05.剥がれ落ちて現れた本性
少女の願いは、自分のためのものではなかった。
けれど、それはマリアンネの願いを否定するもので、リーンハルトもライナルトも戸惑ってしまう。
「それは……どういうことか?」
少女はマリアンネの願いを否定することを言ったため、今までの行動と矛盾が生じる。
それは今のライナルトにとって、受け入れられる範囲を超えている。
けれど、少女にとっては、今この時にしか話す時間はなく、思いやりを押し込めて語りだした。
「……先ほど、マリアンネ様は賊に襲われたと言いましたが、その賊を雇ったのがジンメル男爵だからです」
少女はそう言うと目を閉じた。
余計なことだったのかもしれない。けれど、少女はマリアンネを襲った賊に憤りを感じ、周辺にいた霊に事件のことを訊ねたことがきっかけだった。
適当に話しかけた霊は意外にも親切で、賊のことを覚えていて独自に調べてくれたらしい。
そして、賊とジンメル男爵が会って、報酬を受け取っていたことも報せてくれた。
「霊からの報告のため、信じられないことかと思います。ですので、王都の西にあるグラオの森を拠点にしている『シュライエン』と名乗る賊を調べることをお勧めします。賊、というより犯罪組織に近いでしょうか。お金を積めば、なんでもしてくれる裏の便利屋です。裏に詳しい者なら聞いたこともございましょう。そして、彼らを捕まえれば、おのずと真実は知れましょう」
淀みない少女の言葉に、リーンハルトはすぐそばにいる騎士に賊を捕まえるよう通達を出す。
王都の西にあるグラオと呼ばれる森がある。王都に出る際に賊に襲われたという話が何件かあった。辻褄は合う。
「なるほど。これを機に奴らを一掃するのもありか。ちなみにほかにどんな悪事を働いているか知っているか?」
「……存じ上げません。今回はマリアンネ様のこともあり、必要があったから調べたまでです」
それを調べるのがあなた達の仕事でしょう――と言外に含ませて、呆れを多分に含んだものを返した。
それについてリーンハルトは苦笑する。
「確かに。その通りだな」
「兄上……」
「ライナルト、お前も、いい加減しっかりしろ。お前が見てきたものは虚像だった。そして、今日の出来事はお前の汚点として残るだろう。だが仕方ない。事実だからな。そこから挽回するんだ」
「……はい」
リーンハルトは厳しい言葉をライノルトに投げつけた。
今ここで労わるような言葉を口にすれば、今後逃げることばかりになってしまう。そうさせないためにも、リーンハルトは事実を口にした。
少女はどうなるかと思ったが、あとはこのまま任せて構わないだろうと判断し、そっと離れようとした瞬間。
「どこへ行く?」
リーンハルトの言葉に、びくりと肩を揺らす少女。
「わたしはもう、必要ないかと思われましたので」
だから放っておいて――と思うのだが、リーンハルトは気遣うことなく少女に近づき、その肩にポンっと手を置いた。
「これから事件の調査やジンメル男爵のこと、諸々忙しくなるだろう。礼をしている暇がない。少し王宮にでも滞在し、待ってもらえるだろうか?」
リーンハルトの『王宮に滞在して』という言葉に周囲がざわつく。
平民の少女に対してあるまじき対応だ。
だが、少女はそれを好意として受け取らず、小さく身震いして。
「お、恐れ多いことでございます。それに、わたしの願いは第二王子殿下に叶えていただければ済むことですので」
「そうは言うが、それだけではとても礼を尽くしたと言えない。王族としてのプライドもある。弟――第二王子を危険から守ったこと、これはそれだけで済むようなものではない。分かってもらえるかな?」
二コラがどんな目的をもってライナルトに近づいたのかは不明だが、王族を意のままに操ろうなど、看過できるものではない。
それを阻止した少女への恩賞は、王族として相応しいものを送らなくてはならない。
リーンハルトの言うことには筋が通っているように思え、少女は断る理由を懸命に探す。
けれど、少女が答える前に、今まで黙っていたニコラが口を開いた。
「お前……わたしに対してだけでなく、お父様まで!」
そう言って、少女に飛びかかろうとしたが、ライナルトに止められる。
腕を取られていた二コラは、ライナルトを忌々し気に見た。
その視線は、今まで向けられたことのない冷たいものだった。
彼女の腕を握っている手に力が籠る。二コラが痛みに顔をゆがめた。
「……なぁ、ニコラ。お前が貴族学校で見せていたのは嘘だったって、まだ信じられないよ。でも、か弱いふりをして、マリアンネに虐めれられたと嘘をついのは事実なんだな。……あげくの果てに賊に襲わせて……彼女を殺したのか?」
ライナルトにとって、今までのことを全て否定されたかのようなもの。
せめて、マリアンネが賊に襲われたのは、偶然であって欲しいと思うのは、ライナルトがまだニコラを信じたいからだろう。
そんなライナルトの心情を思いやることなく、ニコラは苛ついた声で答えた。
「あの女が偽善者ぶって孤児院の慰問なんて行くから、そんなことになるのよっ!」
切れ気味に言った言葉は、ライナルトの心を抉った。
貴族の義務ともいえる孤児院への援助や慰問を、偽善と言い切った二コラに。
「……そう、か。それが、君の答え……なんだな」
ライナルトは力なく呟いた。
これはまだ帰れそうにないかな――と、少女はの中でぼやき、小さなため息をついた。




