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クマさんと鬼ごっこ  作者: 有北真那
Chapter-4 繋グ意志、揺レル意思 -心-
20/25

17匹目 光戦 -造られた雷-


「……マジかよ」

 高羽の放った銃弾はフィリスの足下に転がっている。

「どうかしら?」

 彼女は銃弾を広い上げながら言った。

「ちっ!」

 今度は3回引き金を引いた。

「無駄よ」

 銃弾は先ほど同様、彼女の周囲に発生した青白い電流によって動きを止められた。

「オモチャはしまいなさい」

 彼女は空中に漂う銃弾を右手で摘んでは左の掌に乗せていく。

「どんな手品だ?」

 高羽はデザートイーグルを放り投げ、闇のように黒い拳銃、黒い幻を握った。

「手品じゃないわ。これが私の……能力(ちから)よ!」

 銃弾は青白い電流に絡み付かれて宙に浮き、高羽目がけて一直線に飛んで行った。

「甘いぜ!」

 4発の銃弾は黒い拳銃の銃身に弾き跳ばされた。

「……なるほど、それが噂に聞いた黒き幻ね」

 始めこそ驚いた顔を見せたフィリスだが、すぐに高羽の拳銃が異質なことに気付いた。

「お前の相手をするのが俺でよかった」

「どういう意味かしら?」

「すぐに分かるさ!」

 高羽は拳銃を構えないまま彼女の方へ走りだした。

「黒焦げにしてやる!」

 彼女が右手を突き出すと電流は呼応するように高羽へ襲い掛かった。

 高羽は襲いくる雷の槍を銃身で切り裂きながら進んでいく。

「何なのよその銃は!?」

 フィリスは顔を歪めながら左手も使って電撃を操った。

 龍、斧、矢、剣など様々に形作られた雷は高羽を全方位から襲うが、彼の動きは悠然と漂う霊のごとく全く止まらない。

 彼女が両手を床につけると電流はフロア中に伝わり青白い光が空間を支配した。

「消しとびなさい!!」


 黒く霞む視界、焦げ臭い悪臭、ひび割れた壁と床……。

 彼女は物影に隠れ、呼吸を整えながら冷静さを取り戻していく。

「ずいぶんと派手にやってくれるなー」

 沈黙を破ったのは高羽の声だ。

「さっき言った言葉の意味が分かっただろ? ……俺にお前の電撃は効かない」

 高羽は辺りを見回すがフィリスの姿は見当たらない。変わりに視界に入ってきたのは青白い光。

 高羽は避けることなくその電撃を全身に浴びた。

「無駄だっての」

 電撃は手懐けられたかのように激しさを失い、すぐに身体の奥に染み込んでいった。

「ど、どういう……」

「そこか!」

 高羽は声のしたほうに銃口を向けて引き金を引いた。黒い拳銃から放たれたのは銃弾でなければクラッカーでも万国旗でもない。


 "光"


挿絵(By みてみん)


 全てを飲み込むかのような暗黒の光だ。

 一筋の光はフィリスが隠れている瓦礫の目前で拡散し、辺りを綺麗に吹き飛ばした。

「あなたは……何者なの…?」

 自分と同じ能力を持った人間を目の当たりにし、彼女は呆然としていた。

「昔話は好きじゃねーんだが……お前が大人しく捕まってくれるなら話してやるよ」

 高羽は依然としてその銃口を彼女に向けている。身体からはほのかに黒い電流がまとわるように漏れていた。

「な、何言ってんの? あんたの電撃だって私には……」

 言い終わる前に黒い拳銃から再び光が放たれた。

 先ほどのようにフィリスの目の前で拡散した光は彼女をドーム状に包み、発生した強力な力場が彼女の皮膚を焼いていった。

「っーーーーー!!!?」

 痛みが全身を支配し、謎に脳を埋め尽くされた彼女の口は開け放たれるが叫びは声にならなかった。

「お前がどうやって電気を操れるようになったかは知らないが、俺の黒い雷は青い電撃程度じゃ防げないぜ」

「どういう……意味よ?」

 うつ伏せに倒れたフィリスは首だけを高羽に向けた。

「……何も知らないなら教えてやろう」

 高羽は銃口の真下に彼女の頭がくるまでゆっくりと歩いていった。


 ……人間に限らず、生き物は外界から刺激を受けたり物事を考える時、神経にほんのわずかな電気が流れる。

 だがその昔、その電気が強過ぎる人間が生まれてしまった。

 まだ植民地だったその国の政府は秘密裏にその人間を調べ尽くし、実験に実験を重ねた。

 その結果、体内を流れる電気を増幅し、かつ操ることができる人間を造ることに成功したんだ。

 そして植民地だったその国は雷の力を武器に、巨額の富を気付いていった。

 だが、そんな電気を操る人間達も心は普通の人間と同じ。なぜ自分達は電気を操れるのか、なぜ他の人間を殺さなければならないのか。 出生の秘密を知った彼らはその国を滅ぼし、研究資料や実験結果などをその能力で全て燃やし尽くした。

 彼らは彼ら自身で自分達を歴史から消したんだ。


 彼らの電気には種類がある。

 黄色い電気を操る者がほとんどだったが、極稀に違う色が存在したらしい。

 電撃自体の威力は低いが物体に絡みつくことでその動きを支配する青い雷。

 物体を破壊することに長けた青よりも強い赤い雷。

 電撃によって発生する磁場や衝撃を駆使する赤よりも強い黒い雷……。


「何であなたがそんなこと知ってるのよ!?」

 フィリスは起き上がろうとしたが高羽がそれを許さない。

 銃口をこめかみに突き刺して頭を床に押し戻した。さらに右足で背中を抑えつけたら彼女に打つ手はない。

「俺は[破壊用アーティファクト・作品No.086]。大昔に造られた86番目の兵器だ」


 ガラスが割れた窓枠からは初夏の夜風が吹き込み、2人の男女の頬を嘲笑うかのように撫でていった。

 床に伏したままの女は横目で男を見上げた。

長めの黒い前髪の奥に潜む切れ長の目。その瞳はどこか寂しげに細められている。

「……私も」

 男の銃口によって頭を、右足で背中を床に押し付けられたままの女は視線を逸らしながら口を開いた。

「私も……造られた人間なの…」

 女はゆっくり瞳を閉じ、少し間を置いてからこう言った。

「私は[迎撃用アーティファクト・作品No.297]!」

 フィリスは高羽の一瞬の隙をついて銃と右足をはねのけて距離をとった。

「お前がしたいことは何だ? 何が目的なんだ?」

 高羽は銃を構えないままゆっくりと近づいていく。

「黙れ!! 私は…私は生まれてきてはならなかった存在なんだ!」

 錯乱した彼女の周囲はスパークし、青白い電流はむやみやたらに物を壊していった。

「そんなことはない。だってお前は生きてる。他の人間と同じように自分で考えて、自分で決めて……生きてる!」

 高羽は真っ直ぐに彼女を見つめる。優しくもそれでいて力強い目だ。

 すると青白い電流は引き寄せられるかのように高羽だけに向かっていった。

「お前の苦しみ……俺にぶつけてこい!!」

 銃口から走る黒い閃光は彼女の苦しみを打ち破っていく。

 激突する雷達が激しい雷鳴を上げながら、スパークは連鎖しながら辺り一体を包んでいった。

「違う!! 私は、私は……!!」

 目の縁に溜まっていく涙の粒は流れては溜まり、溢れては湧き出る。

「もういいんだ」

 高羽はフィリスをしっかりと抱き締めた。

「俺達は寿命が長い。やり直す時間だろうと、償う時間だろうと、いくらでもあるんだ」

 高羽は背中に回していた手で優しく彼女の頭を撫でてやった。

 その時だった。

「うっ、ひっぐ、ふぅっ、うぅ、あぁぁぁぁ!!」

 張り詰めた糸が切れたかのように彼女は泣き崩れ、夜空に轟く雷鳴は悲鳴となる。

(ピキキ)

 暴れ唸っていた雷は灰色の煙だけを残して消えていた。

(ゴゴゴゴゴ)

 変わりに2人が立っていた床が轟音を立てて崩落していった。


「……ぅ、うぅ」

 薄らと開かれたフィリスの瞳には綺麗な夜景が一面と広がっている。

「……くぅっ!」

 高羽は左手でフィリスの右手を掴み、右手で断崖と化した床を掴んでいる。

「高羽警視……」

 彼女は顔を上げると初めて笑顔を浮かべた。

「最期にあなたと会えて良かった……。大丈夫、死ぬのは私だけで十分よ」

 頬を薄く桜色に染めた彼女は高羽と繋がれた手を振りほどき。

「さよなら……」

 今までのような刺々しさが無くなった青白い電流は高羽の身体を包んでフロアの中へと追いやった。

「これでいい……これで」 仰向けに落下していく身体。閉ざされたまぶたの間からは大粒の滴が飛び立っていく。

「逃げるな!」

 彼女ははっと横を向いた。耳元から聞こえた声は高羽のものだった。

「生きて戦え!!」

 再び高羽はフィリスを抱き締めた。さっきより強く、さっきよりしっかり、さっきより優しく。

 そして2人は闇の中へ溶けていった……。




どうしても最近読んだ小説や見たアニメに感化されてしまう(笑)

今回もそう。

電撃を使うってのはもともとの設定だったんだけど、ちとやりすぎたwww


さて、次回は展望台2階での戦いです!

ついにその実力を見せる陽気な化学者!

叙々に明かされ始めた謎!


戦士達を待つ未来とは―――!?

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