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06.あとは任せて…



「すみませんが、そういった話はここですべきことでしょうか? この場を考慮したほうがよろしいかと」


 少女は早く帰りたい一心で、別の場所へ移動して、そこで最後まで話し合ってくれ――と表情に出さずに提案した。


「確かにそうだが……途中で止めるほうが、この場にいる者は事の全貌が気がするがな」

「最後までお聞かせ願いたいですわ。マリアンネ様のためにも」


 リーンハルトの言葉に追従するように、ロジーナがマリアンネのためにも事実を詳らかにするべきだと主張した。アデリナとスザンナも力強く頷いている。


「―—と、いうことだ。何も問題ないだろう」

「左様でございますか。ですが、わたしにはすでに関係のないこと。退出させていただきます」


(さっさと逃げるに限るっ!!)


 先ほどと同じ騎士団の礼を取り、踵を返そうとしたところに腕を取られる。

 強く握りしめているわけではないが、少女にはその手を振りほどく力がなかった。


(……最悪)


 心の中で悪態をつく。

 が、こうなってはもう逃げられない。

 いや、一度明かりをすべて消して、そして別の人間の幻影をまとえば――と、思考を巡らせていると、上から声が降ってくる。


「無駄だよ。でも、そんなことも出来るんだな」

「……。何のことでしょうか?」


 最悪だ。近づけば心で思っていることまで理解出来るらしい。

 少女にはリーンハルトの余裕の笑みが、悪魔の笑みに見えて仕方ない。


「君が思った通りだよ。私の『心眼』は、触れていれば対象の心までわかる」

「……なかなか厄介な異能なのですね。なら、わたしがなんの異能を持っているか、お判りでしょう? その厄介な目で見ても、わたしの異能は厄介なものです。それでも傍に置くつもりなのですか?」


 自分の方からカードは切らない。

 口にすれば、取り返しがつかなくなることも理解してる。

 だから、思わせぶりな内容で揺さぶって、自然に距離を取るように図る。


「そうだな。お前を上手く使うことが出来れば私も上に立つ者として、一段階上に上がるだろうな」

「……」


 諦める気はないらしい。

 あまり矛先が自分に向かないまま、早く終わってほしい。

 というより、あとは当人同士―—というより、ライナルトの心の問題だろう。

 ジンメル男爵に関することは、背後関係を調べるのは時間がかかるはずだ。ここで決着がつけられるものではない。

 それが分からないわけではないということは、自分を逃がすがないということだろう。


 少女の読みは当たっている。

 リーンハルトにとって、王族として、未来の王としてあれと言われて育てられた彼にとって、使い勝手のいい駒は数が多ければ多いほどいい。

 少女の『霊を見る』異能だけでも、普通の人間では入れないところも霊を送り込むことによって、情報を得ることが出来る。

 もちろん証拠を手に入れることは出来ないが、そんなものは後から手に入れればいい。調べる手間が減らせるだけでも十分だろう。


 そう読めたため、マリアンネの伝言を伝えたらすぐに去るつもりだった。

 それなのに、マリアンネの言葉をなかなか信じないし、王太子であるリーンハルトまで出てくる始末。

 運がない、としか言いようがなかった。


「この場に関しては、ライナルトが決めることだ」


 リーンハルトがそう口にすると、ライナルトがハッと頭を上げた。


「お前がその令嬢を気に入って、お前の側近たちと侍っていたのは周知の事実。婚約者のマリアンネ嬢を蔑ろにしていたのも事実。けれど、お前が見ていた令嬢は虚構だった。しかも犯罪を犯している。――さて、お前はどうするべきだ?」


 もう一度、事実を突きつけられて、ライナルトは唇を噛みしめた。

 すべてが嘘偽り、貴族学校での日々。

 そして、亡くしてしまった婚約者。

 そうしたのは、好意を持った相手だった。

 でも、自分は第二王子という立場にあり、これを見過ごしてはならない。


「……ジンメル男爵令嬢を捕らえろ。発禁の香水の使用、その目的、アルテンブルク侯爵令嬢を賊に襲わせたことも関与しているのか、……尋問しろ」


 近くの騎士に命じると、二コラに対して背を向けた。


「そ、そんなっ! ライナルト様、酷いです!」

「暴れるな」

「おとなしくしろ」


 騎士の束縛から逃げるようにもがき、ライナルトに救いを求めるが、ライナルトは二コラを見ることはなかった。


「良くやった。自分の立場を理解したな」


 リーンハルトはポンっとライナルトの肩に手をやった。

 ライナルトは「兄上……私はこれからでも信用を取り戻せるでしょうか」と、弱弱しく訊ねた。

 それに対し、リーンハルトは軽く頷いた。


「かなり時間がかかるがな。―—まずは、アルテンブルク侯爵に謝罪に行こうか。何なら私も付いていこう」

「そうだ。アルテンブルク侯爵は、なぜ黙っていたのだろう?」

「さあ、それはあの少女――」


 話している途中で少女がいるべき場所に視線を移したが、そこに少女の姿はなかった。


「いつの間に……」

「夢、だったのでしょうか。彼女は……」

「いや、あれは生身の体だった。―—まあいい。今はほかにやることがある」

「はい」


 この後、二コラへの尋問や、アルテンブルク侯爵への謝罪など忙しくなるが、今はライナルト達が壊してしまったパーティの仕切り直しが必要だろう。

 貴族学校の卒業パーティでこのような過失は前代未聞だが、だからと言って卒業する者たちに悪い印象を持ったままで終わりにすることは出来ない。

 リーンハルトは卒業者たちに向かって、謝罪の言葉とパーティを仕切りなおしてほしいと告げ、会場から去った。



 ***



「ふぅ。だいぶ集まったかしら?」


 夜なのにフードを被った少女は、手に籠を下げていた。中には薬草が入っている。


「これくらいでいいの?」

『ああ、これだけあれば十分だろう』


 少女しかいないのに、どこからか声が聞こえた。

 さらに『それを数日天日に干してから、すりつぶして粉にするんだ。簡単な傷薬になる』と、声がする。


「そう、分かったわ。ありがとう。……あまり、人前に出たくないし、薬のおかげで薬師として見られるから助かるわ。できれば流行り病(かぜ)に効く薬の作り方も教えてくれる?」

『構わない』


 少女は霊が見えるため、あまり人前に出たがらない。

 人にとり憑いている霊は、恨みを持って特定の人に執着するため、その声は耳を塞ぎたくなるようなものなのだが、ほかの人にすれば、少女の行動は奇異に見える。

 そのため、少女は他人と深く関わることをしなかった。

 さて、戻るか――と思った時に、カサリと草を踏みつける音がして、びっくりして振り返った。


「やっと見つけた。なかなかかくれんぼが上手らしい」

「……王太子殿下」


 まさか見つけられるとは思わなかった。フードを被っていたし、顔は見られていないはずなのに。

 今も顔を見られないように、少し俯き加減になる。


「私は諦めが悪い質でね。弟のように諭されれば諦めてしまうような性格ではない」

「すでに、わたしには関係のないことでございます」

「おやおや、つれないね」

「わたしのような卑賎な者に、時間を取る必要はございませんでしょう」

「磨けばそれなりになると思っているが? それに言葉遣いなどに問題はない。王宮に侍女としておいて使う分には問題ないだろう?」

「……ご冗談を」


 そっと後退りするものの、その分大きな歩幅で前に出られる。

 逃げるために後ろを向けば、すぐに捕まる。かといって、このままでもじりじりと追い詰められて捕まってしまうだろう。

 また、誰も居ないこの場では、誰かの幻影を纏って逃げることも叶わない。

 じわじわと距離を詰めるリーンハルトから逃れる方法が見つからないまま、前と同じように腕を掴まれてしまう。


「捕まえた」


 嬉しそうに言うリーンハルトを余所に、少女は極度の緊張の末、意識を手放した。



 ***



 少女が目覚めた時、天蓋付きの豪華なベットの上だった。


「……」


 ここ何処、とは言わない。おそらく王宮の一室だろう。リーンハルトに連れて行かれたに違いない。

 体を起こすと、髪の毛がはらりと肩に落ちて、当たり前だがフードを被っていないことに気づく。

 慌てて隠すために何がないかと探すと、ベッドの横にリーンハルトの姿を見つけ、思い切りビクついた。


「!」

「ようやくお目覚めか。意外と気が弱いのか?」


 リーンハルトが意外そうな表情で少女を見る。

 卒業パーティーに単身乗り込んで立ち回ったのが信じられないほどに、今の少女は弱々しかった。


「……あの……わたしの服は……」

「ああ、申し訳ないが、王宮に似つかわしくないので、着替えさせた。服はこれからお仕着せを着ることになるから、不要だろう」

「……」


 リーンハルトの有言実行を目の前にして、少女はまたもや意識が遠くなりかける。

 が、リーンハルトは、二度もそれを許すような性格ではなく。


「おっと、しっかりしてもらおうか」

「……わ、わたしを元の場所に返してください」

「そうだな。役に立ったら、里帰りを許すくらいの寛容さはある」


 とどのつまり、リーンハルトが満足するような働きをしない限りは戻れないわけで。しかも、里帰りと言うからには、一時的なものなのだろう。


「わたしの意思は……」

「私に意見したかったら、それ相応の働きを見せることだ。有能な者は嫌いではない。大事にするよ?」

「……」


 少女は逃げられないことを悟る。

 いや、ここは従ったふりをして、逃げる手段を探すべきか。

 なんにしろ、権力者には関わりたくない。師の教えでもある。


「さて、君の考えが手に取るように分かるが……まずは名前を教えてくれるかな?」


 リーンハルトは少女の思惑などお見通しという風だ。

 それでも構うことなく、自分の要望を口にした。




キリのいいここまでは出来たので、あとは更新頻度は下がります(*- -)(*_ _)ペコリ

マリアンネと少女の出会いのこととかを書いて予定です。

続きは…今連載している話の更新と折り合いを付けながら考えたいと思います。

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