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クマさんと鬼ごっこ  作者: 有北真那
Chapter-4 繋グ意志、揺レル意思 -心-
22/25

19匹目 銃火 -ヒトとして-


明けましておめでとうございます\(^O^)/

今年もルキをよろしく☆




 しかし飼い主は気付く。砂埃に写るシルエットには巨体が1つ。その巨体は小柄な影を抱き上げていた。

「バカなっ!? 笛の支配を無視したというのか!?」

 視界が晴れると、熊はそこにいなかった。


「河浦……なのか?」

 熊は西川をこれから始める戦いに巻き込まないよう離れたとこに寝かせた。

「………」

 人の言葉がまだ話せるのか、もう話せないのかは分からないが、熊は黙ったままその場を去った。

 彼女の横には気を失ったままの井川もいた。

「河浦……死ぬなよ」

 その言葉に熊は一瞬だけ動きを止める。がすぐにYamazakiのもとへ歩いていってしまった。


「なるほど……あくまでも警察としてこの僕を倒すつもりなんだな」

 俯いたままで表情の分からない不気味な河浦に対し、Yamazakiの右腕には気を凝縮させたオーラが集まっていく。

「……!!」

 一度大きな深呼吸をした河浦はゆったりとその瞳を開いた。

 決意を失った、生気のない闇に落ちたような瞳だ。

 Yamazakiがその瞳を見たのは一瞬だった。河浦の身体は煙のように消えて、代わりに左頬を強烈な衝撃が襲った。

 状況を理解する前にさらに3発ほどの衝撃が身体を貫く。

「ギ……ギザマァ!!」

 左手で鼻血を押さえるYamazakiは追撃してきた河浦に渾身のカウンターをお見舞いする。

 混沌のオーラは花開くかのように広がり、河浦は腹で鈍い音を奏でながら返り討ちにあった。

「グオォォォォォ!!」

「ハァァァァァァ!!」

 宙を舞う血潮と咆哮。

 人を超えた……いや、人から堕ちた熊2匹は互いの拳を交互にぶつけていった。

「はぁ……はぁ……河浦」

 激痛に耐えながら目を覚ました井川は壁に寄り掛かるように立ち上がる。

「グルゥゥゥ……!!」

 ただの殴り合いとなった戦いの最中、河浦と井川の目が合った。

 見た目は完璧な熊となってしまったが、井川はその瞳から何かを感じ取り、拾い上げた拳銃を静かに構えた。

「ゴオォォォォ!!!!」

 河浦はYamazakiの身体にしがみ付くと、そのままほぼ大破しているヘリへと突っ込んだ。

「何を……っ!?」

 Yamazakiの視線の先には井川がいる。脚も腕も震えているが照準だけはしっかりと定まっていた……ヘリのエンジンへ。

「や、やめろぉぉぉぉーーーーー!!!!」

「撃てーーー、井川ーーー!!!!」

 血が滲む口から発せられた言葉を最後に、河浦はYamazakiもろともヘリの爆発に呑まれ、地上へ堕ちていった……。


「……うぅ」

 井川はその場に崩れ、横向きに倒れながら泣いた。

 身体の痛みなんかよりも、もっと大きな傷を抱えてしまったのだ。

「……井川」

 西川は床を這いつくばるようにして井川の横まで辿り着いた。

「俺は……友をこの手で……うぁあああぁぁぁぁぁーーー……………」




 タワー・特別展望台―――


 大展望台から続くエスカレーター、エレベーターを乗り継ぎ、聖夜と梢は東京タワーの特別展望台の入り口に立っている。

「……梢?」

 聖夜は眼下に広がる夜景に目をやりながらそっと呟いた。

「なーに?」

 風になびく髪を手で優しく押さえながら梢は聖夜の横顔をじっと見ている。

「この戦いが全部終わったら……また一緒に暮らそう」

「……ふふ、当たり前でしょ……家族なんだから」

 かすかに紅潮した夫の頬を、妻は気付かないふりをしながらその大きな背中に額を当てた。

「……行くか」

 胸を駆ける衝動を抑え込み、聖夜は梢の半歩先を歩きながら中へ入っていった。


 そこには射し込んだ月の光以外明かりはなく、2人の足音以外に音はない。

「フィリス!?」

 聖夜は先の見えない暗闇へ声を投げた。

「……ようこそ、小口聖夜巡査長、小口梢元隊長」

 冷たい声と一歩ずつ大きくなる足音の方へ2人は銃口を向ける。

 重苦しい雰囲気に包まれた空間で聖夜の頬を汗が伝った。

「銃を下ろしてくれる?」

 月光に照らされた彼女は丸腰なのをアピールするように両手を挙げている。

「優太と警視総監はどこだ!?」

 聖夜は口調を強めながら銃をしっかりと握り直した。

「息子さんなら今ごろ御自宅の布団の中よ」

 彼女は悪意の欠片も感じられない笑顔を見せた。

「どういうこと……?」

 テロリストの言葉を信じられない梢は一層険しい顔になった。

「私達のターゲットは警視総監。だからあなた達の子供を傷つけるつもりは最初からなかったのよ」

 彼女は手を下げるとゆっくりと窓際へ歩いて行く。

 自分を照らす月を眺めながら言葉を続けた。

「私達が警視総監をすぐに殺さずわざわざこんなとこへ連れてきたのには理由があるの。子供を一緒に連れてきたのはより注目を集めるためよ」

「お前なんかの言葉を信じろっていうのか?」

 2人は彼女の後ろに回り込んで銃口を後頭部につけた。

「私達はね……ただ、私達のことを知って欲しかっただけなの」

 窓ガラスに映る彼女の目からは一筋の雫が零れた。

「私達は……造られたの」

 彼女は俯きながら再び歩きだす。

 後を追う2人はその背中から悲しみを感じとった。

「造られた存在なのよ……」



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