#28 切り取られる僕と彩りの君
木金と酷い雨が続いたけれど、土曜になるとそれが嘘だったかのように晴天になっていた。
雨で蓄積された水分は、暑さで湿度となって街行く人々をじっくりと蒸している。
俺と真恋は意気込んで遊ぶぞと約束したものの、二人とも何するか思いつかず駅近くのベンチで駄弁っていた。
「あっついですねえ」
「スカートをパタパタすな。はしたない」
今日の真恋は、上こそ半袖で涼しげだが下はロングスカートで確かに暑そうだ。
だが控えめにとは言え、パタパタされるとなかなかに反応に困る。
「…装具も暑そうだな」
「装具はそんなでもないですよ。感覚あんまりないですし」
「ちょっとはあるのか」
「動かないだけ…でもないですけどまあ。押されてるな〜とかは分かります」
そうなのか。勝手に全く感覚ないかと思ってたけどそこまでじゃないんだな。
「それになんだったら私、太ももの上の方は普通に感覚ありますよ」
「へえそうなのか」
真恋は「この辺まで感覚あります」と太ももの真ん中少し上を示す。
なんかスカートパタパタより構図がまずい気がしなくもない。
「ていうかそこら辺も感覚ないなら、もうちょっと大仰な装具になるんですよ…あれ重たくて嫌いなんですよね」
軽くて膝サポート付きのやつと杖が最強なんです。とのこと。
「俺は特にそういうのいらないからなあ。バイクとか乗るなら、機械の上になんか防具したほうがいいらしいけど」
「誕生日まだですから16歳でもないですもんね。というか自転車もどうなんですか」
「なんで誕生日知って…ああ、こないだ通話で言ったか。自転車はこっち来るなら汽車だし、地元でもあんま乗らん」
「ちなみに私の誕生日は2月10日です。よく覚えておいてください」
突然だな…まだ、半年くらいあるじゃないか。
「はいよ。プレゼントは現金でいいか」
「いいわけないでしょう…」
くだらない話を延々としてるうちにも、炎天下と湿度で体力が削られていく。
俺は別に平気だけど、真恋はちょっと冷房あるところに逃がしたいな。
「移動するか。喫茶店でもファストフードでも冷房あるとこ行こう」
「そうしましょうかー。あ、私ちょっとやりたいこと思いついたかもしれません」
そういえば、と言った顔で立ち上がる。
「ん、そうか。どこに行くんだ?」
「とりあえずはカフェでも行きましょうか。そのあとで話します」
「へいへい」
ステステとアーケード街に向けて歩き始める真恋に、合わせるように横に並んで歩き始める。
「まだ地面濡れてるからな。気を付けろ」
「この前のような失態はもう致しませんよ」
と、言ってはいるが左手は俺の裾をきちんとつかんでいる。
「この左手はもうこの位置なのか?」
「え…あっ。そうです、絶対につかみやすい位置に来る己を嘆いてください」
「いや別に嘆かんけど…」
真恋と一緒に水たまりに気をつけつつ、アーケード街を目指す。
夏休みに幾度もあった光景。
ちょっとしか経ってないのに、何故か懐かしく感じるのは俺がまだ子供の時間感覚だからなんだろうか。
「ふう、生き返りますねえ」
「ちょっと肌寒いくらいだけど、ちょうどいいか」
アーケード街の喫茶店に着いて、冷房で汗を乾かす。
「才人くんはアイスココアでいいですよね」
「いいけど。それよりアーケード街で何するんだ?」
正直、それが気になって落ち着かない。
「行くところで言えば、ゲーセンではありますよ」
「そうか、ならまあいつも通りではあるか」
違う格ゲーとか、この前結局真恋はやらなかったベルスクとか思いつくところはいくつかある。
「ここのサンドイッチは野菜の量が多いんですよ」
「ふうん、おいしそうではあるな」
ハム野菜サンドを頬張る真恋を見ていたら、ココアだけでなく軽食も頼めばよかったかなと思ってくる。
「お料理するとのことでしたけど、休日じゃないとなかなか出来ないじゃないですか」
「まあそうだな、寝るのに失敗した日なんかは朝にちょっと作ってみることもあるけど」
「寝るのに失敗ってなんですか?」
む、失言したかもしれない。
しかしすぐに返さないと、心配性な真恋だし不眠症だとか言い出しかねない。
無駄な心配はかけたくないしな。
「たまーに寝違えて早く起きちゃうときがあるんだよ。そういう時はだし巻き卵焼いたり、フレンチトースト焼いたりしてる」
「寝違えたら痛くて動きたくないんじゃないですか?」
ぐっ、鋭いな…
「そこまでじゃないときだよ。1回起きたら寝られないタチでね」
「ふぅん、納得しときます」
明らかに納得はしていない顔だが、俺が譲らないと見ると引き下がってくれた。
「話を戻しますけど、私がこうやって誘うとあなたの趣味の時間を奪っちゃってるんじゃないかって思うんですよ」
「なんでだ?俺は普通に他にやりたいことあれば言うし、ゲーセンで遊ぶのも趣味だが」
料理は買い出しからとなると時間がかかるので、親に言っといて夕飯や朝でやることが多い。
そもそも、ゲーム以外に趣味作れから始まったものなんで、ゲームできるならそこまで優先するものでもない。
「真恋とゲーセン行くほうが楽しいからなあ」
「……はぁ〜、そうですか」
なんだそのため息。
「え、なんか俺気に障ること言った?」
「いや逆というか…むしろ変なときにまっすぐなのが困るというか」
嬉しいですよ。と何故かわざとらしい困り顔とともに言ってくるので訳がわからない。
「食べ終わったし、まったりもしたのでそろそろ行きますか」
結局注文してしまったハム卵サンドも食べ終わり、ちょこっとソシャゲもしてまったりしたのでちょうどいいタイミングだ。
「ああ、ゲーセンだよな」
たまに変な事言い出すことある真恋だけど、ゲーセンならまあ大丈夫だろ。
「絶対に嫌だ。やりたくないぞ俺はぁ!」
「往生際が悪いですね、これもゲーセンに置いてある立派なゲームです。楽しんでください。どぅえんじょい」
アーケード街の真ん中らへんにある、そこそこに賑わっているゲーセン。
賑わっているとは言っても、店構えが綺麗でプライズやらガチャガチャが多く並んでおりビデオゲームはかろうじて太鼓が1台あるばかりだ。
そして俺はそんなキラキラしたゲームセンターの奥、男性のお一人様だと普通に店員に注意されそうな場所にいる。
「なんで俺がプリクラなんて撮らないといけないんだ…」
「私が撮りたいからですよ。というかゲーセンの定番の一つじゃないですか」
「そうだけどよぉ…」
実際ゲーセンといえばプライズとプリクラという人は多いだろう。
今までも視界のなかには入っていたが、縁がなさすぎて見て見ぬふりをしていたものだ。
「なんで俺なんだ、常田さんとか建山さんと撮れよお」
「撮ってますよ、ほら」
見せられた手帳にはビッチリとやることや日記のような文字が並んでおり、その一画に真恋の信頼する友人とのプリクラが貼られている。
去年の日付のプリクラは、真恋の表情が今と比べると少し固い気がするが、いい写真なのはわかった。
「あんまり目とかイジってないんだな」
こういうのめちゃくちゃ目とか大きくするものだと思ってた。というかそれしか知識がない。
「そういうのは別にしまってあります。ここは普通なやつ貼るんです」
こだわりがあるらしい。ていうか、待て。
「まさか俺のも貼らないだろうな」
「………………貼りませんよ」
「俺帰る!」
絶対貼るじゃん!そんで見世物にするじゃん!!
「ちょとちょ、待ってくださいよ。いいじゃないですか、ほらお金入れちゃいましたから」
もうお金を入れたと言われて、立ち止まる。
そもそも冷静に考えると今この機械の外に出ると、キラキラゲーセンのプリクラコーナーに一人だ。
こいつ、だんだん何言えば俺がとどまるか学習してきてやがる。
「ほら、画面見てみて。美白カメラですって」
「真恋これ以上白くなったらもう能面だろう」
「私もそこまで白くはないですよ。才人くんは夏休み前と比べたら結構焼けてますよね」
「こんな出歩く予定ではなかったからな」
それで言うと、同じくらい出歩いているはずの真恋が白いのはなんでだ。
「私は出かける前に日焼け止め塗りまくりですし、時々お手洗いの際に塗り直してますからね」
「努力のうえの白さだったか」
「才人くんも何かスキンケアしたほうがいいですよ?」
そう言われて自分の肌を撫でてみる。
まあ別に良くはないんだろうな。
「見せる相手もいないからなあ」
「私が見てあげますけど」
俺の顔をじっと見上げながらこともなげに真恋は言う。
……それもそうか。
「……化粧水くらい考えてみるか」
「ならあとで買いに行きましょうね。選んであげます」
「普通に助かる」
「ふふ」
こう言ってる間にもペチペチと真恋が画面を操作して、もうすぐ撮影というくらいにまで来ていた。
「ほらまっすぐ画面見てください」
「ん、おお」
パシャリと何回かに分けてシャッター音が鳴る。
真恋は器用に表情やポーズを変えているが、俺はもう何をしたらいいか全くわからない。
「アハハハ!完全に証明写真ですよ!」
「うるさい、分かんないんだよ。何したらいいか」
「普通に笑顔でいいんですよ。ンフフもしかして、ちょっと学生証見せてもらえませんか」
そういってほぼ強奪するように俺の学生証を見ると、
「プハァっ!!表情おんなじだ!アッハハハ!」
「笑いすぎだろうがよぉ…」
「ごめんなさいごめんなさい…じゃあもうちょっと撮ってみていいやつを貼りましょう。んんふっ」
「我慢しきれてねえぞ…ってかやっぱ貼るのかよ」
その後もいろいろなモードを試したり、落書きをしてみたりして楽しんだ…うんまあ楽しかったのだけど。
そんな調子で撮りまくっていたので、気づけば結構な量の写真になっていた。
「どうすんだこんなに」
この写真とか目をデカくしすぎて、俺の三白眼がすごいことになっている。
「どうするもこうするも持って帰りますよ」
真恋が2つの袋にプリクラを分けて入れて、俺に渡してくる。
「撮ったもんだなあ」
「ええ、大満足です」
ホクホクとした顔でプリクラを抱える真恋に、我慢をした甲斐があったと思いはするが。
「しかし恥ずかしかったからもう嫌だな…」
「フフ、ありがとうございますね」
そうしてゲーセンから出て、次はどこに行こうかと話している時だった。
「え、兄貴…?」
完全に油断をしていた俺の前には、よくわからないデカい綿あめを抱えた妹がいた。




