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- Mixed blood -  作者: Dave-show
第二章 リーベン島編
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シュエン・フェイロックの日記 2

 治療術で腕の傷を癒やしながら、新しい刀をマジマジと見る。木陰から差す陽の光が、刀身に反射して目に刺さる。

 

「しかしすごい切れ味だな」

「だろ? 文句なしの特級品だ。これ以上の刀ぁ打てる気がしねぇ」

 

 とんでもない刀をもらったもんだ。こいつに見合う様な剣士にならないとな。

 

「さて、帰るか!」

 

 町に向かって帰ろうと、数歩進んだ時だった。

 

 ドォンッ!!

 

 凄まじい突風の様に、禍々しい魔力が背中を叩きつけた。体が前のめりに押し出されるほどの圧力だ。

 

「なんだよこの魔力……」

 

 俺は思わず息を呑んだ。

 

「そういやここ、封印の祠の辺りじゃねぇか……?」

 

 ヤンの声は震えている。

 

「これ、逃げたほうが良いよな……」

 

 そう思ったときにはもう遅かった。山中の木々が、不自然にへし曲がり、土が盛り上がり、巨大な影が姿を現す。

 

「おいおい……マジかよ……」

「実在するのかよこいつ……」

 

 八つの首に八つの尾。

 鱗に覆われた巨体が、大地を揺らしながら眼前に聳え立つ。神話の世界の化物が目の前に現れた。

 

「ヤマタノオロチだ……」

 

 八本の頭が、それぞれに意思を持ち、赤い瞳で俺達を視界に捉えて揺れている。その威圧感は、今までのどんな魔物とも比べ物にならない。

 

「やるしかねぇぞ! 気合い入れろ!」

 

 ヤンが咆哮する。

 

「全力で攻撃する! 守りは頼んだぞ!」

 

 ヤンは化物の正面に立つと、全身の練気を幅広の愛刀に注ぎ込み、盾のように構えた。

 

 グギャアァァァ!!

 

 八つの首が、それぞれ意思を持つかのように、地を抉る咆哮と共にヤンに降り注ぐ。

 

「うぉー!! シュエン、横から叩き斬れ!」

 

 言われるまでもなく、俺は新しい刀に渾身の力を込めて斬りかかる。

 

「キィーン!!」

 

 甲高い金属音が鳴り響き、刃が鱗に弾かれる。

 

「何だよこの硬さ!」

 

 普通に斬りかかったんじゃどうにもならない。更に精度を上げて気力を練り上げ、刀に纏わせる。刃を薄く、鋭く研ぎ澄ませる。

 

『剣技 乱れ氷刃(みだれひょうじん)

 

 練気で研ぎ澄ました刃を、無数に斬りつける連続攻撃。激しい金属音が鳴り響き、ようやく深手を負わせる。

 

「ギャァァァ!」

 

 オロチの悲鳴と共に、首を一本切り落とした。生々しい血飛沫が舞い上がる。

 

 よし! いける!

 と思った瞬間、オロチの巨体が唸りを上げ、八本の尾が鞭のように俺に襲いかかった。

 

「ぐぁっ!」

 

 強烈な衝撃が脇腹を打ち、吹き飛ばされた俺は岩に叩きつけられた。激痛に意識が飛びそうになる。

 ヤンは残り七本の首の猛攻で手一杯だ。近づけば八本の尾が飛んでくる。どうする……。

 

「ヤン! 十分……いや五分だけ持ちこたえれるか!?」

「言ってる間に早く練り上げろぉ! もう持たねぇぞ!」

 

 体中の気力。頭の先からつま先までの全気力を、残らず練り上げる。

 集中しろ……失敗すれば俺たちは死ぬ。

 ヤンが鍛え上げたこの刀を信じろ。薄く鋭く、全ての練気を刀に纏わせる。俺の全てをこの一撃に込める。今の俺が繰り出せる最高の一撃だ。

 

「ヤーン! 伏せろォォォー!!」

 

『剣技! 横薙一閃(よこなぎいっせん)!!』

 

 咆哮と共に放たれた全力渾身の横薙ぎの斬撃が、凄まじい風切音と共に、ヤマタノオロチの全ての首を瞬時に切り飛ばした。

 斬撃はそのまま後ろの柳の大木を両断し、岩山の奥深くに轟音と共に吸い込まれた。

 

「うぉぉ……すげぇ……」

 

 顔を上げたヤンが感嘆の声をあげた。

 

「ヤン、この刀の名前決めたよ」

 

 今の一撃で閃いた。

 

柳一文字(やなぎいちもんじ)だ」

 

「……おいおい、柳の前にとんでもねぇもん斬ってるだろ……まぁお前らしいわ」

 

 二人で力尽きて倒れ込んだ。

 

「死ぬかと思った……気力切れだ」

「だな。良く生き残ったよ……気力吸い取りゃ良かったじゃねぇか」

「流石の俺も気力までは吸収できねーよ」

 

 こんな禍々しい魔力だ。誰も気づかない訳がない。父と兄二人が駆けつけて、目を丸くしてオロチの残骸と俺たちを見ていた。

 

「お主らがやったのか……?」

「貴方の息子と俺の刀が斬ったんですよ。里中に触れ回ってくださいよ……」

 

 そのまま二人で気を失った。


  

 ◆◆◆


  

 丸二日寝込んだらしい。全気力使い果たしたんだ。よく死ななかったもんだ。

 

「シュエン様、ご無事で何よりです。目覚め次第御前にと里長より言付かっております」

「あぁ、わかった。でもヤンが心配だ。その後に行くよ」

「かしこまりました。そのようにお伝え致します」

 

 二日も床に伏せていたからか、体がダルい。鍛冶屋街のヤンの鍛冶場に入ると、金属音が鳴り響いている。今日も元気に武具制作に勤しんでいるようだ。

 

「おいおい、お前鉄人だな……もう大丈夫なのか?」

「おぉ、生きてたか! 昨日ヤマタノオロチの体皮を持ち帰ってきてよ。すごいぞこいつぁ!」

 

 変態だなこいつは……。身の危険よりも創作欲が勝るらしい。

 

「体皮は大量にあるからな。とりあえずは革鎧と篭手と脛当てを作るか。当然お前の分もな、出来たら伝えるわ」 

「そりゃありがたい。相当な物が出来そうだな」

「これも見てみろよ。こんなもん見たことねぇよ」

「でかいな。確かにここまでデカいのは見たことない」

 

 拳大の『魔晶石』だ。小さい魔晶石ですら、通常の魔石とは比べ物にならない。長い年月で出来た幾重にも重なる層が、鍛冶場の灯りを蓄え発光しているようだ。

 

「そうだ、春雪はどうする?」

「あぁ、俺にとってもヤンにとっても思い出深い刀だ。でも、お前さえ良ければそのまま俺が持っておきたい」

「元々お前ぇに譲った刀だ。返せなんて言わねぇよ。最高の状態に研いでおくからまた取りに来いよ。柳一文字も手入れしとくから置いていけ」

「分かった。ありがとな」


 武具を扱う親友の横顔は、生き生きとしている。

 

「ヤン……」

「ん? なんだ?」

「いや、何でもない。お前が親友で良かったよ」

「何だよ気持ち悪ぃな」

 

 ヤンは照れ隠しにそう言って笑う。

 

「刀と防具はまた取りにくるよ」

「おう、楽しみにしとけよ!」

 

 柳一文字を手渡し、父の元へ向とかった。


  

 ◆◆◆


  

 龍王の御前。

 二人の兄、カイエン、コウエンが両脇に立っている。

 

「体はもう良いのか?」

「えぇ、二日も寝ていたようですから」

 

 心なしか、父の顔が優しく見える。

 

「封印が何故解けたのかは判らぬ。しかし、お主らが祠の前に居たお陰で里の危機は免れた」

「たまたまですよ。俺たちが一番驚いた」

「儂らがヤマタノオロチを封印したのは知っておろう」

「へ……? いや、存じませんでした。神話の化物が目の前に出てきて驚いたんですから」

「そうか、儂らですら封印するので精一杯であった化物をお主は斬り伏せた。お主らを認めざるを得ぬであろうな。なんぞ望みはあるか?」

 

 俺の心はもう決まっていた。

 

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