づくこともなく、2人は歩いて行く。
2人の後ろ姿が見えなくなった頃、漸く我に返り出てきた感情は怒りと悲しみだった。
最悪!友達と遊ぶなんて嘘ついて!!
携帯を握りしめたまま、その場から逃げだすように走り出す。
情けない顔を見られたくなくて、ただただ無我夢中で走った。
全5話(予定)のお話です。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。