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04.願い事

本日2話目です。



「う、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だっ!! そんなこと、信じられない!」


 ライナルトは少女の言葉を否定した。

 いや、受け入れらなかったのだ。


「横から口を出せてもらうが……君の言うことは真実なのか?」


 リーンハルトは少し離れた所にいたのだが、話に入るためにと話の中心に近づいてきた。

 少女はこくりと頷く。


「事実でございます」

「では、どうして君は、マリアンネ嬢が賊に襲われて亡くなったことを知っているのだ? それに彼女の遺言とも言えることを知っている? アルテンブルク侯爵からは何も連絡がない」

「それは……」

「君も、賊の一人だからか?」


 リーンハルトはそう訊ねると、帯剣していた剣に手が伸びる。

 少女はそれに臆することなく、口を開いた。


「わたしは『死者が見える』異能ですので。マリアンネ様は亡くなられた後、わたしのもとに訪ねてこられました」

「どうして君のもとに?」

「死者にとって、わたしはほのかに光って見えるそうです。わたし自身にはわかりかねますが。それゆえ、死者はわたしを見つけやすいようでして。マリアンネ様は心残りであった第二王子殿下の望むままにという一言を伝えたいと、わたしに願われたのです」


 少女は淀みなく答えた。

 実際は、そんなに感動的なものではなかったが。



『あなた、わたくしの願いを聞いてくださるわね?』

「いえ、わたしには無理です。上流階級の方々がそろう場に行かなければならないなんて……」

『あら、ほかの死者ものの願いは聞くのに、わたくしの願いは聞いてくださらないの?』

「ほ、ほかの方は、対価をもとに願いを叶えてますっ!」

『あら、そう。なら、わたくしは貴族がそろう場に出てもおかしくない程度のマナーを教えて差し上げるわ』

「いえ、そもそも行かなければ済む話ですのでっ」

『……そんな。……酷いわ。そうやって貴族だからと逆差別するのね。貴族学校でも変な噂を流されたわたくしに、またもやこのような仕打ちをするなんて……神様は意地悪だわ』

「いえ、あの、その……」

『言い訳はいいわ。でも仕方ないわね。もう、わたくしは自分の願いを叶えられないまま消えていくしかないのだわ……』

「……分かった! 分かりました! あなたの願いを叶えればいいんでしょう!?」

『まあ、ありがとう』



 出会った時を思い出して、少女は遠い目になった。

 おそらく、ライナルトが思うほど、マリアンネは純粋ではない。

 いや、違う。

 死者になると、生前の柵がなくなるせいか、生前よりも自身の願いを叶えるために、周囲に気を遣うことがなくなる。

 そもそも、気づく人がいないため、気を遣う必要がないとも言えるのだが。


 少女の本来の異能を考えれば、割に合わないことをしているのだけれど、押しに弱い少女は死者の願い事を叶えるだけ叶えて、逃げられることもしばしば……。

 実は、かなり不憫な性格なのである。



「――では、マリアンネ嬢の願いで、貴族学校に入り込むなどという無謀なことを仕出かしたのか、君は」


 話しかけてきたのはリーンハルトだった。

 第二王子の婚約者の死亡となれば、国の一大事。すでにライナルトの手から離れ、リーンハルトの主導になっていた。


「わたしには死者が見えても、他者に死者を見せる力はありませんので、信じていただくしかございません。ですが、この場に来てもおかしくはない程度のマナーを、マリアンネ様から教えていただきました」

「なるほど。確かに歩いてライナルトの前に出て話しても、マリアンネ嬢としては違和感があったが、浮いてはいなかったな」

「それはようございました」


 少女は手を胸に添えて、軽く礼をした。

 貴族令嬢ではないのでカーテシーは出来ない。そのため、少女は自分が知る礼をしたのだった。

 ……ちなみに、騎士に倣った、騎士団の礼である。

 平民の服を着て、けれど言葉遣いは丁寧で、礼は騎士団のもの――そのちぐはぐさに、リーンハルトの表情が和らいだ。

 思ったより掘り出し物かもしれない――と、リーンハルトはこっそり思う。使い勝手のいい駒になりそうだ、とも。


「話は分かった。それで、賊はどうした?」

「その、まず、お願いがございます」

「願い、だと?」

「はい。わたしはマリアンネ様の願いを叶えました。ここに来た理由はもう一つ、わたしの願いを叶えていただくためです」

「お前の願い?」

「はい」


 少女は小さく頷いた。


「マリアンネ様にいただいた対価だけでは足りません。というより、貴族の作法はわたしには必要ありませんので」

「なるほど。しかし、いち平民が王族に対価を求めるなど、傲慢だと思わないか?」

「王族、貴族、平民――それは、そこに生まれたというだけであり、何を為したかが大事なことです。いまだ子息の立場におられるあなた方は、これまでに何を為したと言われるのでしょうか?」


 言葉こそ丁寧だが、敬意を払ったの言葉ではない。

 当然かもしれないな、とリーンハルトは素直に思った。

 立場こそ王族、貴族と人の上に立つ位置にいるが、それは親がその立場であるというだけ。ここにいる者たちは親に倣うべく勉強中の身で、単身で何かを為したことがあるものはほとんどいないだろう。

 目の前の少女はわからないが、平民でありながら一人で生活できる者のほうが、しっかりしているのだと改めなおした。


「で、願いとは?」

「それは、第二王子殿下に」

「弟に?」

「私……か?」


 ライナルトは急に自分のことを出されて、呆けた顔で少女を見た。

 視線を受けて、少女は頷く。


「はい。マリアンネ様の願いは『思いのままに』。わたしの願いは、マリアンネ様の願いを潰すようなものですが……どうか、ジンメル男爵令嬢だけはお望みになられませんように」



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